4話 王都へ
宿に着いてから食事や入浴を済ませ、あとは寝るだけの状態で窓を開けて夜空を眺めていた。
すると風を切るような音がして暗闇の中に目を凝らすと、ドニが剣を素振りしているのが見えたので部屋から出てドニの元へ向かうことにした。
宿屋の扉をそっと開けて、素振りをしてるドニを驚かさない様に静かに声をかけようとした時
ドニが突然こちらをフッと振り向いた。
「わっエマ!?びっくりした〜!」
「わたしもびっくりした……」
ドニの方から先に声をかけられるとは思わず、ビクリと体が震えてしまった。
「邪魔しちゃったかな?ごめんね」
「ただ身体動かしたいなーって思ってただけだから大丈夫」
ドニがタオルでガシガシと頭を拭きながら傍のベンチに腰を下ろす。
「エマは寒くない?少し話ししたいな」
「わたしもドニともう少しお話ししたいと思って降りてきちゃった」
微笑むドニにわたしも笑顔を返して隣に腰を下ろす。
家から漏れる柔らかな淡い光と頭上から注がれる月の光が二人を照らしていて、見慣れているはずのドニの栗色の髪と瞳がキラキラと輝いているようで思わず見つめてしまう。
他愛のない会話を何度か繰り返した後、不意にドニは自分の手の平を見つめながらぽつりぽつりと話し出す。
「オレさ、村で生まれてそこで育って、親父の仕事手伝ってそのまま自警団にはいって、そんで、普通に結婚して?そんな人生送るんだなぁって何となくずっと思ってたんだけどさ」
ドニは手元から視線を上げて真っ直ぐに栗色の瞳をこちらに向けてくる。
「エマが王立学院に通うって言ってからオレの人生も変わったんじゃないかなって思うよ」
「うん……」
気がついたら傍にはいつもドニが居て、それを気にすることも無くずっと生活してきたけど
ドニにこんなにも真っ直ぐ見つめられて、こんなにも真剣な話を今までした事は合っただろうか
合わさった視線をそらすことも出来ずぼんやりと頭の隅で考える。
「エマは、やっぱりまだ……学院で運命的な出会い、を、するん、だよね」
「うん。わたしはそのために頑張って特進科に入ったの。」
途切れ途切れ言葉を紡ぐドニに対してはっきりと返答する。
だってわたしはその為に、その為だけに
5歳の時に自分がラブメモの主人公だとわかってから16歳になった今まで11年間、ずっとずっと頑張ってきたんだよ。
だからそのセリフも淀みなく出てきた。
「……そっか」
ドニはまた視線を手元に向ける。
なんとなく、ドニの表情を見るのが躊躇われ、わたしも視線を逸らしてしまう。
しばらくの沈黙の後「まだ夜も冷えるしもう戻ろっか」とのドニの言葉でわたし達は解散して各々の部屋に戻ることになった。
翌朝また用意された馬車に乗り込み王立学院に向けて走り出す。
昨夜の事がなかったかのように移動中の馬車の中では会話が弾んだ。
王都に着くと窓の外は今まで見たことも無いような高い建物や華やかな街並みに目を奪われた。
可愛いお店を見つけてはここに行ってみたいあそこへ行ってみたいなど話し、豪華なお屋敷を見つけてはダンテ師匠はここに居るのかな?それともあそこかな?と二人で笑い合う。
しばらく大通りを抜けていくと王立学院の正門が見えてきて門の前に降ろされる。
正門の前に立ち、真っ直ぐ伸びた道の先には白亜の宮殿がそびえ立つ。
ラブ☆メモリーのオープニングと全く同じ眺めに胸の辺りがドクドクと脈打ち頬が熱くなるのを感じる。
ずっと待ち望んでいたストーリーがとうとう明日から始まるんだ……
感動でギュッと胸の前で手を握りしめる。
「……もしエマに好きな人が出来たらさ、オレが力になるから相談してよ」
「ありがとうドニ。きっと相談するね。」
短く言葉を交わし手を振りながら、お互いに別々の宿舎の方角へ向かう。
軽い足取りで女子寮に着くと自分の部屋まで向かい扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。
するとゲームで何度も見た主人公の部屋の風景が広がる。
荷物を床に置き窓際に置いてある勉強机にそっと触れる。
机の上には備え付けの王立学院の紋章が刻まれているノートが置いてある。
「わぁ!これってセーブファイルだよね!?主人公がセーブする時に画面の右端に書いてあったノート!」
わたしは感動してノートを高く掲げて、今日から必ず日記を書くことを決める。
そのまま胸にノートを抱え背中からベッドに倒れ込む。
本当にこれからわたしがラブメモをはじめるのかと思うと胸が苦しくなるほどの期待感が溢れてくる。
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