ドニとエマ2/戦闘描写・流血表現あり
「どうやったらオレも王立学院に行けるの?」
親父と兄貴にそう質問すると、ふたりは顔を見合わせてから「うーん……」と言いながら首を捻った。
暫しの沈黙の後、親父がゆっくりと話し出した。
「王立学院はな、特別な人たちが行くとこだからな、ドニが特別だって認めてもらわなきゃならない。わかるか?」
「う、うん、なんとなく……」
「そうか」
親父は真剣な眼差しでじっとオレの目を見てくる。
「オレの昔の知り合いにな、王国騎士団に所属している奴がいてな、そいつに剣を教えてもらえるように頼もう」
そう言うと親父は早速手紙を書いてくれた。「よかったなドニ頑張れよ」そう言って兄貴はオレの気持ちを見透かした様に笑っていた。
暫くして村に王国騎士団のダンテという大人の人が来てくれて、オレとエマは一緒に剣の指導を受けることになった。
「よーし!じゃあオレのことは“ダンテ師匠”と呼ぶように!」
偉い騎士様って聞いてたから怖い人だと思ったら、カラッとした性格で弟や妹が沢山いるから子供は大好きだと言っていた。
そんなダンテ師匠に剣を教えてもらうのはとても楽しかったし、なによりエマと一緒に居られる時間が増えたのはとても嬉しかった。
エマは勉強と魔法の練習もして、剣の稽古もしてすごく疲れてるみたいだったけど「大丈夫?」って声をかけても「“運命の人”に相応しくなるためだから大丈夫!」と言って笑っていた。
エマは笑顔なのに、何故か、焦ってる様な、追い詰められている様な、まるで、何かに強迫されているかの様だった。

「ドニ〜!筋がいいぞぉ!エマも今日はバテずに付いてこれたな!」
ダンテ師匠がニッと笑いながら視線を俺たちに合わせて、くしゃくしゃと頭を撫でてくれる。
それが嬉しくて、エマと視線を合わせて笑い合う。
少し休憩する事になりオレは地面にドサリと座り込む。
エマも隣に座るかな?と思って見ると、エマは何やらキョロキョロと視線を動かしている。
「エマ?どうしたの?」
「声がするの……」
「声……?」
そう言ってから周りの音に耳を澄ませる。
遠くから聞こえる話し声と、ささやかな村の生活音。
その中で不意に、動物の声が聞こえたかと思うと、突然エマが森の方へ走り出す。
「エマ!?森の方は危ないよ!」
「大丈夫!たぶんすぐそこだから!」
昔より足の速くなったエマの隣に駆け寄る。
ふたりで並走していると、か細い動物の声が近くで聞こえてきた。辺りは草が生い茂っているので、見逃さないように目を凝らして声の出どころを探す。
「ドニ!あそこ!」
エマはそう言うが早いか飛び出して草むらの中にしゃがみ込んだ。
そこに居たのは、体中ボロボロに傷だらけの、仔猫だった。
「大丈夫だよ、怖かったね、今手当てしてあげるからね……」
エマが優しく声をかけながら仔猫に手を伸ばすと、突然エマの左手にガブリと仔猫が噛み付いた。
「っ……!」
「エマ!?」
エマの薬指からどんどん血が流れて、草の上にパタパタと音を立てながら赤い雫が滴り落ちる。
「ビックリさせちゃったね……ごめんね……もう大丈夫よ……」
エマは噛み付かれた痛みで涙を零しながらも、仔猫を優しく抱き上げる。
仔猫はやっとエマの指から噛み付くのを止めたが、血は止まるどころかどんどんと溢れてくる。
さっきまで興奮していたのが嘘の様に大人しくなった仔猫がエマの涙で濡れた頬をぺろぺろ舐めて、か細くにゃあにゃあと鳴く声を聞ききながら、オレはただおろおろと動揺することしか出来なかった。
突然、ガサガサッと茂みの中を何かが動く音と、低く唸るような声が聞こえてくる。
途端、緊張が走る。
つい先程まで剣の稽古をしていたので、木剣は持ってきてある。震える手で木剣を力を入れて握り締め、構える。ダンテ師匠に言われた事を頭の中で何度も思い出そうとするが、混乱してなかなか上手くいかない。
グルルッと低く唸る声が、先程より近づいてきた。
音の発生源が近くに来た事により大体の位置が解ったので、エマを背に庇うようにして、真っ直ぐ木剣を構える。
茂みを掻き分け、低く唸りながらゆっくり近づいてきたのは、犬の様な動物だった。子供のオレやエマと同じくらいの大きさで、ブルリと恐怖で体が震える。額にチラリと赤い石が埋め込まれているのが見えた。
あれは前にダンテ師匠に教えて貰った事がある。魔石という奴だ。魔力の塊で、野生動物が魔石を取り込んで魔物化してしまう事があるって……
魔物が先程よりも低く唸り、グッと姿勢を低くする。
次の瞬間、真っ直ぐこちらに飛び掛ってきた!
大きな口を開け、獰猛な牙が物凄いスピードで近づいてくる。オレは震える身体にグッと力を入れて木剣を高く振り上げ、無我夢中で思い切り振り下ろした。
振り下ろされた木剣は魔物の額に当たり、一度地面に激突したあと茂みの方へゴロゴロと転がって行った。オレはその反動で木剣を吹き飛ばされ、地面に尻もちを付いてしまった。
木剣を握っていた手がビリビリと痺れる。初めて、生き物を、殴ってしまった――。
痺れて痛む手の平に視線を落とすと、真っ赤に染まっていた。
「ひっ!?」
よく見ると服にも赤い染みが飛び散っていた。
生き物を殺したかもしれないという恐怖が、ジワジワと全身を駆け巡った。まるで全力で走った後のように、呼吸が荒く、短くなるのを感じる。
「ドニ……?怪我した……?大丈夫……?」
背後からか細い声でオレを心配するエマの声が聞こえて、ハッと我に返る。
エマに怪我がないか心配になりバッと後ろを振り返ると、エマの左手からはまだボタボタと血が流れ続けていて、さっき見た時よりも顔色が真っ青になっている。仔猫はもう逃げてしまったのか、居なくなっていた。
「エマ――」
名前を呼んで駆け寄ろうとしたその時――。
「グォオオオオオオ!!!」
身体中を突き刺し震わせる様な大きな唸り声が突如として聞こえてきた。
まるで壊れたブリキの様にゆっくりとした動きで後ろを振り返ると、さっきの倍以上もある大きさの魔物がこちらを睨みつけていた――。
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