第5話 八つ当たり要員

人々が行き交う横浜の交差点…。


交差点の信号機の上に今日も彼女は腰掛け、人間どもの声を聞く…、


「はぁ~…痛めた足が良くなってきたのに、今度は肋骨だよ…」


信号機の上の彼女は、邪悪な笑みを浮かべ、ひとつ吐息をフッと吐いた…。


吐いた吐息は花に変わりに男の元へと、ゆらゆらフラフラ飛んで行く…。


男に近づき男に触れる前、男は花を叩き落とす…。


そして、花を踏み潰した…。


彼女は胸を抑え、少し寂しげな顔をした…。



「おい!アザミ!ちょっと来い!」


しかし、作者である創造主のぐり吉が呼ぶと、表情は明るくなり、作者の前に跪いた…。


「主様、ご機嫌麗しゅう…」


「はぁ~?俺は機嫌悪いぞ!」


「あらま、主様どうされましたか?」


「いや、ミカがな…つか、その喋り方止めろ!いつも普通に喋れっていってんだろ?跪くのも止めろ!ウザい!」


「すみません、直すように努力します」


「まぁいい…今日は、とりあえずお前に八つ当たりしに来ただけだからな!」


「え?え?それって、私は何も悪くないって事ですよね?なのに八つ当たりされちゃうんですか?理不尽ですよー」


「悪魔のくせに、理不尽、言うな!お前が人々にとって、理不尽のかたまりじゃないか!!」


「って言うか、さっきちょっと耳に入ったんですけど、主様の不機嫌は、やっぱ、ミカさん繋がりっすか?」


「うん…そうなんだよ…ミカが転んでな…って、お前なんかに教えるか!」


ひぇー、今日も主様は私に厳しい…。


しかし、それが最近、快感に為りつつあった…。


「主様、そこまで言ったんなら、話して下さいよー。あたしゃ、理不尽に八つ当たりされなきゃいけないんですよ?」


「お前は八つ当たり要員として、生かしてやっているのだからな…。まぁ、いい、教えてやる」


「八つ当たり要員っすか?酷いですよー」


「ん?ん?嫌か?なら、消えるか?ん?ん?」


「ひぇーん、勘弁して下さいよ」


「まぁいい…一昨日な、ミカが俺の世話をやいてる最中に転んでな、肋骨ヒビ入ったんだ…慌てて病院行ったんだけど、痛がってさ…」


「ほぅほぅ…で不機嫌に?」


「いやいや、で俺は一生懸命介抱したら、ミカ、喜んでな…」


「ふーん、それはつまらん…」


「あっ?今、何て言った?ん?カメムシになりたくなったか?」


「すびません、すびません…グスッ…」


「泣いたふりしてもダメだぞ!まぁいい…」


「ハイハイ」


「ミカ、気持ちが落ち着いたら今度は昨日生理来ちゃってさ…それがすげー重いんだよ…」


「あれは女にしか判らない…辛いっす」


「つか、お前、老婆の歳なのに、まだ生理来るのか?」


「そりゃ来ますよー。私は歳とらないじゃないですかー。主様がそう決めたんでしょ?私は永遠の17歳…」


「そうだっけ?んでな、ミカにちょっとでも触れるとすげー怒るんだよ…ちゅーをしたら、いきなりグーパンチよー。トホホ…」


「ププッ…素敵な展開…」


「あぁ?やっぱお前、カメムシな!クッサイクッサイ、カメムシな!!」


「すみません、勘弁して下さいよ、ぬ・し・さ・まぁー」


「お前、完全にナメてるな!そこへなおれ!成敗してくれる!!」


「ひぇーん…お許しを…」


「で、ミカにとりつく暇も無いから、スナックみかは連載休んでるんだよ…」


それは口実で実際は、作者であるぐり吉がスランプなのだと、アザミは心で思った…。


「で、ミカに会えないし…ミカを抱けないし、イライラしてきたから、お前をいたぶろうかとやって来た訳だ!」


「ほぅほぅ…って主様酷い!鬼!悪魔!!」


「悪魔はお前だ!コノヤロー!」

 

創造主のぐり吉は、アザミのおでこに軽く三発のデコピンをして、その場を去った…。


アザミはおでこを擦りながら思った…。


「痛くないデコピンでの八つ当たり…やっぱ、何だかんだ言っても主様は優しいな…」


アザミは悪魔のくせに、心が暖かくなった…。


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