第13話

ていうか、ここを借りた理由、恋愛相談ということになってたのか。


「なんだ?仁からはそう聞いているぞww」


ニヤニヤしながらこっちをのぞき込んで見てくる先生。


先ほどの重苦しい空気が霧散し、カオスな空気へとバージョンアップ。


なんて冗談言ってる場合ではないな。


「先生、ノックもなく入ってくるのはどうかと思いますよ。そういうガサツなところ治さないと嫁の貰い手が…。

…いえ、なんでもありません。

本当に冗談ですからグーパンはやめてください。

先生のグーパンもヤバイやつだから!」


「うるさいぞハジメ。私は嫁に行けないわけじゃない。

だから大丈夫だ。

…それにな、嫁の貰い手なら……あるぞ。」


「わかりましたから、貰い手がいる??

…ってぇ!痛い!暴力はよくないと思います。だあ”ーーぁぁぁ!菅谷も笑ってないで止めろよ!この人、目がマジなってんだから!!

そうだ!おいしいコーヒーおごりますから!

やめないと師範に言いつけますよ!?」


と俺が叫ぶと、急に石井先生は真面目な顔になり。


「ハジメ、そこに正座。」「押忍。」


「師範に言いつけるのはなしだ。」「………。」


「ハジメ、返事は?」「…押忍。」


「コーヒーは、アグスタがいいな。」「…押忍。」


”アグスタ”は俺のバイト先の喫茶店だ。

ゴリマッチョなマスターの淹れるコーヒーがとても美味しい。また、喫茶店なのにディナータイムは良心的な値段でうまいイタリアンが食える店だ。


「さて、早速だが、渡辺、伊藤。

教師として、というより大人として子どもの喧嘩に過干渉になるのはよくないとは思っているが、そうも言ってられないな。」


そう言いながら苦笑いをする石井先生。


「ハジメの肩を持つわけではないが、渡辺は殴られても仕方ないことをしたんだぞ。それはわかるよな。

大人の社会であれば痴情のもつれでもっと恐ろしい事件も起きるくらいだ。」


「「…はい。」」


「まぁ、とは言え、ろっ骨を折るほど殴らなくてもいいとは思うけどな。反省しろよ、ハジメ。」「…押忍」


「それから、自分のしたことを正当化したかったのだろうが、噂話を利用して生徒を扇動したのはやりすぎだ。

伊藤。」


「・・・・・・・・。」


「実際、あの時はハジメと渡辺、二人とも停学になってもおかしくなかったのだが、生徒会長が状況を調べ上げたうえで、情状酌量の余地ありと教師側を無理やり説得したからね。ハジメは生徒会庶務という首輪までされることになったんだが。」


マジか。生徒会に入れられた本音が首輪ですか。

もう少し言い方ってもんがあるでしょ。先生…。

でも、そんな気はしてたよ。 orz。


「伊藤はなんで自分が責められているのかまだわからないって顔しているから、もう少し説明してやる。」


「・・・・・・・・。」


「貴女は噂を流しただけとはいえ、貴女が生徒を煽ることでハジメの学校生活を一時的にとはいえ壊したんだ。

2年生に進級する前に仁と一緒に生徒会役員をやらせたおかげで大分状況が落ち着いたから良かったと思うよ。あのままで放っておいたら、単純ないじめよりもっとひどいことになっていたかもな。」


「わたしは、そんなつもりじゃなかったんです・・・。」


「そんなつもりはないといってもな。状況証拠もあるし、これは生徒指導部の教師が動く指導案件であったが、ハジメと渡辺の喧嘩のこともあり、今回だけは厳重注意のみとした。それが良くなかったのかもな、まさかここまで罪悪感も感じていないとはね。反省文くらいは書かせるべきだったかな。」


「あんなに大ごとになるなんて思ってなかったんです・・・。」


「渡辺もだ。殴ったハジメも悪いが、渡辺の方から手を出したと聞いている。ハジメに伊藤を連れていかれるとでも思って逆上でもしたのか?

…短慮すぎるだろ。

お前も1年でバスケ部のレギュラーメンバーになったんだろうが。それが、横恋慕しておいて、伊藤とキスしていたところをハジメに見られて、喧嘩を仕掛けるなんて。

あまりに身勝手で、器が小さいにも程があるぞ。」


「面目ないっす。」


やっぱり、あの時、菅谷の他にも会長と久美あたりがあの乱痴気騒ぎを見ていたのだろうか?


それなら止めてくれてもいいと思うんだけど。いや、止めないか。むしろ参加されなかっただけましだろう。


しかし、俺はいつまで正座をしていればいいのだろうか?


ん?菅谷のやつ俺を見て笑ってやがる…。


「伊藤、お前は一人の男の尊厳を踏みにじったんだ。申し訳ないとは思わないのか?

ん?ハジメはいつまで座っている気だ。さっさと立て!」


「えっ?!理不尽?!」「早くしろっ」


「押忍。」

(あ”ぁ”ーー靴はいたまま正座はさすがに痺れるぅ)


「伊藤には、ハジメが孤独で寂しいやつに見えたんだろうな。それも、間違えではないのだが、恋愛と同情は違うぞ。履き違えるなよ。」


「私としては、ハジメ君が一人ボッチで、寂しそうだったから…、一緒にいてあげただけなのになんで…?。それでも私が悪いんですよね?

それなら、謝らせていただきます。ごめんなさい…。」


石井先生が納得がいかない顔をしている。


でもなぁ、ここまでくると独善的というか毒善的だな。


「モエ君、改めて、すまなかった。許してほしい。ゴメン。」


「だそうだ。ハジメもこの二人、いや、渡辺の謝罪は受け入れてもいいと思うぞ。」


「はい。岳、いや、渡辺君。こちらも痛い思いさせて悪かったな。ま、八つ当たりもはいっていたんだ。すまなかった。金輪際かかわることもないとは思うが…。」


「そうだよな…、友達に戻れるわけないよな…。」


「それから、伊藤さん。短い間でしたがありがとうございました。二度と言葉を交わすことはないと思いますので、最後に、もう2度と”ボッチで寂しそうだから”なんて独善的な理由で人の心を弄ぶようなことしないでほしい。俺からは以上です。

この部屋をでたらもう他人ですからね。用が済んだらお帰り下さい。ここは本来部外者立ち入り禁止ですので。」


そういって、俺は二人を突き放す。


あ”ー疲れた。また、悪役だなこりゃ。


菅谷は、俺がソファーに腰を掛けたのを見て、黙って二人を出口へエスコートする。イケメン紳士だ。



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