第20話 バースデー前半戦

人間どもの行き交う横浜の交差点…。


今日も彼女はこの交差点に佇んでいた…。


嫉妬に溺れ、妬みを溜め込む人間どもを喰らう為に…。


彼女は淫靡な笑いを浮かべ、吐息をひとつ、ふっと吐いた…。


吐いた吐息は赤く小さな花となる…。


葉と茎に鋭い針を持つアザミの花…。


アザミの花はふらふらユラユラと狙った人間へと近づいて行く…。


しかし、宙を舞うアザミの花は、獲物に鋭い針を刺す前に彼女の元へと舞い戻る…。


彼女の元へと戻った花は、ポンと1枚の短冊へ変わり、彼女の手に辿り着いた…。


「本日休業。sam」


短冊にはこう書かれていた。



「七夕が近いからって短冊で業務連絡とは、主様粋な計らいだね…して、なんで休業?って、あら?あれは主様だ!…主様〜!!」


「おぅ!アザミか?今日、休みにしたから帰っていいぞ…じゃぁな!」


「って主様〜なんでお休みなんすか?七夕はふつか先ですよ?」


「七夕なんか関係ないよ。俺は今日は特別な日だからだよ」


「特別?あー!!今日はもしかして…ミカさまの誕生日?それなら私達もお祝いしなきゃっすよ!!」


「バーカ!お前らと一緒に祝いたくないから黙ってたんじゃんか。ミカの誕生日は俺とミカのふたりだけで祝いたいんだ。お前ら、絶対に邪魔するなよ!!」


創造主たる作者のぐり吉ことsamは、アザミにそう言い放つとミカの元へと足早に向かった。


「そう言われても、気になりますね…そうだ!邪魔しなきゃいいんだよね?姿を消してミカsamを見守るってなら良いよね?ププッ…」


彼女は小さなシラミに姿を変え、人間どもに転々と取り憑き、作者samを追った。


「ミカ、誕生日おめでとう!まずは食事に行こう」


「samちゃん、ありがと。お腹空いたね」


samはミカの手を引き、ミカの大好物のカニの店に誘った。


「予定通り、まずはカニだな。なんでも好きなもの腹いっぱい食べよう」


「うん!」


ミカはメニューを真剣に選ぶ…。


会席料理に単品を追加。


「ミカの好きなだけ注文しなよ」


次々と料理が運ばれる。


ミカは自分の誕生日なのに、甲斐甲斐しくsamのカニを食べやすく解してくれる。


「美味しいね。幸せ…」


「うん、良かった…」


ミカは運ばれた料理を写真に収め、カニを頬張る。


笑顔が絶えない。


samもずっと微笑んでいた。



「あぁー、やっぱまずはカニか…つか、ミカさま、気分上々!これじゃ、主様殴られないね、つまんない…つか、なんだな…あたしもカニ食いてぇな。姿見せたら主様怒るからな…カニの殻壷にシラミのまま入って、カニのエキスを啜ろうかな?」



「ん?samちゃんどうしたの?」


samは秘かになんだか嫌な気持ちを感じていた…。


薄っすらとアザミの気配を感じたのだった。


しかし、今日は愛するミカの誕生日。


ミカの地雷を踏む訳には行かない。


samは笑顔で答えた。


「なんでも無いよ。ちょっとタバコが吸いたくなっただけだよ」


「うん、じゃタバコを一緒に吸いに行こ!」


次の料理が運ばれる間に喫煙室へ行く。


タバコを吸いながらミカに話す。


「食事が終わったら、シーに行こう。ランドの方が良い?」


「え?嬉しい!うーん…迷うな」


「ならさ、両方行こう。シーは買い物でランドは食い歩きはどう?」


「うん、先にシーで買い物して、お腹減らしてランドに行こうよ」


「あはは…ミカにまかせた」


シーとランドのチケットを取った。



「危ない危ない…意外と主様、鼻が良いからな…見つかったら大変!つか、カニエキス、うめぇ~身体がちっちゃいと、カニ爪の先の食べ残しも食えるし、最高だね…ププッ」


samはデザートのメロンをミカが食べるのを眺め、土産の寿司を受け取った。


ミカは支払いの時に必ず行うポーズ、ジェスチャーがある。


ペイ払いは自分の股間の前、IDは胸の前でVサインをする。


「ペイで支払います」


横目でミカを見ると、ピロンと鳴る音に合わせて、何気に股間でVサインをしていたのをsamは見逃さず、つい笑ってしまった…。


「さて、1度、お土産を家に置いてから行こうか」

 

「うん」


車に乗り込み自宅へ向かった。



「シーか…こりゃ急がなきゃ…先回り先回り…」


彼女はシラミからアザミの花に姿を変え、風に乗ってシーへ向かった。

 

後半戦へ続く…。

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