4話 海里の裏切り、優梨の怒号


 急遽土曜日に変更になった柑奈さんとのお出かけ。

 海里と二人で待ち合わせ場所へ向かうと、そこには少し背の高い女の子が、ポシェットを肩に下げて待っていた。


 あれが……柑奈さん、かな。


 真っ白なコートを着て首には赤いマフラーを巻いており、黒いミニスカートに黒いストッキングを履いていた。


 柑奈さんはカンタくんの双子の妹さんで、海里の親友。

 海里は基本、あの狭っ苦しいマンションの一室に友達を連れて来ることがないので、海里の親友とはいえ俺は初対面だ。


 髪型はカンタくんと同じくらい短めで、カンタくんと同じく吊り目だけど性格はlimeで話しているから優しいことを知っている。


 こうして柑奈さんと実際に話せる日が来るなんて……。


 まだ俺は女子に対してトラウマがある。

 でも、それを治すために柑奈さんは手を差し伸べてくれた。

 俺はそれに応えないと……。

 俺と海里は柑奈さんに歩み寄る。


「おーい柑奈ーっ!」

「もー海里遅いしー。あ、こんにちは、お兄さんっ」


 急に声をかけられて、俺はドキッとしてしまう。

 あれ、柑奈さんってlimeだともっとお淑やかなイメージがあったけど、実際に会ってみると海里と同じくギャルっぽい感じだ。


「お兄さん?」


 柑奈さんはグッと距離を詰めて俺の顔を覗き込んで来る。

 近づいて来た柑奈さんからフローラルな香りがして、俺の心臓はさらにドクドク鼓動を早めた。


「え、えとえと!」

「ちょ、柑奈! おにいは女子苦手なんだからあんま近づくなし!」

「えー? でもそれじゃあ意味ないかなって」

「と、とにかく! 柑奈はおにいの間合いに入るのダメ」


 海里は俺と柑奈さんの間に入ると腕でばってんを作った。


「えと、柑奈、さん」

「ん?」

「きょ、今日は……お、お日柄もよく。お出かけのお誘いをいただき誠に……」

「……ぷっ。お兄さんなに言ってんの? あははっ」


 わ、笑われた!?

 ってか、そもそもなんでこんな堅苦しい挨拶してんだよ俺ぇ!


「お、おにい、いくらなんでも緊張しすぎっしょ」

「ごめん! やっぱ今のナシで! その」

「お兄さんっ、私のことは海里と同じ妹ギャルだと思いながら接してくれればいいんでっ」


 柑奈さんは海里の腕に抱きつく。


「てことはあたしと柑奈で双子ギャル妹、的な?」

「そうそう、まずはそこからスタートしましょうよ? 慣れて来たら私のこと、ただの女の子って思ってくれればいいんでっ」


 柑奈さんは緊張でガチガチな俺にも優しく対応してくれる。

 オタクに優しいギャルって……存在したんだ。

 なら、俺もしっかり応えないと。


「うん……じゃあ、二人とも、行こう!」

「ちょ、おにい張り切りすぎだし。今からラスボス倒しに行くわけじゃないんだから」

「あははっ、やっぱお兄さん面白っ」


 こうして俺たち3人のお出かけが始まった。


 ✳︎✳︎


 明日のデート、何着ていこっかなぁ。


 朝から塾の受験前徹底講習に参加していたわたしは、昼休みに塾の教室でお弁当を食べながらボーッと考えていた。


 日曜日はお兄ちゃん(と海里や柑奈さんたち)とデート。

 わたしの計画としてはあの不躾下品ギャルコンビたちをエサにして、わたしが女として気品があることをお兄ちゃんにアピールするのが一番の狙い。


 お兄ちゃんが柑奈さんに靡かないように、義妹条約なんて結んで海里と一時休戦したけれど、やはり無理だわ。


 絶対にわたしはお兄ちゃんの一番の寵愛を受けてみせる。


 このデートはバレンタイン前で最後のアピールチャンス。

 だから明日のデートは、お兄ちゃんの前であの二人とは女として格が違うことを見せつけないと。


 そして私に惚れ込んだお兄ちゃんとバレンタインに……最高のS●Xを……っ。


「……て、ん? 海里からlime?」


『海里:やっほーお姉ちゃん、勉強頑張ってるー?』


「ん……? はぁぁぁああああ!?」


 メッセージと一緒に送られて来たとある写真。

 スノートップスで柑奈さんと海里とお兄ちゃんが同じフラペチーノを楽しそうに飲んでいる様子が収められている。


「え、小樽さん大丈夫?」

「今叫んだの元生徒会長さんだよな?」

「どうしたんだろ」


 ど、どういうこと?

 デートは明日の日曜日だったはず。

 スケジュールが変わったなんて聞いてないし……ま、まさか。


 昨日、わたしがお兄ちゃんを独り占めしてカフェに連れて行って海里に自慢したから……?


「その仕返しってことね……海里ぃぃぃぃぃいいいい」


「お、おい美人の元生徒会長が鬼みたいな顔してるぞ」

「近づかんとこ」

「ああ……あの顔好き。蹴られたい(切実)」


 今すぐ塾を抜け出したかったが、この塾は無断で抜け出したりすると親に連絡が行くシステムなため、抜け出せない。

 海里はそれを知っていたから今日デートに変更したのね。


 その後の授業中もわたしは、唇が真っ赤になるくらい噛み締めていた。



————————

モブのセリフは作者の本音です(切実)

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