4話 海里、動く
「おにいたち、マジで遅いし……」
あたしはお父さんとお母さんと3人でファミレスにいながらはぐれた二人が来るのを待っていた。
あたしはスマホの中にある英単語帳アプリで英語の勉強をしながら暇を潰していたけど、二人がなかなか来ないことの方が気になって全然集中できない。
しばらくして、やっとおにいとおねーちゃんがファミレスまで来たのが窓から見えた。
二人は焦った様子で店内に入って来て、あたしたちのテーブルを見つけるやいなや近づいてくる。
「は、はぐれてすまん!」
「ごめんねみんなっ」
おにいはぜえぜえ息を切らし、おねーちゃんも少し顔を赤くしながら現れた。
「もぉ、しっかり者の優梨がいながらはぐれるなんて珍しいわね……? どうせ悠人がいつまでもくじ引きしてたんじゃないの?」
「え? そ……そうだな。まあ、そんなとこだよ」
あれ? 何かおにい……いつもと違う。
いつもならお母さんが茶化すと強めに反論するのに……すんなり話を流してる。
どうしたんだろ?
「悠人と優梨も合流したことだし、そろそろ親戚への挨拶回りに行くか」
お父さんがそう言うとあたしやお母さんも席を立ち、会計を済ませたら家族で車に乗る。
運転席にはお父さん、助手席にはお母さんが座り、後部座席にはおにいを真ん中にしてあたしたち兄妹3人も座った。
あたしの左隣に座るおにいは、はぐれたことを気にしているのか、ちょっと元気がない。
あ、そうだっ! おにいにあたしの胸、当てちゃおっかなぁ……。
そうしたら少しは元気出るっしょ。
「ねえ、おにいっ」
あたしはわざとらしくおにいの右手を引いて、振袖越しにおにいの腕を自分の胸の谷間でサンドイッチする。
おにいのひんやりとした腕が見事に挟まった。
「ほらほら、もっとこっちに寄りなよって」
「…………」
あたしが強引に引っ張っても、おにいはボーッとした様子で何も反応を見せない。
いつものおにいなら「海里! 胸当たってる!」とか「やめろよ!」とか分かりやすく反応するのに、今はなぜか無反応。
「お、おにい?」
あたしが心配そうに呼ぶと、おにいは我に帰ったように「あっ」と一言反応してあたしの方を見た。
「ああ、ごめん。海里、何の話だ?」
あたしのスキンシップなんて何も無かったようなリアクションだった。
な、なにそれ……。
思った反応と違う。
おにいを見ていたら、反対側に座るおねーちゃんの顔が目に入った。
「……ふふっ」
おねーちゃんは、今にも零れそうな笑みを堪えるように口を噤み、薄ら笑いを浮かべながら横目であたしを見ていた。
ま、まさか……おねーちゃん、新年早々おにいに何かしたんじゃ……。
「海里? どうしたんだ?」
「……や、やっぱなんでもねえし」
あたしはおにいの腕からおっぱいを離すと、おにいにそう言って窓の外に目を向ける。
もしも、二人がさっきまではぐれていたのが必然だったとしたら、おねーちゃんはおにいに何かしかけた可能性もある。
前におねーちゃんは、2月14日のバレンタインがおにいとの関係を進めるための決戦の日と言っていた。
そのバレンタインまで残り一か月ほど。
仕掛けるならこの時期でもおかしくないし、むしろバレンタインに攻めるならここが攻め時だった……?
ならおにいに何かしてもおかしくない。
でもあのはぐれていたたった1時間でおねーちゃんがおにいに何をできるのか?
甘い言葉で誘惑? それとも強引にキス?
あたしの想像力じゃ、おねーちゃんがどんな手を使ったのか分からない。
よし、こうなったら探りを入れる必要があるかもしれない。
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