5.作戦
円卓を四等分するように四人が腰掛ける。
誰もが死地を潜り抜けた直後。重苦しい空気の中、口火を切ったのはネクストだった。
「……確認:深蝕種の形状は基本的に実在する動物をベースにしている…というのが現在の学説だと認識しています。私の見解に間違いはありませんか?詩熾上級指揮官」
「うん。ないよ。私もあんなの見たことないね」
龍型深蝕種の出現。それは現在の深蝕種学を覆しかねない異物だった。
体躯も出自も全てが規格外。深蝕種研究にも精通した詩熾ですら頭を抱える始末だ。
「何よりあの強さ……大討伐を実行する必要を提言致しますわ」
「大討伐は過去一度しか開催されていない。八塩折の全勢力をぶつける大討伐はそう簡単にはやれないんだ」
「ですが……」
「あの、すみません。大討伐って……?」
「あ、そうだったね」
恐る恐る手を挙げて質問する。
「大討伐っていうのは、あまりに強大な深蝕種が出現して、安定した深界探査が出来なくなった時に発令されるイベントだよ。さっき言った通り、八塩折に所属する隊員全員でそいつを倒すんだ。過去には一度、肉食恐竜型が群れで出た時に実行されてそれっきり」
それ以降は何かない限り私一人で何とかなってるね〜、と続けた。
「しかしここに来て想像上の生き物が出てくるとなると……ユニコーンやら巨人やらも出てくる可能性を考えないといけないのかなぁ……」
「ご忠告:一例だけを見て先行きを思案するのは杞憂かと」
「いやぁ……ハハ、ここで人類の想像力が仇になるとは思わなかったよ」
「……火を吹く……西洋の龍や……日本の妖怪……物理攻撃が効くかどうかも怪しい存在が幾つもおりますわね……」
議論は一進一退の様相を呈している。
「そもそもこの事案、公表した方がいいの?」
「急な探査の無期限停止は不自然ですわ。何か表向きにも理由はありませんと」
「上級指揮官の権限にも限界があります。深界の全域封鎖は時間がかかるでしょう」
門外漢の舞は全く口を挟めずにいた。
「あの……と、とにかく、あの龍を早く倒さないとじゃないですか?」
「「「…………」」」
三人の視線が舞に突き刺さる。
「肯定:」
「確かに〜」
「……そうでしたわね」
白熱した議論というのは時に論点すら置き去りにしてしまうものだ。
「そうなるとやはり、深界の一時封鎖、特別討伐隊の編成は早急に行うべきですわね」
「ん、私から上に言っておくよ」
そして冷静になれば話は早い。
半日と経たない内に『二ヶ月間の深界一時封鎖、新型深蝕種討伐隊募集』の司令が下った。
当然現場に居合わせた舞、ネクスト、煌世の三人は強制参加だ。
怒涛の幕開けを見せた深界探査もようやく終わり、舞はベッドの上で大の字に転がっていた。
ふと、インターホンの音が耳に入る。
「どちら様でしょうか……っと」
「や、舞くん。私だよ」
インターホンの画面には詩熾と思わしき人間の胸が映っていた。
「悪いね。疲れてるのに加えてこんな夜更けに」
「いえ……ただブッ倒れてただけなんで、動くきっかけができてよかったです」
「ハハ、まあそりゃ倒れるか」
二人で椅子に座り、詩熾の話を聞いた。
「正直さ。今じゃ
痛いところを突いてくる。
「言いたかないすけど、まあ」
「だよね。んで提案なんだけどさ……」
「この二ヶ月で、特訓しちゃわね?」
最強の師匠からの、最高の提案だった。
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