第2話 山田太郎の決意
山田太郎は、34歳の誕生日を迎えた朝、いつもと変わらない日常に目覚めた。彼の人生は、多くの人が羨むような安定したものだった。大手企業に勤め、それなりの地位と収入を得ている。結婚して5年目、妻との関係も良好だ。一見すると、文句のつけようのない人生だった。
しかし、太郎の心の奥底には、何か物足りなさが渦巻いていた。彼は鏡に映る自分の姿を見つめながら、ふと考えた。「これでいいのだろうか?」
その日の夜、太郎は妻の寝顔を見つめながら、長い間考え込んでいた。そして、決意した。
「やってみよう」
彼は、人生リセットボタンに手を伸ばした。ボタンを押す瞬間、太郎の脳裏には様々な思いが駆け巡った。今の人生への感謝、未知の可能性への期待、そして少しばかりの後悔。
深呼吸をして、太郸はボタンを押した。
瞬間、世界が歪み、崩れ始めた。太郎の意識は、渦を巻くように過去へと遡っていく。
気がつくと、太郎は大学生時代の自分になっていた。周りを見回すと、懐かしい大学のキャンパス。友人たちが笑顔で話している。
「よし、今度こそは違う人生を歩んでみよう」
太郎は心に決めた。前回の人生では、安定を求めて大手企業に就職した。今回は、自分の情熱を追いかけてみよう。彼は、かつて諦めたミュージシャンの夢に向かって突き進むことにした。
大学時代、太郎はバンド活動に全力を注いだ。授業をサボることもしばしば。両親は心配したが、太郎は自分の選択に確信を持っていた。
卒業後、太郎のバンドは小さなライブハウスでの演奏を重ねた。生活は苦しかったが、音楽を作り、演奏することの喜びは何物にも代え難かった。
30歳になったとき、太郎のバンドは大きなブレイクを果たした。彼らの音楽は多くの人々の心を揺さぶり、日本中で愛されるようになった。
34歳の誕生日。太郎は満員の武道館でライブを行っていた。ステージに立ち、歓声を浴びる彼の顔には、幸福な笑みが浮かんでいた。
ライブ終了後、楽屋に戻った太郎は、鏡に映る自分の姿を見つめた。そこには、充実感に満ちた表情の自分がいた。
「これでよかったのかな」
太郎はつぶやいた。確かに、音楽の道を選んだことで得られた喜びは大きかった。しかし同時に、失ったものもあった。安定した生活、家族との時間...。
彼は、再びリセットボタンに手を伸ばした。しかし今回は、躊躇いがあった。
「本当にリセットすべきなのか?」
太郎の手は、ボタンの上で止まった。
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