ドニとエマ3
魔物の目は獲物を捉えギラギラと光っている。額にある魔石も、石のはずなのにドクドクと震えていて不気味さを増している。
さっき殴ってしまった魔物も無我夢中で奇跡的に木剣が当たったのと、魔物が突進してきた勢いが乗っていたので何とか倒せた様なものだ。
それなのに、これは――
弱気になったオレの気持ちを見透かしたのか、低く唸りながらグッと姿勢を低くした。オレは咄嗟に木剣を握ろうとしたが、先程の魔物を殴った時に吹き飛ばされていたことに気づく。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
魔物がこちらに飛び掛かろうとした瞬間――
オレのすぐ横を
ヒュッ――
と、風が吹いた。
次の瞬間には、魔物はドサリと地面に倒れた――。
何が起こったのか分からずに居ると
大きな手がオレの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「えらいぞ、ドニ。怖かっただろ、すぐ来てやれなくてごめんな」
「ダンテ師匠……」
ダンテ師匠のおっきくて、ゴツゴツしてて、でも優しくて、撫でる時はちょっと乱暴で、力強くて、そんな手が、たまらなく、オレを、安堵させてくれた――。
安心して全身から力が抜けそうになった時、突然後ろからガバッと抱きしめられた。
「ドニ!大丈夫だったか!?」
「親父……!」
親父はオレから少しだけ距離を取り怪我がないか全身をパタパタ触りながら確認していた。
ダンテ師匠と親父の姿を見て完全に安心しきると、突然エマのことを思い出した。
「エマ!エマが怪我して!血が!血がずっと止まらなくて!!!」
辺りをキョロキョロ見渡すと、草むらの中に蹲る様にして倒れているエマが居た。
親父がエマを抱きかかえるとまだ左手からはダラダラと血が流れていた。顔色も先程よりも悪くなり、青いと言うよりは、白くなってきていた。微かに胸の辺りが上下していて、息はしているようで安心した。
親父はポーチから薬や包帯を取りだし、手際よく手当した。
「魔物にやられたのか……?」
「いえダニーさん、傷口を見てください。魔物の牙や爪だとしても余りに小さすぎる……しかし、この出血量は……」
親父とダンテ師匠がエマの薬指を見ながら何か話しているようだった。ふたりとも深刻な顔をしていて、ドクドクと心臓が嫌な音を立てながら脈打つ。
「エマの傷、猫がいて、その猫が噛んだんだ!でも、猫、もう逃げてて、それで……」
しどろもどろになりながらも何とか説明したオレの頭をダンテ師匠はくしゃくしゃと撫でてくれた。
「エマを護って偉かったな」
ダンテ師匠はオレにニッと笑いかけた後に、親父に真っ直ぐ向き直り、真剣な表情をしながら話し出した。
「今倒した魔物、群れで行動する種族なのでこの辺りにリーダーが居るはずです。このままでは森全域だけでなく、近隣の村まで被害が及ぶでしょう。オレは群れを見つけて倒してきます。」
「すまない、任せた」
ダンテ師匠は親父の短い返答を聞くと、突然現れた時のようにヒュッ――と風の音がしたかと思うと、既に姿が見えなくなっていた。
その光景に唖然としていたオレに横から声が掛る。
「オレはエマを抱えて走るが、ドニは走れるか?」
「大丈夫!」
親父は「よし」と言うとエマをゆっくりと抱えて走り出した。オレも親父の背中を見失わないように一生懸命走って追いかける。
ゼェゼェと息が上がる。仔猫の声を聞いてエマとふたりで森に向かった時と同じ距離を走っているはずなのに、疲れて、足が回らなくなりそうだった。
なんとか親父の背中を見失わず追いかけていたら、森が開けてきて、光が、見えてきた――。
森の出口には兄貴がこちらに向かって大きく手を振ってくれていた。
「そのままこっち!全速力で!!!」
兄貴の言う通り最後の力を振り絞って全速力で森を駆け抜ける。
エマを抱えた親父が森を抜け、そのまま兄貴の横を通り抜ける。オレも親父に続くように森を抜けると、兄貴は大きく振っていた手をグッと握り締め、拳を振り上げた。
不思議に思いながらも兄貴の横を通り抜けようとしたら、こちらに向かってブンッと空気を切る音と共に、兄貴が拳を振り抜いた。
すぐ耳元でドゴッという鈍い音が響いた。
驚いて後ろを振り返ると、犬の様な魔物がピクリとも動かず地面に倒れていた。
「いってぇ〜」
「あっ兄貴……!血!血が!!!」
魔物を殴った方の手が真っ赤に染まっていたが、兄貴はいつもの様にヘラヘラ笑いながら「これ返り血だから大丈夫」と言い手をプラプラと振っていた。
「ドニはいいよなぁ親父に似て剣の才能あるんだもんなぁ〜。オレ剣とか槍とかまるっきりダメ。母さん似だから」
母さん似???親父が剣術が得意ってのは知ってたけど、母さんも戦う系の人だったとは……初耳である。一度も会ったことの無い母さんの事を思いながら、パンチ一発で倒れた魔物と兄貴を交互に見てしまう。
兄貴とオレは他の魔物が追ってこないのを確認してから、親父とエマの元へと向かった。
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