9話 違和感

 扉を開けると一番に美しいピンク色の髪の毛がふわふわと揺れているのが目に飛び込んでくる。

 名前は、たしか、“ マリー”だったはず。彼女がラブメモのヒロイン……


「お久しぶりですエマさん、もう体調は宜しいのですか?」


 フレデリクがスっと現れて優しく声をかけてくれる。その声に気づいたクリスチアンとマリーもこちらに視線を向ける。

 淡いピンク色の髪がふわりと揺れて、アクアマリンの様な美しい瞳はクリクリとしていて潤んでいる。女のわたしでも見惚れてしまうような美少女。ラブメモのヒロインのマリー……


「わぁ!あなたがエマさん!わたし!エマさんに会えるのとても楽しみにしていたんですよ!」


 マリー、さん、はそう言うと眩しいくらい可愛らしく微笑みパタパタと愛らしくこちらに近づいてくる。そして小さくきめ細やかなすべすべの手で、わたしの手を包み込む。


「このクラスで女子はわたし達だけですし、身分も同じですし、仲良くしてくださいね!」


 そう言うと頬を少し赤らめて微笑みながら、潤んだ瞳で真っ直ぐとこちらを見つめてくる。あまりの可愛さにドキリと胸が高なってしまった。

 早く返答をしようと口を開きかけると「キャッ!」と可愛らしく小さな悲鳴が聞こえた。


 何が起こったのか分からず戸惑っていると、マリーさんがとても悲しそうに眉を下げ涙ぐむ。


「首のところ……怪我を……」

「えっ?」


 指摘された首に触れてみると微かにヒリヒリとする。おそらく自分で髪を切った時にハサミが掠ってしまったのだろう。


「ちょっと髪の毛を切った時に掠っちゃったのかも……」


 少し気まずくなってヘラっと笑う。


「失礼」


 クリスチアン、様、がスっと首筋を撫でるように触れると、キラキラと光の粒が舞う。


「さぁ治ったよ」


 ニコリと美しく微笑むクリスチアン様に促され、また首を触るが先程のヒリヒリした感じが無くなっている。どうやら魔法で治してくれたようだ…


「ありがとう、ございます……」

「気にしないで、級友同士仲良くしよう」


 クリスチアン様はそう言って、こちらに手を差し出してくる。握手を求められているという事は分かるのだが、どうしても信じられなくてじっとクリスチアン様の美しい手を眺めてしまった。


 なぜかクリスチアン様に違和感を感じる……


 クリスチアン様は生まれて間もない頃に、自分には優しかった両親や周りの大人たちが、双子の弟が存在しているという事実を隠していたことに気づいた事から、人間不信になっていたのだ。


 ラブメモのストーリーでは主人公の純粋な心に触れて、人間不信を解消して行き、段々と周りの人とも壁を作らなくなっていくのだが……


 今のクリスチアン様は、まるで、ストーリー後半の……


 わたしが教室に入ってすぐも、マリーさんとクリスチアン様は仲が良さそうに話していた……

 わたしが休んでいる間に急速にストーリーが進んでしまった……?でもあまりにも早すぎる……


「クリスチアン殿下、エマさんは女性ですし、軽々しい接触は萎縮してしまわれますよ。ご自身の身分をお考えください」


 わたしが黙ってクリスチアン様の手を凝視してしまったのを勘違いしたフレデリク様が、呆れたように眼鏡を指で押し上げる。


「フレデリクは堅いなぁ、驚かせてごめんねエマ、でも仲良くして欲しいのは本当だからね」


「こっこちらこそ、よろしくお願いいたします……クリスチアン様…」


 わたしは控え目に頭をペコリと下げる。


 フレデリク様もラブメモのストーリーでは、幼少期から人間不信のクリスチアン様を心配してベッタリと傍に着いていたイメージがある。そのせいでクリスチアンルートを攻略しようとしているのにフレデリクルートに入ってしまったりして好感度管理が大変だったなぁ……


 じゃなくて!!!

 今のフレデリク様はゲームの印象ほどクリスチアン様にベッタリな感じがしない……


 マリーさんはそれほど高速で攻略して行っている、という事だろうか……








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