第2話 初舞台で悔しい思いをした男の話をしよう。

「“サンシャイン劇場にいきなり

 新人を立たせるわけにはいかない〟と、

 その主演舞台より前に、

 客席が50ぐらいの小さな劇場に

 脇役で出演させてもらったんです。


 でも、本番中に緊張のせいか、

 一瞬意識を失っちゃって、

 気がついたら楽屋でした。


 後から聞いたところによると、

 周りの先輩方が助けてくれて、

 公演は、どうにか最後まで続けたとか。

 〝こんな小さな劇場の脇役も  

  ちゃんとできへんのか〟と、

  悔しくて仕方なかった。

  その時に、芝居に本気で

  取り組む決意をした気がします。」


 ザ・テレビジョンSQUARE

 2019年9月28日発行

 52ページ


 植田圭輔インタビューより引用


 家族より長い時間を過ごした人が、

 関西の人だったからか、

 関西弁を聴かないと

 落ち着かない。


 そして。


 気がつけば、

 役者で生計をたてるのは

 あきらめたのに。


 舞台を降りたのに、

 地元に戻ってから、

 1年に1回は、ワークショップに

 通っていた。


 東京と違い、水戸芸術館の

 ACM劇場が主催する

 ワークショップは、

 質が高いし、安い。


 かつて、ACM劇場が主催する、

 学校は3つあった。

 

 児童向けの演劇ワークショップ、

 水戸子供演劇アカデミー。


 大人向けのダンスワークショップ、

 水戸市民舞踊学校。


 大人向けの演劇ワークショップ、

 水戸市民演劇学校。


 入学式は5月。


 卒業公演は、2月から3月。


 もう、どれも、残っていない。


 大人になったら、市民演劇学校に

 入るのが夢だったのに、

 かなわぬ夢になってしまった。


 じゃあ、ほかは?

 よくぞ聞いてくれました。


 私は、思春期の大半を、

 地下室の、稽古場で過ごした。


 稽古とは、合法的な軟禁だと思う。


 ある意味、洗脳だったし、

 子役は、合法的な児童人身売買で、

 一度でも表舞台に立てば、

 どこから矢が飛んでくる、

 戦場に見えた。


 そして、15歳の春に、

 ACM劇場の、えっと、

 カミシモわかんないだけど、

 ACMだと、広いのは下手だ、 

 あ、思い出した、なんか、

 毎回下手からだから、

 上手待機じゃない理由

 聞いたんだよ。


 そうしたら、私はこう聞きました。


 ああ、下手から上手へはける

 登場人物って、上へあがる、

 つまり、上がって行く人なんだよ。


 上手から下手へはけるのは、

 落ちることを、意味するの。


 かみしもわからなくなったら、

 客席から見て、

 右から左へが

 上手から下手。


 左から右が、

 下手から上手。


 って、覚えておきなさい。


 と。


 女形の人だったため、

 そう言った言葉遣いだった。


 だからか、あの人と似た響きを

 持つ人は、怖い。


 それから何年か経ち。


 殺陣のワークショップに参加した時。


 発表会で。


 誰も招待しなかったわたしは、

 知らない人たちの前で。 


 意識を失った。


 見えない相手から殴られたのを

 受けた後、

 記憶がない。


 どうやって乗り越えたのか。


 記録映像の届け先を、

 誤って、実家宛にしたため、

 おそらく、家族は捨てている。


 もったいないことをした。


 でも。


 いいのかもしれない。


 ひとつぐらい、謎があっても。

 

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5次元を待ちながら。 荒川 麻衣 @arakawamai

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