第5話 ワラ人形の使い方を間違ったら



「これが完成すれば、私と彼の距離は縮まるはずです」


 私の名前は、アップル、中等部3年生です。

 金髪碧眼の美人だと、自分では思っています。


 黒髪でイケメンの幼馴染、ジョーとは、最近、疎遠になっています。

 年頃となって、お互いに意識し始めたのが原因なのは、わかっているのですが……



「痛いなアップル、髪の毛まで抜いたのか?」

「ごめんジョー、ごみと一緒に髪の毛も取っちゃった」


 教室の中、髪にゴミが付いていると嘘を言って、黒髪を一本頂きました。


(でも、これで、ワラ人形が完成するわ)



 そのスジでは天才といわれている私は、今、魔法のワラ人形を開発しています。


 人形の中に、人間の髪の毛を入れて、呪文を唱えれば、完成です。

 これが完成すれば、私の恋心どころか、世界を牛耳ることも可能なはずです。



    ◇



 屋敷に戻り、夕食後、寝室で試します。

 夕食は、ドキドキしていて、何を食べたかわかりません。



 呪文を唱え、魔法は、成功したと思うのですが……


 人形の手足を動かしてみましたが、相手が見えないので、効果が分かりません。


 ため息が、一つ出ました。



「本当は、ジョーのことが好きなのに、いつも、言えないの」

 人形だと、本音を話すことができます。


「人形だし、キスしても、分からないよね」

 そっと、人形に口づけします。

 人形相手でも、顔が熱くなります。


「明日は休日だし、プロポーズに来てくれないかな」

 人形に向かって、願いをなんでも言えます。


「小さくてもいいから、赤いバラの花束をもらえたら、幸せ」

 幼い頃に、約束した覚えがあります。


「仕方ない、今夜は、人形を抱いて寝ましょう」

 人形を胸に抱いて、ベッドに入ります。


 そろそろ、魔法が切れる頃です。



    ◇



 翌朝、メイドさんが、慌てています。

「アップル様! ジョー様が見えられました」


「え? 予定は、なかったでしょ」



 玄関ホールに出ると、赤いバラの花束を持って、彼が立っています。


「ジョー、どうしたの?」


「これ、アップルに、幼い頃に約束したとおり、プロポーズに来た」

 赤いバラの花束を差し出してきました。


「俺、必ず、アップルを幸せにするから」

 相変わらず、ぶっきらぼうです。


「ありがとう、うれしい」

 素直に受け取ります。



「でも、どうして急に?」

 昨日まで、全く素振りを見せなかったのに。


「昨晩、俺の手足が勝手に動き、そして、君の声が聞こえるようになった」

「え!」


「君の本音、君の願いが、聞こえてきた」


 まさか、私が話した言葉、行動、全てが……

 ワラ人形を通じて、相手に筒抜けだったの?


「まさか、口づけも……」

「唇に、やわらかい感触を感じた」


 私、次に、人形を胸に抱きしめて、ベッドに入ったよね!



 二人とも、手にしたバラの赤が反射したようで、顔が真っ赤です。




━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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