5次元を待ちながら。

荒川 麻衣

第1話 ついたての男

「ふたつの物語に貴賎はないのだ。

 何故ならば僕たちは神ではないのだから。」


 梅津瑞樹著 「残機1」

 200ページより


 土下座でもしたほうがよろしいでしょうか。


 マスクの着用を強要する店員に、そう伝える。


 マスクの着用を強制する行為が、刑法上は、土下座を強制する行為と変わらないことを、彼らは存じ上げないのだろうか。


 私はこう聞いた。


 土下座を強要し、それに応じた場合。


 土下座をした場合。


 土下座をした人間が、被害者である。


 例外を除く。


 ゆえに、土下座を強要したものは、刑法違反である。


 そもそも、日本国憲法下であっても、大日本帝国憲法下であっても、土下座の強要は違法である。


 民間の場合は、足し算で判断されるため、憲法が適用される。


 行政法の場合は、かけざんなので、憲法×行政判断である。


 ゆえに、行政判断が、憲法を打ち消すこともある。


 ナチスドイツは、ワイマール憲法を無効化した。


 つまり、マスクの着用強制は、行政法下では、首長判断により、強要されることはあっても、民法下では違法である。


 ゆえに、民間企業において、マスクの着用を強要することは、違法である。


 証明終わり。


 渋谷の地下で、その人に出会ったのは、久しぶりに舞台の稽古を続いていた頃である。


 正確には対面はしていないのだが、普段と毛色の変わった、なんだろう、文学座あたりで、こういった人がいるのだろうかと思うような、要するに、2.5次元界隈であまり見ることない人たちがいたのである。


 ぐるっと見回すと、梅津瑞樹(うめつみずき)、とある。


 衝立の乙女ならぬ、衝立のおとこ、だな。


 小泉八雲と格闘していた頃だったので、心の中でそうつぶやいた。

 

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