5話 疑惑


 方々の親戚の家へ挨拶して回り、いつも通りたくさんのお年玉を貰ってから家に帰ってきた。

 親戚のおじさんたちはあたしらのことをエロい目で見てくるから、毎年挨拶に行くだけで「眼福眼福」とかキモいこと言いながらお年玉を弾んでくれる。

 日頃から出費がデカいあたしからしたら、嬉しい限りなんだけど……今はそんなことより、知りたいことがあったんだった。

 マンションまで帰ってきたら、あたしはおねーちゃんと一緒に部屋で振袖を脱いだ。

 結局あれからおねーちゃん、車の中や親戚の家でもずっと満面の笑顔でご機嫌だったし、明らかにいつもよりテンションが高かった。

 やっぱり何かおかしいし、おにいと二人ではぐれて迷子になった時に何かシたに違いない。

 それもおねーちゃんが上機嫌になるくらいのことで、おにいとの関係を進展させるような何か……。


 それについて知るためには、どうやっておねーちゃんから聞き出すか考えないと……。


「……ねぇ、海里?」


 部屋着に着替えながら考えていると、おねーちゃんの方からあたしに話しかけてきた。


「もしかしてお兄ちゃんのこと、気になってる?」

「……は? 気になってるって?」

「お兄ちゃん……ちょっと顔が赤かったと思わない?」

「それは確かに、そう見えたけど」


 あたしがそう答えると、「でしょーね」とでも言っているかのように、おねーちゃんは余裕な笑みを浮かべる。

 この感じ……やっぱりおねーちゃんはおにいに何かしたんだ。


「ねぇ、おにいに何したの? まさか、き、キッスとか?」

「……はぁ。海里はまだそんなお子様な感性なんだね」

「お、お子様じゃねーし!」

「じゃあ、何だと思う? わたしはもっと大人なことをしたんだけど?」

「そ、それは……」


 それがすんなり分かるならこんなモヤモヤしてない。

 おねーちゃんの言う"大人なこと"がわたしには分からない。


「ごめん、やっぱり分からな——」


「わたしとお兄ちゃんがヤルことなんて、SE●に決まってるじゃない」


「え…………っ」


 時間が止まったような気がした。

 何も考えられなくて、立ち尽くすしかなくて。

 次第に唾が口に溜まって、それを飲み込むのすら忘れるくらいの衝撃。


「嘘……でしょ?」


 せ、セッ、クスって……その、大人の男女で子供を作るためにする……あのS●X?

 アレをおねーちゃんとおにいがした、の?

 そんな……じゃあ、もうおにいとおねーちゃんは。


「……なんてね。嘘よ海里。動揺しすぎ」


 おねーちゃんは人差し指であたしの頬をぷにっと押すと、そのまま部屋着に着替えてリビングへ行ってしまった。

 

 え、あ、え? 嘘? だったの?

 急に脱力したあたしは、目眩がしてベッドに身を投げた。

 あのおねーちゃんのことだから、嘘もまた嘘なのかもしれないし、●EXをしたかしてないかすら確かめようがないけど、あの様子だと本当に冗談だったようにも思える。


「……動揺、するに決まってるじゃん」


 嘘で良かった……なんて、悠長なことは言ってられない。

 結局おねーちゃんが上機嫌な理由は分からないままだし、わざわざあんな言い方をするってことは、きっとそれに近いことをしたに決まってる。

 じゃないと、さっきまでの二人の違和感の理由が分からず終いになっちゃうし、何よりおにいの顔が何かあったことを語っていた。

 おねーちゃんはどんな手であれ、新年からおにいを堕とすために動いていたんだ。


 それに比べてあたしは……結局なんにもしてない。


 このままじゃ……ダメじゃんあたし。


 おねーちゃんと戦っておにいを守るって決めたのに、ダメダメだ。

 いつも無策だし、行き当たりばったりだし、このままだとおねーちゃんの作戦に押し負けちゃう。


「ダメ。このままおねーちゃんの手のひらの上で踊ってるピエロになるわけにはいかないよ」


 でも、今のあたしじゃおにいをあんな真っ赤な顔にできるくらいのおねーちゃんみたいな策はない。

 あたしは一人じゃ——ん?

 そっか。一人じゃダメなら二人で考えればいいじゃん。


「そうだよ。ここは親友の柑奈にアドバイスもらおう」

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