5章 あけおめとラブコメ

1話 新年あけましておめでとう。そして義妹戦争が始まる。


 柑奈さんとlimeをするようになり、久しぶりに妹以外の女子とコミュニケーションを取れているような気がする。


 顔も知らない、声も聞いたことがない。

 そんな女子が、まるで二次元の存在に思えて、俺はいつしか気楽にチャットをするようになっていた。


 柑奈さんは、カンタくんと同じように海里の親友らしく、いつも3人で遊び歩くギャルらしい。

 海里の幼少期の話で盛り上がったり、俺の趣味であるアニメやゲームの話も熱心に聞いてくれて(ASMR趣味は流石に話してない)、limeのチャットで会話しながらオンラインゲームをする仲にもなった。


 オタクに優しいギャルって存在するんだな。


 でも、会いたいかと言われると、違うような気がして。

 このままの関係を……ずっと、維持できたら、それで幸せだと思っていた。


 俺は……まだ怖いままなのかもしれない。


 ——元旦。


 毎年1月1日は家族で初詣へ行く。


 海里は金髪によく似合う白と金色の振袖で、優梨は紫と赤のシックな感じの振袖を身に纏っている。


 二人とも昨年より胸が成長したのか、着付けをする母さんが帯を結ぶのにかなり苦労していた。

 そして二人は神社に向かっている今も、少し胸元を気にする素振りを見せる。

 特に海里は、受験勉強のストレスで最近ジャンクフードをよく食べているから、優梨よりも胸が……。


「おにい、なんか視線エロい」

「なっ!」


 横目で海里の胸元を見ていたのがバレた。


「お兄ちゃん、もしかして海里のここ、見てたの?」


 優梨は紫色のネイルで自分の柔らかそうな胸元をふにっと押す。


「な、な訳ないだろ! 揶揄うのもいい加減にしろ!」

「ふふっ……」


 い、妹の身体で変な想像しちゃダメだろ。

 俺は神社に入る前に頬を叩いて煩悩を消し去った。

 神社にはそこそこ多くの人が初詣に来ており、同級生とかも居そうだ。


「おにいおにい! くじ引きしようよ!」

「ダーメ。お兄ちゃん、その前にお参り行こうね?」


 昨年までは優梨も海里も俺と口を聞いてくれなかったのに、今年は違うな。


 優梨は俺の右手、海里は俺の左手を引っ張っる。


 昨年の初詣の時は、海里から『おにい近寄んないでよ。同級生に会った時彼氏とか思われたくない』とか言われたし、優梨だって『お兄ちゃん、もう少し離れて』って言ってた。


 二人の反抗期が終わったからなのかもしれないがこの変わり様……いや、変わりすぎだろ。

 神社の境内まで来ると、家族5人で賽銭を投げる。


 さてと、お願いごと……か。


「絶対合格、絶対合格……」


 左隣で手を合わせる海里は、念仏のように抑揚なく絶対合格を何度も呟いていた。

 まあ、そうだよな。


 とりあえず妹二人の高校合格と……俺は、何もないな。

 そろそろ大学とかも考えないといけないかもしれないけど、俺の場合、東大京大なんて夢のまた夢だし、適当な推薦で適当な大学に行くことになるんだろうな。

 とりあえず……好きな配信者の音声作品が90%オフに値下がりしますように。


 ✳︎✳︎


 わたしの人間観察眼は何もかもを見通す。

 神社に向かって手を合わせる家族を横目で見る。

 お父さんはローンの返済、お母さんはダイエット、海里は高校合格……そしてお兄ちゃんは、おそらく好きな配信者のASMR音声商品が90パーセントオフになるのを願っているわ。


 まだ……お兄ちゃんの心はわたしに靡いていないってことね。


 でも来年のお兄ちゃんのお願い事が『優梨ともっとイチャラブ●●●できますように』になっている事はほぼ確定事項。


 わたしは『お兄ちゃんとイチャラブ●●●を毎日できるように』と願った。

 お兄ちゃんの童貞なんて、神に願うまでも無く既にわたしの手中にある。だから願うのはその先の未来。


 この前海里は女性恐怖症を治してお兄ちゃんに義妹であることを告げてハッピーエンド……なんて、少女マンガのテンプレみたいな展開を狙ってると言っていたけどわたしは違う。


 別に女性恐怖症のままでも、お兄ちゃんがわたしだけを好きになればいいだけ。

 小樽優梨本人のことが欲しくて堪らなくなれば、妹だろうとお兄ちゃんは"行為"がしたくて堪らなくなる。


 海里のただデカいだけでだらしないおっぱいよりも、わたしの張りのあるおっぱいの方が間違いなく楽しめるし、お兄ちゃんを最高の快楽に誘える。

 そしてわたしも一緒に……。


「おーい優梨ぃー? いつまでお願い事してるんだ?」

「え? あっ、ごめんねお兄ちゃんっ」


 みんなが先に帰っていく中、お兄ちゃんだけはわたしを呼んでくれた。

 もーお兄ちゃん……わたしのこと好きすぎ。


「長かったな? 何をお願いしたんだ?」

「海里と一緒の高校に合格したいですって、お願いしてたの」

「そっか……優梨は妹想いだな」


 お兄ちゃんの暖かい手がわたしの頭を撫でる。

 あぁぁ……嬉しすぎて下半身がもう……っ。


「んっ……」

「優梨? 顔赤いけど大丈夫か?」

「ごめんねお兄ちゃん。なんでもないから」


 もう——計画は始まっている。


「……って、あれ?」


 わたしは何も考えずに境内の前に立っていたわけじゃない。


「やっべぇ。母さんたちとはぐれちまったな」


 ダメよ優梨。まだ笑っちゃだめ。

 でも。


「計画通りぃ……」


 海里には悪いけど、わたしたちの戦いに年始休暇は無い。


 お兄ちゃんと一緒にいる時間の全てが戦いのフィールド——それこそが義妹戦争なの。


「この後、メシに行くって言ってたのに参ったな。とりあえずlimeで……」

「お兄ちゃんっ」

「ん?」



「振袖の帯、解けてきちゃった」



「……へ?」


 バカな海里にはできないわたしの緻密な戦い方。


 名付けるなら——『プロジェクトS●X』

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