第15話 へこむ

人間どもが行き交う交差点に、作者であるぐり吉が赤信号で待っていた。


「主様〜!」


「何だ…アザミか…」


アザミは周りにいる人間どもの時間を止め、創造主たる作者のぐり吉の前に跪き、頭を垂れた。


「主様、ご機嫌麗しゅう…アザミ、只今参上致しました」


「あぁ…あっそ…じゃぁまたな…」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」


「今日は別にお前に用は無いぞ…またな…」

  

「イヤイヤ、主様。用が無くとも少しは私をかまって下さいよー」


「んな気分じゃ無い。とりあえずコーヒー飲みに行くだけだから…周りの人達の時間も戻してやれよ…」


「主様…なんか元気無いですね?話を聞きますよ?」


「お前に話してもなー?」


「お力になりますよ…主様…」


「まぁ、ひとりでいたってしょうがないか…アザミ、公園でも行くか?」


ぐり吉は近くのコンビニに立ち寄り、ブラックコーヒーを一缶、手に取るとアザミにも何か買う様に促した。


「腹減ってないか?好きな物買っていいぞ」

 

いつになく、ぐり吉はアザミに優しかった。


アザミはポテトチップスとコーラを選び、二人は公園のベンチに腰掛けた。


ぐり吉は、隣に座るアザミの頭を、軽くポンポンとし、コーヒーをひと口飲む。


「主様…どうしましたか?また、ミカ様と喧嘩でもしたんですか?」


「いや、そうじゃない…最近、リアルな俺が調子悪いんだ」


「お身体ですか?」


「いや、身体はどこも悪くない…身体より気持ちがへこんでいるんだ…本業の方がうまくいってない…」


「それなら、今は貧乏って事?」

 

「あぁ、リアルに惚れてる女にも不自由させてる」


「こういっちゃ何ですけど、主様、普通の人より、お金、持ってましたよね?」


「普通の人は知らんけど、ちょっとトラブルあってな」


「で、お金をいっぱい使ったと…。でも、前にもこんな事、何度もあったじゃないですか?」


「あぁ、俺は波が荒いからな…少し時間あれば、また、復活してやるよ…でもな…惚れた女を今、泣かせている…それが切ない…」

 

「大丈夫ですよ…主様なら…」


「お前に大丈夫って言われてもな…」

 

「主様が愛してる人はきっと待っててくれますって…耐えてくれますって…で、もし、ダメなら、私に走ってくれたらいいじゃないですか…」


「バカヤロ!横浜のぐり吉を舐めるよ!惚れた女には、命がけだ!あいつに嫌われて離れられても、また、あいつを引き戻す!!」


「そうそう!そのいきっすよ!」


「って、自分を奮い立たせるんだけど、ひとりになると気分が落ち込むんだ…だから、小説も書く気になれない…」


「それで今、何も新作はアップしてないんっすね?」


「うん、集中出来ないからな。お前も知ってるだろ?俺がホラーやシリアスなのを書いてる時は、ホントは気持ちがハイな時だって…落ち込んでる時は、くだらないう○こやおならの話を書いてるって…」


「そうっすね…そうだったっすよね…主様、すぐ鬱っぽくなりますもんね?ではそうっすねー、主様、私の乳でも揉みますか?元気でますよー?」


「バカヤロ!真面目に話してるのに、なんでそうなる?揉むんなら、ミカの乳を揉むわ!ミカの乳首舐めたるわ!ミカに殴らるけどな…」


「アララ…」


「あいつはよ、乳触られたり、舐められるのが大嫌いなんだぜ…他はどこ触っても大丈夫なクセに…昨日もちょびっと触っただけでビンタだよ。嫌がるの判ってても、俺はミカの乳が好きなんだよ…乳首…舐めさせろー!!」


「主様…声がでかい!それじゃ、主様、また変質者扱いされますよ?」


「お前が乳の話にもっていったんじゃないか?ちっ!今日もミカを抱いてくるぞ!!」


「って、主様、ミカ様とは毎日じゃないですか…ジジィのくせに…よく毎日イケますね?」



「アザミ…お前、やっぱ下品…」  


「そりゃそうっすよー、あたしゃ主様が創造した悪魔…主様の気持ちの代弁者っすから…」


「自分で自分に話してるのと同じってことか…やっぱ、ミカを抱いて気分を直そう!そうだ!そうしよう!ミカ!待っててねー!今日もしちゃうからねー!!」


ぐり吉はミカの元へと行った…。


ミカを抱く前に気分はハイになり、手を腰に当て、軽やかにスキップをしながら…。


それを見送り、アザミは独り言ちた。


「やっぱ…主様って単純…やっぱ主様はホンマもんのアホやった…」


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