12話 学食
「エマさんはクラウディオ殿下とお知り合いだったのですか?」
「いえ、今初めて会いました」
フレデリク様は眼鏡の奥の深い琥珀色の瞳を驚いたように丸くさせている。
クリスチアン様の兄ならば、クラウディオ様はこの国の第一王子という事になる。それならこんな平凡で、取るに足らない、ただのモブが、知り合いになれるはずも無いのに……
そんなはず、ないのに……
じゃあ……
なぜ……
わたしの名前を……?
その後フレデリク様に演習場の場所を確認し、軽い挨拶を交し別れ、演習場へ向かった。
その時もずっと、手の、体の、顔の熱は引かず、胸も高鳴り苦しいままだった。
演習場へ着くともうすでに、パラパラと校舎の中へ戻っていく騎士科の生徒たちとすれ違う。その中にドニが居ないかキョロキョロと辺りを見渡しながら演習場の方へ歩いていく。
「エマ!」
パッとドニの声が聞こえた方へ顔を向けると、人の輪の中からこちらに駆け寄って来るのが見えた。
「体調、大丈夫?」
「うん、ドニのおかげ」
そう言って微笑むと、ドニも笑顔を返してくれた。その笑顔にホッとする。
不意に視線を感じて顔を向けると、茶色のストレートヘアを高い位置で結い上げた、ツリ目がちで凛とした印象の黄色の瞳の女生徒と視線がぶつかった。目が合っても逸らすことなく、ジッとこちらを見続けている。な、なんだか心做しか睨まれているような気も……?
ずっとお互い見つめあっているのも変なので、わたしは小さく会釈した。するとその凛とした佇まいの女生徒は深々と礼を返してくれた。わたしが戸惑っている間に、その女生徒は颯爽と立ち去ってしまった……
「エマ、ニコルさんと知り合い?」
「初めて会った……」
「へぇ珍しい。ニコルさん滅多に他人と話したりしないのに。結構前に王家のお姫様とその護衛騎士が駆け落ちしたーってスキャンダルがあってから女性騎士も王都だと珍しくないんだってさ」
「そうなんだ……」
えっ?待って、さっきの会釈でニコルさんとは会話した事になるの……???
ちょっと予想外の事は起きたけど、気を取り直してドニに話しかける。
「お昼まだだよね?わたし食堂とか行ったことないから一緒にいこ?」
わたしが控えめに昼食に誘うと、ドニが何か言葉を発する前に、後ろの方で様子を見ていた男子生徒たち5人ほどがドドドッと勢いよく近づいてきて口々に早口で捲し立てている。な、なにを言っているのか、皆それぞれに勢いがすごすぎて全然聞き取れない……!!!
ドニが皆から小さな袋のような物を持たされて、ドンッとこちらに押し出されて来た。
「……ちゃんと返すから」
「いいって!今日俺たちに勝った景品って事にしとけよ!」
「ドニ今日の模擬戦で5位になったから褒めてあげてな〜!」
ドニは何だか照れた様子で、その姿を見た男子生徒たちも皆ニコニコしていて、ドニはクラスでも人気なんだなぁと思うとわたしまで嬉しくなってしまい、クスリと笑ってしまった。
ドニに、5位なんてすごい!すごい!と言いながら、2人で食堂へ向かった。
「ひ、ひろいね……」
食堂に着くとあまりの広さに気後れしてしまった。
「えーっと、先ずは注文するんだけど……オレはこっちなんだけどエマはあっちね」
「えっ?」
特進科の生徒は多方面で学院側から支援を受けられるのだが、その内のひとつが学食の無償化と2階にある特別ラウンジの使用許可だった。なので注文カウンターからドニとは別々になってしまった。席は特別ラウンジには行かず、一般生徒たちが使っている大広間にドニと向き合って座った。
移動の時にチラッと見たが、学食と言う割には、値段が……特別な日に行く外食、くらいの値段がして……
確かに平民だけではなく貴族も通うのだから信頼出来る物を用意するにはそれなりの値段がかかってくるのだけど……何も知らず連れてきてしまったドニに、申し訳ない気持ちになる。自分だけ無償なのだから尚更……
ふたりで食事を終え、ひと息着いたところで思い切って声をかけてみる。
「ねぇドニ、明日のお昼……わたしがドニの分も持ってくるからまた一緒に食べよ?」
「……えっ」
昼食時の喧騒の中で、静かに驚いた顔をするドニが際立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます