第5話 セットの連鎖

太郎とリサの物語は、SNSを通じて広く知られるようになった。二人がリセットボタンを使って人生をやり直し、最終的に自己実現を果たした話は、多くの人々の心に響いた。

その中の一人が、42歳の会社員、佐藤健一だった。

健一は、20年間同じ会社で働き続けてきた。彼の人生は、安定していたが、同時に退屈でもあった。太郎とリサの話を聞いて、彼は自分の人生を見つめ直すきっかけを得た。

長い間悩んだ末、健一はリセットボタンを押すことを決意した。

光の渦に巻き込まれ、健一は20代前半の自分に戻った。今回の人生では、彼は長年の夢だった海外留学を実現させた。

アメリカでの留学生活は、健一に多くの刺激を与えた。彼は、様々な国籍の人々と交流し、視野を広げていった。帰国後、健一は国際的なNGOで働き始めた。彼の仕事は、世界中の恵まれない子どもたちの教育支援だった。

42歳になった健一は、アフリカのある村で、新しい学校の開校式に参加していた。子どもたちの笑顔を見て、彼は深い充実感を覚えた。

一方、35歳の主婦、田中美香も、太郎とリサの話に影響を受けた一人だった。

結婚し、二人の子どもの母となった美香は、自分の人生に疑問を感じていた。彼女は、家庭に尽くすことが幸せだと思っていたが、どこか物足りなさを感じていた。

悩んだ末、美香もリセットボタンを押した。

今度の人生では、美香は結婚を少し遅らせ、自分のキャリアを築くことに集中した。彼女は、環境問題に関心を持ち、環境コンサルタントとして活躍するようになった。

35歳になった美香は、仕事と家庭の両立に奮闘していた。確かに大変だったが、彼女は自分の選択に満足していた。

そして、18歳の高校生、木村拓也。彼は、太郎とリサの物語を読んで、大きな決断をした。

拓也は、両親の期待に応えるため、医学部への進学を目指していた。しかし、彼の本当の夢は、プログラマーになることだった。

拓也は、人生の岐路に立っていることを感じていた。そして、彼もリセットボタンを押すことを決意した。

リセット後、拓也は両親に本当の夢を打ち明けた。最初は反対されたが、彼の熱意は両親の心を動かした。拓也は、IT専門学校に進学し、プログラミングの勉強に打ち込んだ。

数年後、拓也は自分のベンチャー企業を立ち上げた。彼が開発したアプリは、教育分野で革新を起こし、多くの学生たちの学習をサポートした。

これらの物語は、さらに多くの人々に影響を与えていった。リセットボタンを使って人生をやり直す人が増え、社会全体が少しずつ変化し始めた。

しかし、全ての物語が幸せな結末を迎えたわけではなかった。

28歳の会社員、中村真紀は、恋愛の失敗を取り戻すためにリセットボタンを使った。しかし、何度やり直しても、彼女は同じような失敗を繰り返してしまう。真紀は、問題が相手にあるのではなく、自分自身の中にあることに気づくまでに、何度もリセットを繰り返した。

また、50歳の起業家、高橋誠は、ビジネスの失敗を取り戻そうとして、何度もリセットを繰り返した。しかし、彼は自分の限界回数を使い果たしてしまい、最後には全てを失ってしまった。

これらの事例は、リセットボタンが万能ではないことを社会に示した。人々は、リセットは単なるやり直しの機会ではなく、学びと成長の機会であることを理解し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る