ドニとエマ5
「グー先生!今日はエマが手を握り返してきたんだ!」
あれから更に5日経った。以前はなんの反応も見せなかったエマが、今では手を握り返してくれたり、小さくうめき声の様なものを上げるようになった。
魔法のお医者さんは“きぞく”ってやつらしくて、名前がすごく長い。オレは全部覚えられなくてグー先生って呼んでる。
グー先生から魔法の使い方も教えてもらって、今なら少しのかすり傷くらいだったら治せる様になった。グー先生は研究とか魔術医療の発展とかでいっつも寝不足みたいだけど、魔法の話をする時は少し活き活きしてるように感じる。
ダンテ師匠も魔法と剣術を合わせて戦っているそうで、魔法が使える様になったらもっと強くなれるぞ!と言ってもらえた。
今日はグー先生にエマの診察をしてもらったら、だいぶ魔力が安定していると言われた。もうしばらくしたらエマが目覚めるかもしれないとグー先生が説明したら、エマの両親は泣き崩れながらも喜んでいた。オレも嬉しくてちょっと泣いた。
「エマちゃんが目覚めてからの注意事項を話しておきます。」
グー先生が真剣な表情で話し出した。その表情がちょっと辛そうに見えて、あまり良くないことなんだとわかった。
「エマちゃんは今回の病気で、身体の未発達な時期に魔力回路と神経系、循環機能が余りにも密接になりすぎた。過度なストレスや感情の一時的な昂りで魔力の吸収や循環が滞り、機能障害を起こしやすくなっています」
「は、はい……」
「睡眠時は無意識下で魔力の吸収と循環が活発になるので、機能障害が起きた際には突発的に気絶をした様に睡眠状態に陥ります。ストレスの発散も兼ねているので、睡眠状態に移行したら無理に起こす事はせず、自然覚醒を待ってください」
グー先生の言うことはいつも難しいけど、今回は特に難しい言葉とかが多くてわからない……
不意にグー先生と目が合うと、フッと優しげに目を細めた。
「端的に言うと、嫌な事や悲しい事があると倒れて眠っちゃうから、エマちゃんが元気になるまで寝させてあげてね、って事かな」
オレはグー先生の目をまっすぐ見て力強く何回も頷いた。今度こそは、オレがちゃんとエマのこと、護ってあげたい。嫌な事からも、悲しい事からも。
皆で話し合って、病気の事をエマには秘密にする事にした。この病気のせいでエマの将来の選択肢を狭めたくないという両親の主張と、エマが魔力を取り戻して入り込んだ魔力を吸収や排出する事が出来れば症状が飛躍的に改善されるというグー先生の意見を聞いて決めた。
それまでは村の皆でエマのサポートをして行くことにした。
みんなで話し合いをしてから3日が経った。
エマが倒れてから13日目の朝、エマがうっすらと目を開けた。
エマが微かにパクパクと口を開けて、何かを伝えようとしてくれているが、声が出ないようだった。オレは先生に教えてもらった方法でゆっくりとエマに水を飲ませてあげた。それを何回か繰り返すと、エマがか細い声を発した。
「ドニ、けが……だい、じょぶ……?」
それは、エマが倒れる前にオレが聞いた最後の言葉で、その問いにオレは答えられてなかった。
「うん、大丈夫」
「仔猫は……?」
「仔猫逃げちゃった。だからきっと大丈夫」
「そっか……みんな大丈夫なんだね」
そう言うと、エマは安心したのかまた目を閉じる。
目を開けて一番の言葉がこれかと思うと、胃の上の辺りが潰された様に息苦しくなる。それと同時に、エマが帰ってきた安堵感で涙がポロポロとこぼれ落ちる。
オレは、どうしようもなくエマを失いたくなくて、こんなにも大好きでたまらない。
いちばん最初に呼んでくれた名前がオレの名前で、すごく嬉しかったんだ――。
最初のうちはベッドの上で過ごしていたエマも、しばらくするとグー先生の許可が降りて外出できるようになった。エマは魔力の循環を促すために多少の魔法の練習をグー先生から教わっていた。
オレは親父から母さんがしてたというピアスを貰った。耳に穴を空ける時、痛くてちょっと泣いた。3日くらい腫れて痛みが引かなかったら、エマが魔法で治してくれると言ってくれた。まだエマは病み上がりだろうし断ると、グー先生監視の元で魔法の練習台にされた。
グー先生がやる時とは違って、エマは凄く力んでて時間もかかったけどすぐ治してくれた。こんなに簡単に腫れと痛みが取れるなら、はやく自分で治しておけばよかったとなんとなく思った。
エマも突然倒れることなく普通に生活できるようになって、グー先生の診察も一週間に一度になったある日、ダンテ師匠との別れの日が来た。
ダンテ師匠は王都でも有名な騎士らしく、その腕を買われて大貴族のご令嬢の護衛騎士になるらしい。オレに王立学院の騎士科への推薦状を書いてくれると約束してくれた。
ダンテ師匠との別れが悲しくてオレもエマもわんわん泣いた。村の皆はそれを見てエマが倒れないかハラハラしていたが、この程度の感情のブレでは倒れなくなっていた。
だから、オレは
エマに伝えようと思った。
オレが、どんなにエマの事が好きで、
特別に思ってるかって事を――。
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