第4話 空腹

人間どもが行き交う交差点の上の信号機に、今日もアザミは腰掛け、アクビをかみ殺していた。


退屈だなー。


最近、人間どもの欲望が渦巻いて無いしなぁー。


お腹減ったな…。


だいたいさー、殺し合う最後の叫びや心を蝕む感情を糧にするアザミ…なんて、主様もおかしいよね?


そんなのでお腹がいっぱいになる訳ないじゃんねー。


はぁ~、肉喰いてぇ…ガッツリ焼肉喰いてぇ…ちょっと青唐辛子かじってさ、白飯にタレたっぷりのカルビ、ワンバンさせてさ…腹減った…。


主様、たまには食べさせてくれないかな?


主様、ミカさんとばかり、ゴハンに行くからなー。


コンビニでポテチでも買ってくるかな?


なんせ給料日前だからな…焼肉屋なんて行けないもんね…。


それにしてもさ…給料上がらないね。


あたしゃ、この交差点に数十年も座って仕事してるんだよ?


その間、一度も給料上がってないんだよな。


いくら、働いても、月給制だから、給金変わらないし、残業もつかないしね…。


だいたい、タイムカードが無い。


始業と終業時間も無いしなぁ…。


せめて歩合でもありゃね。


あっ!主様だ!



「主様〜!!」


「なんだ、アザミか…」


アザミは創造主であるsamの前にひざまずく…。


「もう面倒だから、その跪きの挨拶は止めろ!いちいち、足を止めなきゃならんだろ?」


創造主である作者のsamは、そう言い捨てるとドンドンと先へ歩いて行く。


「待ってくださいよー主様!」


「何だよ!用か?くだらない用事なら、お前、消してアザミの連載、打ち切りな!」

 

「ちょっと酷くないですか?まだ、何も言ってませんよ?」


「ほぅ、こりゃすまない…で、なんだ?」


「主様、謝りましたね?今、謝りましたね?なら、お詫びにゴハン連れてって下さい」


「はぁ~?なんでお前と…」


「お腹空いてるんですよー。お願いします!死にそうなんですぅ」


アザミは小首を傾げてsamに媚びた…。


「なら、死ね…」


「そんな…死にたくても自分じゃ死ね無い設定にしたのは、主様じゃないですか?」


「ん?ん?死にたいのか?」


作者であるsamは、スマホの中の原稿を書き直す為、スマホを取り上げる。


「ちょ、ちょっと待って下さいよー。主様は私に厳し過ぎますよ…こんなにお慕いしてますのに…」


「お前さぁ、見た目は若いおネェちゃんだけど、実際は何百年も生きてる老婆なんだぜ…ババァに好かれてもなぁー」


「イヤイヤ、そこをなんとか…」


「しょうがないな、メシ行くか…」


「あっ!まじっすか?じゃ、三河島の山田屋さんへ…焼肉、食いたいっす!」


「バ〜カ!焼肉屋なんか連れて行くか!それに、あそこは昨日、ミカと行ったしな…うまかった…」


作者のsamは遠い目をして、昨日のミカを思い出した…。


「もう、いつもミカさんばかり…」


「肉が食いたいなら、吉野家とすき家どっちがいい?ホントなら、お前なんかパンの耳か煮干でも喰ってりゃいいんだぞ!!今日は特別サービスだ!」


「牛丼すっか?」


「おぅよ!並盛に特別におしんこも許す!」


「玉子もいいすっか?」


「しょうがないな、許す!」



主様はやはり優しかった…。


主様…好き…。


「今晩は、ミカとカニを食いに行くから、お前ひとりで牛丼喰って帰れな!!」


「カッ…カニー?カニ、喰いてぇ…カニ、カニ、カニ…ズズズッ…」


「はぁ~?牛丼嫌なら、煮干にするぞ!煮干喰ってカルシュウム補え!」


そして創造主のsamは、アザミに五百円玉を2枚握らせ、アザミの耳を引っ張り、すき家まで連れて行った…。


「釣り銭誤魔化すなよ!!」


久々の牛丼…。


samの厳しさの中の優しさを感じて、とてもおいしかった…。


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