5話 ヒロイン

 入学式当日。

 入学試験で学力、魔力、武力の各部門でトップの成績を修めた3名と総合成績トップの1名の計4名の生徒が入学式で代表挨拶をすることが決まっているので、わたしは早めに寮を出る事にした。


 入学式が行われる講堂の扉をゆっくり開けると、もう既に数人の人影が見えた。


 その中でも一際目を引く金色に輝くサラサラの髪が目に入った。右側の髪の毛を耳に掛け、そこから覗く横顔はまるで彫刻のように整いすぎていて、思わず見入ってしまう魅力があった。

 異次元の美しさと輝く金髪に上品に煌めくサファイアの様な青い瞳は攻略対象である王子様キャラのクリスチアン・クリフォードで間違いない……

 胸が大きく高鳴るのを感じる。

 本当に目の前にいる……


 それじゃあクリスチアンの隣に居るのは知的クールキャラのフレデリク・フェルナンド!

 深い緑色のストレートヘアーを緩く後ろでまとめて眼鏡の奥では琥珀色の瞳が知的に輝いている。


 こんな異次元級の美形が目の前に並んでいては眩しすぎて直視できない……


 扉の前で立ち止まって居たせいで他の生徒が後ろからドンッ!とぶつかってしまった。その衝撃でふらついているとぶつかった生徒から元気よく声をかけられる


「ぉわ!?ゴメン!大丈夫か!?フッ飛ばしちゃってゴメンな!」

「い、いえ、大丈夫です……」


 自分が立ち止まっていたのが悪いので遠慮がちに振り返ると――

 燃えるような赤髪を刈り上げて真っ直ぐに輝くトパーズの様な黄色い瞳と目が合う。そこに居たのは熱血元気キャラのレオンだった。遠くからパタパタと近づいてくる足音が聞こえる。


「レオン、落ち着きなさいといつも言っているでしょう」

「レオンがごめんね。大丈夫だったかな?えーっと君は……」


 フレデリクがレオンにチクチクお説教をしていてクリスチアンがわたしに話しかけてる……こんなに近くで……今までゲームで見ていたキャラが……

 じゃなくて!返事!!!


「はじめまして特進科に入学することになったエマです。」


 何度も何度も練習した攻略対象達との初対面の時のセリフと可愛らしい笑顔を向ける。


「よろしくね、エマ。私とレオンそしてあそこにいるジルベールの4人で今日の式典の代表挨拶を担当することになってる。」


 クリスチアンの促す方に視線を動かすと

 冬の夜空のように美しいラピスラズリを彷彿とさせる深い青色の瞳のすぐ下は薄黒く隈取られており、深い闇の様な黒髪は所々寝癖が付いておりぴょこぴょことハネている。ダウナー系でミステリアスな天才キャラのジルベール・グレゴワールが気だるそうに壁に背を預けて居るのが見えた。


「みんな偉そーな身分のヤツばっかだけどお前も充分スゲーから心配すんなよ!」


 レオンは形の良い目を細めニカッと笑いながらバシンっ!と大きな音を立ててわたしの背中を叩いた瞬間、あまりの勢いにむせてしまう。


「エマさん大丈夫ですか?レオン気遣いは良いですが動作が粗雑すぎます。」


 フレデリクが叩かれたわたしの背中を擦りながらレオンに離れるよう促す。

 今のはあまりに儚く可憐なラブメモの主人公らしくないと思い、恥ずかしさから頬が熱くなるのを感じる。


 そうして話をしている間に講堂には段々と人が集まり、入学式の開始時刻が迫ってきていた。


 クリスチアンを筆頭にしてジルベール、レオン、わたしの順で列の前の方に並ぶ。フレデリクはわたし達に激励の言葉を残し、後ろの列の生徒の中に合流して行った。


 フレデリクの去っていった方を眺めていると


 扉の方から小走りで



 近づいてくる




 ピンク色の髪の毛が見えた。





 ドキリ、と胸が痛い程の衝撃が襲った。



 この世界でピンク色の髪の毛はとても珍しいのではなかったか?


 その小柄で可愛らしく守ってあげたくなるような存在感。

 ピンク色の綿菓子の様でいて艶のある腰まで伸びたウェーブの髪の毛。長い睫毛に縁取られた瞳はアクアマリンの様に澄んでいて水色に潤んでいる。



 その子を見た瞬間




 あの子がラブメモのヒロインだと理解した――











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