第8話

岳と一応の約束を交わし、教室に戻れた俺は机に突っ伏しながら1年前のことを思い出していた。


入学当初、人間不信から必要以上の関りをなかった俺はクラスメイトとも心の壁バリアを作りボッチ生活をしていた。


菅谷出会ったのは入学式の日。


親の参観がなかった生徒に対して、事務職の先生から入学関連書類の説明を受けるよう指示があり、ホームルーム終了後、職員室に呼び出されていた。


この時一緒に説明を受け、これが切っ掛けとなり少しだけ話をするようになった。


菅谷も一線を引いた感じで話をしてきたからか、俺と同じような訳アリのような気がしたからか少し気を許せたんだよな。


菅谷はクラスメイトで友達ではあったがいつも一緒というわけではない。


菅谷自身は南陵高の一大勢力であるバスケ部に所属していたため男女含め取り巻きも多かった。


(まぁ…イケメンだから男女ともに人気者だったしな。)


その対極にいる俺は、休み時間は常時イヤホンを装着しスマホをいじっている。


そんな俺といる時間があるわけがない。


あの時はまだはっきり友人なんて意識もしてなかったしな。


そんな訳で休み時間など、一人の時間も結構あった。


一人の時はイヤホンをつけて寝ているか、イヤホンをつけてスマホで小説を読んでいるかという感じであった。


イヤホンバリア超便利。


そんな、ボッチライフを静かに満喫している俺のことを気にしているやつがいた。


最初何のために話しかけてきていたのか分からなかったが話しかけてきたのは、俺の元カノで伊藤 瞳いとう ひとみというクラスメイトだった。


彼女はスラっとしたモデル体形に、少し幼さのあるきれいな顔つきで、よく手入れをしているであろう長いストレートの黒髪が似合う和み系の美少女。


黒縁の大きめの眼鏡が真面目そうな雰囲気を強調していた。


クラス委員も引き受けていたため、面倒見も良いのかもしれない。


そんな彼女が声をかけてきても、面倒に思い最初のうちはイヤホンバリア全開で、聞こえないふりをしたりしながら適当に流していたが、結構な頻度でしつこく話しかけてくるので、少々めんどくさい奴と思いながらもなんとなく話すようになっていた。


伊藤とはある日を境に割とよく話をするようになっていた。それでは比較的という程度であったが。


あの頃はまだ入学から日も浅く部活動などには、2人ともにも所属していなかったこともあり、登下校が一緒になることも自然と増えていた。


電車が同じ路線であったのも一因かもしれない。


入学して最初のイベントであった体育祭の準備などを手伝ったりしたこともあった。


一緒にいる時間が増え、彼女が聞き上手だったこともあり、割とあっさり気を許してしまった。


そして、要らんことまで話していた。


俺最大のトラウマである家族のことまで相談していたんだ。


そして、6月の半ばには一応、彼氏彼女の関係になっていた。


だからといって、何があったかといえば何もなかったし、どちらから告白したのかも、付き合いだした日も、もううろ覚えだ。


その程度の希薄な関係だったのに、あの時はこの子なら信じてもいいのかなと思ってしまっていたんだ。



 

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