9話 海里と柑奈
おねーちゃんとの話が終わり、あたしがリビングに戻ってくると、カンタとおにいは普通に勉強をしていた。
「ただいまー! カンタぁ、ちゃんとやってるー?」
「あったり前。海里の方こそ何やってたの?」
「そうだぞ海里。お前、サボってたろ」
やばっ! 戻るの遅かったから、二人の間ではあたしがサボってたみたいな認識になってんじゃん。
「き、今日寒いからお腹壊しちゃってー」
「「…………」」
二人の視線が痛い。
もぉ! あたしはおにいのために色々動いてんのに!
でも、おにいを助けるにはこうやって影で色々やるのが必須になるんだよね。
……我慢我慢。
「と、とりあえず勉強しよ! サボってたってことにしてもらってもいいから!」
「いいからって何だよ」
「今までカンタばっか教えてたんなら、次はあたしの番だから。おにい、ご指導よろ〜」
「はいはい」
あたしはカンタの隣に座り直すと、反対側に座るおにいに勉強を見てもらう。
そういえばカンタ……おにいと少しは仲良くなったかな?
この調子でカンタがおにいの男友達になってくれれば、色々とおにいの情報聞き出せるかもだし。
「そうだ。カンタくんの双子の妹さんって海里とも仲いいのか?」
カンタの、双子の、妹……?
左隣に座る柑奈を見ると、柑奈は「察しろ」と言わんばかりにあたしの方へウインクを繰り返してくる。
もしかして柑奈は、自分のこと双子の妹設定にしたってこと?
「海里?」
「も、もちだよ! 柑奈とあたしは仲良いっつうか、いつも遊んでる仲だし! 唯一の親友なんだよねー」
柑奈は少し顔を赤くしながらあたしの脇をツンツンしてきた。
今あんたは照れんなし! あくまでおにいの前だから言ってるだけだから!
「へぇ……それなら、少しは安心かな」
「安心?」
「お、お兄さんっ! そんなことよりも! オレ、ここわかんないんですけど!」
「え、う、うん」
柑奈は身を乗り出して、目の前に座るおにいの方へテキストを突き出す。
……なんか、柑奈の様子おかしくない?
今の反応もそうだし、自分が双子の妹っていう設定も作ったりしてるのも、何かヘン。
あたしはその場に流れる違和感を覚えながらも、勉強を再開するのだった。
✳︎✳︎
海里とカンタくんの勉強会は夕方まで続き、勉強会が終わると、俺は自室のベッドの上でVチューバーのASMRを聴き入っていたのだが、ぺちゃぺちゃという耳舐め音と重なるように、俺のスマホがブルブル震えた。
「……ん?」
『柑奈:初めまして、カンタの妹で柑奈です』
「うぉっ!」
カンタくんの妹の柑奈さんからlimeがあった。
limeとはいえ、ずっと怖かった女子との会話。
海里の親友だし……俺のこと、騙したり……しないよな。
でも相手は俺のことを知らない。
きもいとか……思われてるかも、しれない。
嫌々俺との会話に付き合わされてるなら、俺だって嫌……。
『柑奈:兄から事情は聞きました! お兄さんのために、私なんかで良かったら、協力させてください!』
「柑奈……さん」
俺は『ありがとう』と返信して、久しぶりに女子とlimeで会話を交わした。
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