第22話 真夏の夜の鍋
人間どもが行き交う横浜の交差点…。
今日も彼女は待っていた。
彼女の名はアザミ…。
横浜を…いや、この日の本の国の全ての悪魔を束ねる女魔王である。
「主様、今日も来ないのかな?」
主様とは、作者であるぐり吉こと、samである。
アザミはsamに対して叶わぬ恋心を抱いていた。
何故叶わぬ恋心?
samにはもうすでに愛する恋人がいたからであった。
その名はミカ。
悪魔の頂点に立つアザミでさえ、太刀打ち出来ない人物がいる。
それはアザミの世界…いや、その世界を創造した作者のsamである。
そのsamを一方的に尻に敷いているのがミカであった。
そして、その実力は決してこの世界での、samの神の如くの力を持って、虎の威を借る狐では無い。
ミカのグーパンは、samも恐れる必殺の最強技なのだ。
アザミは実力でも敵わないミカに反抗する意志は無く、samの暴言から救ってくれるミカを姉の様に慕っている。
ただ、少しだけsamからの優しさだけで良かった。
そのsamがここしばらくアザミの元へ来なかった。
「主様、どうしたのかな?具合いでも悪いのかな?」
人間どもを誑かす仕事もせずに毎日、samを待っていた…。
「samちゃん、今日は鍋食べたい!すっごく辛い鍋食べたい!!」
「このクソ暑いのに鍋?」
「うん、今日は鍋!!」
「しょうがねぇな…じゃ鍋食いに行くか」
「うん、伊勢佐木町のシャブシャブ屋さん、あったじゃない?そこで良いよ。食べ放題の店。いま、samちゃん貧乏だから安上がりだよ」
「貧乏だって、飯くらいは好きなもん気にせずに腹いっぱいに食わせてやれるぜ…しょうがねぇな、まぁ、気遣いは有難うな」
「早く行こう!お腹空いちゃった、今日は食べわよ!」
何名様ですか?
2時間、食べ放題になります。
ミカがいつものように、オーダーをする。
2種の出汁の鍋に、肉の皿が15枚。
たっぷりの野菜にニンニクと薬味と辛さを増すための大量の唐辛子を追加注文する。
ミカはsamに代わり、鍋を仕切る。
「さぁ、食べよう!食べわよ!食べ放題なんだから、samもガッツリ食べなきゃダメだからね!」
「ミカ、具合いが少し良くなったからって、大丈夫か?」
「大丈夫!」
「まぁ、ミカは俺の倍以上食うからな。今日は吐くまで食ってみなよ、つか、こんな辛くしたら、尻の穴が熱く痛くなるぜ」
「大丈夫!」
「明日、俺の尻の穴が痛くなったら、舐めてくれよ」
「バカ!!って言うか、もう食べられるよ。早く食べて!」
あっと言う間に、15皿の肉が空になり、追加で10皿につくねを3皿、モツと鶏肉も更に追加。
飲み放題のソフトドリンクは二人共コーラを追加。
テーブルの皿が、グラスがすぐに空になる。
食べ始め開始から、僅か15分で五人前を食っていた。
「少しお腹が落ち着いたね。今度はもう少しゆっくり食べようか?」
「あはは、ミカ、既に三人前以上食って、やっと普通の腹になったか?俺、結構腹いっぱい」
「何言ってんの?これから本番だよ?samちゃん、食い放題を舐めんなよ!」
「ひぇー」
「ハイ!ひぇー戴きました!!もっと食べなきゃグーパンだよ?それとも性感マッサージかな?」
「ひっひぇー!!」
「なら、食いな!」
ミカの脅しにsamは、箸をまた持った。
「そう言えばさぁ、最近アザミちゃんに会ってないんでしょ?」
「あぁ、小説書いてなかったからな。本業を頑張ってたから…」
「まぁ、それは知ってるよ。でも、アザミちゃんが心配してたよ」
「アザミに会ったの?」
「うん、病院行く途中で会ったんだ」
「ミカ、そう言えば、今日、薬飲んだか?」
「飲んだよ」
「ミカはまだ体調が完全に戻ってないんだから、アザミの事より自分の心配しろよ。まぁ、今日は調子良さそうだから、いっぱい食えよ」
「ありがと。でも、アザミちゃんは妹みたいなもんだから」
「妹って、アザミは見た目JKみたいだけど、何百年も生きてる婆さんなんだぜ…そう言う設定だから」
会話をしながらも、肉皿はドンドン空になり、更に追加をする。
「もう、二人で肉、30皿につくね六人前、さすがに俺は食えねぇぞ」
「はぁー?samちゃん、みぞおちグーパンで一回吐こうか?」
「いやいや、グーパンされたら吐くより気絶するから」
「だって、ラーメン二人前と雑炊も二人前頼んだよ?食べるでしょ?」
「味見だけ少し食べるよ」
「しょうがないな、それは許す!このミカさんに任せなさい!しばらく休んでまた食えよ!ってか、ラーメン入れる前に、肉追加しよ」
更にミカは肉を7皿追加した。
「えー?つくね品切れだって…食べたかったな」
「もう六人前食ったじゃん」
「食べ足りない」
「しょうがない、後で俺の玉でもしゃぶらせちゃるよ。つくねに似てるだろ?」
「噛み潰すよ…」
「ひぇー!」
「後、23分…」
「え?」
「後23分しかオーダー出来ないんだよ。最後のデザートまで一気に行くよ!」
「孤独のグルメのゴローさんじゃないんだからさ」
「頭の中で、孤独のグルメの曲が鳴ってるわ!」
皿を全て平らげると、ミカは鍋にラーメンをぶち込む。
煮込みながら、マロニーちゃんや野菜を追加する。
麺を食べ終わるとスープを追加し、雑炊を作る。
「チーズリゾットも追加しちゃお」
「まだ食えるの?」
「当り前だのクラッカー」
「古いな!ミカの生まれる前のギャグだぜ」
「デザートは何する?」
「ミカの食いたいもんをふたつ頼みな」
「いつものようにね?」
「うん」
samは雑炊を一口で降参。
残りは全てミカが平らげた。
そして美味そうにデザートのテラミスとジャラートを食う。
たまにsamの口へデザートを押し込みながら…。
「美味しかったね。ちょっちトイレ」
ミカがトイレに席を立つと、ウェートレスのお姉さんが伝票を持って来た。
「食い過ぎだよね?」
「いえいえ、食べ放題ですから大丈夫ですよ?」
そう言うウェートレスのお姉さんは引きつる笑顔で去っていく。
「さぁ、帰ろう。samちゃん、アザミちゃんとこ行きなよ?」
「判った、後で顔出すよ」
samはミカを送りアザミの元へと向かった。
途中のコンビニでポテチとグミを買ってアザミに会いに向かった。
「主様〜!!」
「アザミ、ほら食え!!じゃぁな」
たったこれだけ…。
「主様またね」
「あぁ、またな」
たったこれだけで、アザミは幸せを感じたのだった…。
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