第16話 ミスコン
横浜の人々の行き交う交差点から、今日のアザミは少し離れて頭を悩ましていた。
何故なら昨日、創造主である作者のぐり吉が、ぐり吉作品の登場人物のミスコン…いや、ミスもミセスも含め、誰が人気ナンバー1かを決めると通達があったからだ。
1位になれたら、自分で自由に使える部屋を貰え、主様と一緒に過ごせると言う特権を貰える。
副賞は何でも願いが一つ、叶えて貰えると言う、どちらが副賞か判らない代物だった。
しかし、この特権…皆が狙いにきているのは明白だ。
アザミは何としても、ナンバー1になる作戦を考えている。
審査員は読者様が各自一票づつ。
それに作者のぐり吉の票があると言う。
それを足し、全部で百票の奪いあいである。
「あたしゃ抜群に容姿は可愛く設定されてる永遠の17才だからね…見た目じゃ誰にも負けないよ」
「まぁ、keepのワカナやトウカも元の姿に戻りゃ、それなりに可愛いけどね」
「んと…エントリーは?グラスの中のアヤ…まぁ、こいつは来るよね…それに惚れボクロの翔子…こいつは主婦じゃんか!まぁ、いい、こいつには負ける気がしないから…」
エントリーは、アヤと翔子の他は、keepのワカナにトウカとチアキにケイコ…仮題ふみのふみ、いつきの子守唄からは梨花、カフェ&レストランはリュウちゃん…。
「何だよ!主だったところ全員かよ?keepんとこなんて4人もかよ?まぁ、やつらは見た目バケモンだしな」
「え?空飛んでのキョウコ、ポスターカラーのウミ…って誰だよ?あぁ、未発表の作品の娘達ね…これは読者様達、知らないじゃん」
「んー。そうすっと、あたし入れて、12人?この中でのライバルは、やっぱアヤかな?やつは、あざといからなー。それにふみちゃんだね。ふみちゃんは健気で結構人気あるからね」
「とりあえず、この二人は人間だしね。特別な力が無いから、あたしの思念を使って読者様達をコントロールしておこう。」
「おぅ!そうだった。あたしゃ悪魔よ!人間どもを欺き騙し、あたしに従わせる事が出来るんだから、楽勝じゃん…ププッ…」
「明日のミスコン、楽しみだな…1位になったら、お部屋で主様とムフフをするじゃん?3回はしてもらおう」
「んで副賞は…何をねだるかな?夢が膨らむなぁー。ププッププッ…バッハッハー」
アザミはすっかり、ナンバー1になる事を疑わなかった…。
翌当日、作品名とエントリー名が書かれたタスキを掛け、公園に設置したステージに横にエントリー者、12名が並んだ。
観客は中央に作者のぐり吉、脇には黒髪のみか、公園の美紀、他、作品の登場人物がズラリといる。
審査員の読者様はスマホやパソコンから、会場を観ている。
勿論、投票はスマホやパソコンから行う…。
司会者はぢぢぃ回路の娘ちゃん。
これには作者、ぐり吉から物言いがつき、ぐり吉はステージの脇へ娘を呼ぶ。
「こりゃ!むすめ!何しに来た!」
「司会者に決まってるでしょ?パパリン…」
「バカヤロー身内が来たら恥ずかしいだろ!帰れ!」
「やだょ!私だってパパリンの作品の登場人物だもん。司会者、させないなら、パパリンの秘密全部バラすよ…特にミカちゃんへ…」
「ひゃー…うぅぅ…判った…」
ぐり吉は渋々、席に戻った。
娘ちゃんの紹介で、エントリーナンバー1番からステージに立ち、アピールタイムとなる。
まずは、惚れボクロの翔子…。
驚くことに、翔子はスッピンで登場いた。
「さて、エントリーナンバー1番の翔子さん、なんと化粧で妖艶に移り変わる女の魅力を表します!」
翔子がファンデを塗り、アイラインを作り、チークを撫ぜ、グロスをひくと、平凡な主婦から男を惑わす美女へと変身する。
会場の男達は、一斉にどよめきだった。
「エントリーナンバー2番、カフェ&レストランから、チャイニーズ娘のリュウちゃんです!」
ステージのリュウちゃんは、しま○らで買ったAAカップのブラジャーをクルリと回し背中のフック側で乳首を隠し、得意のダンスをクリソクリソと踊り、観客達の苦笑を買うが、飛びっきりの笑顔でステージを降りた。
「ハイ!次はエントリーナンバー3、4、5、6番のkeepからの4人組のパフォーマンスです!」
女子高生のチアキがマイクを握り、歌を唄うと、リズムに合わせ恐ろしい姿をしたkeepの怨霊、ワカナ、トウカ、ケイコがチアキの周りでダンスを踊る。
耳まで裂けた口を開け、ピラニアの様な小さく鋭い歯を見せて、アップテンポでステージ狭しと踊りまくる。
間奏に入るとトウカが力み、パスッとオナラをすると、ポンと愛らしい小さな女子高生姿になる。
次はワカナがうーんと力み、ぷぅ~とオナラを出すと、ババンとスラリと背が高いボーイッシュな美女子に変身する。
シンガリのケイコが力むとブビビとこいたらさぁ大変!
バリバリのキャリアウーマン姿に変わり、掛けていたメガネを外し、唇に咥えウインクすると、ギャップが素敵な夜の女の雰囲気を醸し出す…。
曲が終え、軽やかに4人はポーズを決めると歓声に湧いた。
「さぁー盛り上がってきましたねー次はエントリーナンバー7番、いつきの子守唄から、梨花さん登場です!」
ピンクのバスタオルを胸に巻き、ローションのボトルを手に持って、シルバーの9本山の両枕つきのソープマットを引き摺りながらステージ上に現れた。
「さぁー何が始まるのか?70分から可能ですの、マットプレーが見れるのか?」
梨花はステージにピンクのタオルを敷き、その上にひざまずくと、ローションを両手てこねくり回し、トロリと滑らかになったローションをマットに塗る。
観客の品定めをするように観客を見渡し、優しげな笑顔を見せた。
男性陣の観客達は、もしかして、自分を選び、ステージ上に誘われるかと期待に瞳を輝かす。
梨花はステージ脇へ向くと、手招きをした。
ちょこちょことステージに上がるは梨花の息子のいつきだった。
「さぁ、これから、ツルツル滑るマットの上で息子のいつきと尻相撲をします。皆様、どちらが勝つか応援をお願い致します」
流石はプロのソープ嬢、梨花はマットの山に足指を掛け、決して倒れる事は無い。
しかし、息子のいつきを思い、わざと倒れて、いつきの勝利でパフォーマンスを終えた。
男性陣の観客は、母子の尻相撲はそれなりに楽しんだが、マットプレーが見れなかった事に、落胆は隠せなかった。
空飛んでのキョウコは紙芝居。
ポスターカラーのウミは演歌歌手のモノマネで笑いを誘った。
「次の登場はエントリーナンバー10番、仮題ふみのふみさんでーす!」
ふみは赤い腰巻きと形の良い乳房が透けて見える、薄いピンクの長襦袢を羽織り、二尺の座敷箒を携えてステージ中央に正座した。
観客様へ深々とお辞儀をすると、おもむろに、手に持つ箒で我を打つ。
ビシ!ビシ!の打ち音に、ふみは唇を噛み締めて、痛みに耐えるが目に涙…。
打たれた素肌は緋色を浮かばせ、あぁと一言、呻きを漏らす…。
事が終えると観客様へ三つ指ついて、頭を垂れた。
襦袢の乱れを直しもせずに、ふみは下手に去って行く。
「さぁ、いかがでしたでしょうか?仮題ふみのふみさんの時代SMショーのパフォーマンスでした…さぁ、おまたせいたしました。次はエントリーナンバー11番、グラスの中のアヤさん登場です!!」
アヤは胸元を強調し、腰までスリットの入ったタイトなドレスをまとい、グラスを手に現れた。
ステージから、観客席へ降りて行き、男性客の隣に座り、さり気ないボディタッチと耳へ吐息を吹きかけ、笑顔で男達を渡りながら、接客をする。
アヤのつけている香水の香りと自分の頬に触れたアヤの指先に、男性客は目尻を下げた。
「アフターに行こうよ」
男達の誘いをさらりと流し、ステージに戻ると両手を広げ、アヤは微笑み一礼し、ステージ袖に去って行く。
「流石はナンバー1キャパ嬢アヤさんでした…さて、トリを務めるは悪魔の中の悪魔!アザミからのアザミちゃんでーす!!」
ステージには1輪のアザミの花。
やっと私の番が来た。
アザミはパーカーのフードを被り、ステージ上に姿を現す。
おもむろに観客席の審査員とネットの向こうの審査員達へ、誰が1番になるべきかと、アザミは自分へ票を入れるように思念を送り、思念は審査員達に入って行く。
もう、これでみな、私の思うままに操れるとステージから降りようとすると、何やら叫ぶ声がした。
「待った!!」
スナックみかのミカだった。
ステージに上がるとミカは腰に手を当て、作者のぐり吉ことsamを睨んだ。
「samちゃーん…ちょっとこっちへいらっしゃい!!」
samはビクッとし、慌ててステージにあがる。
勿論、samは創造主たる権限力でミカと自分以外は一時停止にしている。
「あなたねーこれどー言う事?何でミスコンの事、あたしに言わないかなー」
ミカはすでにコブシを握っている。
「いや、ミカは別格だし…。ミカはリアルに存在してるし…ミカは俺の女だから、誰とも比べられないし…」
「はぁ~?で、私をハブったって?」
「違うよ。ちゃんとミスコンやるから一緒に行こうって言ったじゃん」
「聞いてない!!」
「いや、言ったよ。一昨日、ミカの部屋でやった後に」
「ウトウトしてる時に言ったの?んなの判るわけ無いでしょ!」
「ゴメンよ、聞いてると思ってたんだよ」
「まぁ、いいわ!私も出るわよ!ミスコン。嫌だって言わせないわよ!!」
samは渋々時間を戻した。
「さて!!飛び入りですか?いや、違います!!最後の最後はやはりこの人…作者のsamに愛されて、リアルな世界より小説の世界に飛び込んだ、スナックみかのミカさん登場!!」
観客達は一斉に立ち上がり、拍手でミカを出迎えた。
ミカは観客達へ天使の笑顔で微笑んで観客達へ一礼する。
ミカのパフォーマンスは必殺、天使の微笑み…。
それだけで充分とミカはステージを降りた…。
「やべーミカ様出ちゃったよ…でも大丈夫!もう、思念で審査員を操ってるもんねー。私が1番は決定でしょ!」
だが、ひとりだけはアザミの思念が効かない人物がいた。
それは創造主たる作者のぐり吉ことsamだった。
「それでは審査員達よりの集計がでました!!」
「それでは準ミスコンクイーンは…8票獲得したグラスの中のアヤさんです!」
ステージには、にこやかにアヤが立つ。
「アヤが準ミスか…まぁ、妥当かな?でもミスは私だから…」
アザミは自分の名前を呼ばれるのを待っていた。
ドラムロールが鳴り響く。
「さぁ…第1回、samワールドユニバース!ミスコンテストの栄えあるクイーンは…」
ドゥルドゥルドゥルドゥルルルー
「ぶっちぎりの優勝です!74票獲得の…」
「ぶっちぎりかよ…私は…」
アザミはステージに向かおうと立ち上がる。
「ラストエントリーの…ミカさん!スナックみかのミカさんです!」
「へ?ミカ様?へ?…」
ティアラを冠したミカは人々を癒やす「天使の微笑み」で、またステージに立った。
他のエントリー者もステージに上がり、作者のsamもステージに上がりミカに祝福をする。
アザミはsamの手を引き、samに問うた。
「主様、何で私、クイーンじゃ無かったんすか?」
「それはな、ミカ出たら俺の票はほとんどミカに入れるに決まってるじゃん」
「それにしたって100票もあるのに74票すよ?ネットの読者様票は私に入る筈なのに…」
「あぁ…あれな…お前、思念使ってズルしたろ?だから、俺、お前の思念、打ち消しといたよ…まぁ、思念使っても俺の票は90票あるから、ミカのクイーンは確定だけどな」
「ひぇー主様が90票?じゃ読者様票は10票だけっすか?」
「当り前だろ。俺の読者は10人くらいしかいないもん」
「主様、人気無いの忘れてた…ひぇーん…」
「ちなみに俺の余った票は皆に均等に入れたよ。お前以外の皆には…」
「私には?」
「バーカ、お前なんかに入れる訳ねぇだろ…お前、0票で最下位な。ミスコン出てない美紀ちゃんだって何だか票が入ってたのになププッ」
「じゃご褒美は?」
「お前なんかにある訳無い。不満ならクッサいカメムシに変えてやろうか?ん?ん?っと…さて、ブービー賞の美紀ちゃんと航太を連れてお祝いに飯でも連れて行こうかな?んで、夜はミカと二人っきりで…ププッ…」
天国から地獄へアザミは墜ちた。
まぁ、元々アザミは悪魔だし、地獄は実家があるしな…。
まぁ、憂さ晴らしに人間どもをたぶらかそうとアザミは赤い唇を舐めていた…。
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