リセットボタン

第3話 本城リサの挑戦

24歳の本城リサは、自分の小さなアパートの一室で、震える手でリセットボタンを見つめていた。彼女の目には、これまでの人生で味わってきた痛みと孤独が映っていた。

幼い頃から、リサの家庭は平和とはほど遠いものだった。アルコール依存症の父親は、酔うと暴力的になった。母親は、その状況から目を背け続けた。リサは、自分を守ってくれる人が誰もいないという現実と向き合わなければならなかった。

高校卒業後、リサは即座に家を出た。しかし、心の傷は簡単には癒えなかった。彼女は、人との関係を築くことを恐れ、常に孤独を感じていた。仕事も長続きせず、恋愛も上手くいかなかった。

「こんな人生、やり直したい」

リサは、涙を流しながらボタンを押した。

光が彼女を包み込み、世界が回転し始めた。

目を覚ますと、リサは高校生の自分に戻っていた。家を出る直前の時期だ。

「今度こそ、違う人生を歩もう」

リサは決意した。今回は、逃げ出すのではなく、自分と向き合うことにした。

彼女は、勇気を出して学校のカウンセラーに相談した。カウンセラーは、リサの状況を理解し、適切な支援を提供してくれた。家庭の状況も、専門家の介入により少しずつ改善されていった。

リサは、自分の内面と向き合う中で、アートに才能があることに気づいた。絵を描くことで、彼女は自分の感情を表現し、心の傷を癒していった。

高校卒業後、リサは美術大学に進学した。そこで彼女は、同じような経験を持つ仲間たちと出会った。彼らと共に過ごす中で、リサは少しずつ人との関係を築く方法を学んでいった。

大学3年生のとき、リサは自分の作品を地元のギャラリーで展示する機会を得た。彼女の作品は、多くの人々の心を動かした。特に、家庭内暴力の被害者たちは、リサの作品に自分たちの経験を重ね合わせ、勇気づけられた。

24歳になったリサは、成功したアーティストとして認められていた。彼女の作品は、社会問題に光を当て、多くの人々に希望を与えていた。

ある日、リサは自分のアトリエで、完成したばかりの新作を見つめていた。キャンバスには、暗い背景の中に、光に向かって伸びる手が描かれていた。それは、彼女自身の人生を象徴するような作品だった。

リサは、深い満足感を覚えた。彼女は、自分の過去を受け入れ、それを力に変えることができた。そして、その経験を通じて、他の人々を助けることができるようになった。

しかし同時に、彼女の心に一つの疑問が湧いた。

「もし、あの日リセットボタンを押さなかったら、私はどうなっていただろう？」

リサは、再びリセットボタンに手を伸ばした。しかし今回は、躊躇いがあった。

「本当にリセットする必要があるのだろうか？」

彼女の手は、ボタンの上で止まった。