第9話 望み


人間どもが行き交う交差点の信号機の上…今日も彼女は座っていた。


「おい!アザミ!!」


「主様〜!」


創造主である作者のぐり吉の前に、アザミは膝をつき、頭を下げた。


「その堅苦しい挨拶はやらんでいいと言っただろ?」


「ハイ、然しながら、主様に対し、敬意を払いお慕い申し上げる私めと致しましては、このご挨拶は欠かせぬものと心得まする…」


「あー、ハイハイ、終わった?なら普通に話そ…」


「主様ー何だか今日は優しいっすね?」


「馬鹿だなぁ…いつもこんな感じだろ?」


「イヤイヤ、主様は私にだけは厳しいですから…私が一番お慕いしていると言うのに…」


「そうか、そりゃ悪かった。お詫びに何かひとつ、お前の願いを叶えよう」


「え?えぇー?いいんすっか?」


「うん、良いよ」


「じゃぁ…じゃぁ、主様と私の恋愛話を書いて下さい!!小説、アザミの中で…」


「うーん、いいけど俺の書く恋愛ものは、ありきたりでつまらないって評価低いよ…まぁ、最後だからいいかな…」


「ちょちょ…ちょっと待ってください。最後?最後って言いましたよね?」


「言ったよ。ホラー小説、アザミを終わらせようと思っているんだ…」


「完結っすか?私、引退っすか?」


「ほれ、新しいやつ始めたじゃん。保土ケ谷奇談ってやつ…」


「ハイ、でもそれとアザミは関係無いっすよね?」


「まぁ、そうなんだけど、スナックみかも中途で止めてるからあれも続き書きたいし、新作はもちろん一番時間をかけたいしな」


「ふんふん…で?」


「なら、人気の出ないアザミを無理矢理終わらせようと、思った次第でがんす」


「がんすっていつの時代の言葉ですか?勘弁してくださいよーアザミはこれから伸びるんですから…」


「まぁ、俺の熱の入り具合が違うと言う事で観念して消えて…」


「嫌っすよ!嫌に決まってるじゃないっすか!!」


「だから、最後に望みを叶えようと思ったんだよ…俺との恋愛話でいいの?今から書こうか?」

 

「イヤイヤ…イヤイヤ、恋愛話で主様に抱かれたいけど、引退して消えるのは辛い…」


「なら、違うのに変えたら?カニでも喰いに行く?」


「カニ…ズズズーってよだれ垂らしてる場合じゃない!」


「つか、早く決めろよ!イライラしてくる」


「あっ、ハイすみません…それじゃ…私とリアルに結ばれましょう…そうすれば消えずに済むかもですから…」


「バーカ、お前とやったってお前を消すときゃ消すよ。完結の最終話はもう決まってるんだからな」


「ひぇー、じゃぁどうしても終わらせるんですか?」


「まぁね…だから早く望みを言え!つか、お前とはぜってぇやらないよ」


「何でですか?」


「ミカに浮気したら殺すって言われてるからな。あいつはマジこぇーぞ。リアルなミカは最恐だ!」


「え?そうだった…ミカさんは敵には回せない…」


「それにお前、バァさんのクセに処女じゃん。もう、塞がってるだろ?」


「何言ってるんすか?私は永遠の17歳すよ。身体、ピチピチっすよ。胸なんか…見ます?」


「とにかく、処女はダメだ。処女はもう懲りごり…」


「何でもって言ったじゃないすかー何ならいいんすか?」


「馬鹿だなぁ…望みは、まだ終わらせないで…って言えば良いんだよ…何でもの望みはひとつなんだから」


「あっ!そうします!!」


「あはは、今日はお前をからかいに来ただけだから…これは本当のお詫びな」


創造主である作者のぐり吉は、アザミの口に熱い口づけをした…。


「じゃ、アザミ、またな!」


ぐり吉は手を振り帰って行った。




「主様はやはり私を愛してる…」


アザミは今日も勘違いをし、ぐり吉を慕う気持ちがまた強くなった…、


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