ドニとエマ4
あれから3日が経った。
朝日が昇ってすぐ、ダンテ師匠と加勢に行った自警団の数人が帰ってきた。
魔物の群れは50頭以上いて、その中でも群れのリーダーはオレがみた大人の倍以上の大きさの魔物よりもおっきくて、強かったそうだ。自警団の皆はダンテ師匠がいてくれなかったからこの周辺一帯の村々は壊滅していただろう、と話していた。
エマは村に着いてからすぐにお医者さんに診てもらったが原因が分からず、ずっと眠ったままだ。
オレは村の皆から勝手に森に入った事を凄く怒られた。物凄く怒られた。その後に、エマが仔猫に左手の薬指を噛まれてからずっと出血が止まらないことを話した。
この村に居る唯一のお医者さんに診てもらっても、原因がわからないままだ。エマはずっと高熱が出たり、突然氷のように体温が下がったりをずっと繰り返してた。
オレは、何も出来なくて、でも、エマが、居なくなってしまうんじゃないかと、心配で、ずっと手を握ってた。そんなことしか出来なくて――。
エマの手が、熱くなったり冷たくなったりする度に目が覚めて、心臓が潰れるほど苦しくなった。
お医者さんがエマの両親に説明しているところを横から聞いていたけど、難しくてほとんど分からなかった。でもエマの状態が良くないということだけは分かった。
エマの母親には仲のいいお姉さんが居てずっと一緒に暮らしてたそうなのだが、お姉さんが出産した直後から体調を崩し、療養の為に神殿のある近くの街の方に引っ越していた。
その街は先日の魔物の襲撃で壊滅していた。エマの母親は仲の良かった姉家族だけではなく、娘のエマまで亡くしてしまうのでは、とずっと泣き通しで夜も眠れていないようだった。
それなのに、オレの心配をしてくれて、ご飯を持ってきてくれて、時々毛布をかけてくれて、自分の方が辛いと思うのに……
そんな所が、エマにそっくりだなって思った。
ねぇ、エマ
こんな事になるなら、もっとはやく
オレの気持ち、伝えたかったよ――。
オレがエマのこと、好きだって、特別なんだって
エマに知ってほしかったんだ――。
それから更に2日経った。エマの容体は悪いままだ。
突然、医者だと言う人が現れた。
その人は真っ黒でボサボサの髪に目の下は濃い隈に覆われていて、白衣を着ているけれど、焦げ?の様なものが所々に付いていて、お世辞にも、お医者さんの様には見えなかった。
その人がエマを診察すると言っても信用できなくて、変な事をしないかずっと見張っていた。
「僕が気になるかい?」
「う、うん……お医者さんには見えない」
「まぁ、僕はお医者さんではないからね」
「えっ!?」
その人はなんともない様に言って見せた。
「普通のお医者さんではない、かな?僕は魔術士だから魔術分野での医療の――まぁ、その……魔法のお医者さんだよ」
結局よく分からなかったけど、怪しい魔法のお医者さん、らしい……。
その人がエマに手をかざすと、ベッドの上が突然キラキラと眩しく光出した。その光景に驚いて、思わず声が出てしまう。
しばらくすると、あんなに眩しかったのが嘘のように元通りになっていた。
その人はゆっくりとエマの両親の元へ歩み寄り説明を始めた。
「娘さんの今の容体ですが、本人の魔力量よりも多く他人の魔力を取り込んでしまい、体内で拒否反応が起きている状態です。他人の魔力を自分の魔力へ変換するにしろ、排出するにしろ、入り込んだ魔力が多すぎる」
「その、エマを噛んだ猫が魔物だった、と?」
「普通の猫だったよ!普通の仔猫だった!だって赤い石なんてどこにも付いてなかったんだ!」
怪しいお医者さんとエマのお父さんが話している途中なのに、オレは興奮して話に割り込んでしまった。発言した後に、思わず大きな声を出してしまった事を反省して俯いた。
「赤い石……魔石のことかな?魔石が付いているのは人工的に造られた魔物だね。野生の魔物の魔石は体内にあるんだ。魔物にとって魔石は心臓と同じだからね」
以前ダンテ師匠に「野生動物が魔石を取り込んで魔物化してしまう事がある」と教えてもらったことがある。
オレは勝手に、野生動物がたまたま魔石を見つけて飲み込んだりして魔物になったんだと思ってたけど……人工的に造られた、って事は、作った人間がいて、実験……みたいな事をしてるって意味、だよな?
生きてる、動物を――。
オレやダンテ師匠が倒した魔物も、きっと元は普通の犬とかで……家族とか、だったのかも……。
勝手に、魔物と自分たちは全く別の物だと思っていた……。
その事実に押し潰されそうになりながらも魔法のお医者さんの話をしっかり聞いておこうと思った。聞かなきゃいけないと思った。
「話を戻しますが、娘さんが目を覚ますには入り込んだ他人の魔力量と自分自身の魔力量のバランスを取る必要があります。」
「その、他人の魔力を取り除く、という事は出来ないのですか……?」
「出来ますが、今の娘さんの容体では難しいでしょうね。出血多量で心身機能が低下しているのを魔力で補っている状態です。他人の魔力で昏睡状態に陥りましたが、その魔力で生かされているのもまた事実です。」
「そんな……どうしたら……」
エマの両親が抱き合いながら苦悩の表情を浮かべている。魔法のお医者さんは目が隈がちで生気が感じられないので表情がとても読みにくい。
オレは話が全く理解できず、ただ呆然と立っていることしか出来なかった。
「これは体内魔力の循環を助ける治療用の魔道具です。今の容体では効力は一日程度なので明日も様子を見に来ます」
そう言ってエマの胸元に黄色の宝石のついたブローチを置いていった。暫くするとその宝石がほのかにキラキラと光を発し始めた。
その後も魔法のお医者さんは一日毎にブローチの交換と魔法でエマの診察をしに来てくれた。
オレは何も知らない事、出来ない事がこんなに辛くて、悲しくて、悔しいって事を知ったから、魔法のお医者さんやダンテ師匠にちゃんと教えて貰って、勉強もちゃんとしようって思って行動した。
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