7話 双子姉妹の方向性
「わたしの計画はわたしの計画よ!」
「だから、おねーちゃんの計画って、なに? 具体的に言って」
おねーちゃんから呼び出されたものの、話が長くなりそうだと察したあたしは、とりあえず自分のベッドに座った。
するとおねーちゃんも勉強机の前から、あたしの反対側にある自分のベッドの上に腰を下ろし、徐に喋り始める。
「……海里には、まだ話さないつもりだったけど、ちゃんと話してあげるわ」
「うん、教えてよ」
「わたしは来年2月のバレンタインで、全てに決着をつけれるように事を進めてる。その頃にはお兄ちゃんを完全なシスコン妹中毒者にしておくのがわたしの計画なの。だからお兄ちゃんの心と童貞を奪うのはバレンタイン当日でないといけない」
おねーちゃんは何の恥じらいもなく、さっきからワケの分からない言葉を並べる。
シスコンの妹中毒者ってなんなん? マジで意味不明なんだけど。
「それなのにあなたと来たら、邪魔する気はなかったのかもしれないけど、この家に男装したあんな爆弾を送り込んで……もしもお兄ちゃんにバレたらどうするつもり!?」
「バレる? 柑奈が?」
「金川さんが女ってことがバレたら、お兄ちゃんが一体どんな反応をするかはわたしにも分からない! もし仮に、騙されたショックでさらに女性にコンプレックスを抱えて引きこもりになったらどう責任をとるの?」
「いやいやさすがにそれはないっしょ」
「あるかもしれないじゃない!」
おねーちゃんは座っていたベッドから立ち上がり、凄い剣幕であたしの目の前まで迫って来ると、胸ぐらに手をかけた。
そんなにおにいが女性恐怖症っぽいの気にするなんて。
おにいが……柑奈にビビって引きこもりになるとかあり得ないと思うけど。
「お兄ちゃんの女性に対しての警戒心、知らないの?」
「な、なにそれ」
「お兄ちゃんって、スーパーのレジとか駅のホームとかで並んでる時、前に女性がいるとその列には並ばないし、マンションのエレベーターも女性が乗ってたら、遅刻しそうな時でも乗らないし!」
え? おにいってそんなに気にしてたん……?
女子と付き合ったり馴れ合うのはもうやめる、ってくらいのレベルかと思ってたんだけど……。
「……ま、まあさ、もし仮にバレたとしてもおにいの女の子耐性復活〜って感じでお祝いすればいいじゃん。現に男装中のカンタなら普通に話せてるし」
「逆にもっと苦手になったとしたら?」
「は?」
「お兄ちゃんがカンタを金川さんだと知って、より一層警戒心が強くなったらどう責任を取るのって聞いてるの!」
ヒステリック気味なおねーちゃんは目に涙を浮かべながらあたしに訴えかけた。
せ、責任って……そんな。
「言っておくけど、わたしたちだって本当はお兄ちゃんと血が繋がっていない"女性"なのよ」
「……っ」
おねーちゃんのその一言は異様に冷たく鋭利な一言だった。
おねーちゃんの言うように、あたしたちはおにいと血が繋がっていない義妹だって最近あたしたちは知った。
その事実はお母さんとお父さんの口からはっきり聞いたものだし間違いはない。
それはつまり、あたしたちとおにいは血のつながりがないってこと。
たとえこうして同じ屋根の下に住んでいても、血のつながりが無いってことは、本当の兄妹ではないってことなんだ……。
でもさ、やっぱりあたしはおにいをお兄ちゃんだって思いたい。
おにいの優しさって、妹だから味わえる優しさだと思うから。
でもおねーちゃんは口を開けばおにいとS●X、おにいとS●X……。
おねーちゃんはもう、おにいをおにいだと思ってないのかな……?
「海里、今のお兄ちゃんはわたしたちを妹だと思ってるから仲良くしてくれてる」
「そう、だね」
「わたしが前に開いた義妹会議の時に『お兄ちゃんに義妹ってことを伝えないようにする』約束をしたのは、それが大きな理由なの。妹であるうちは、お兄ちゃんと仲が深められる。でも」
「妹じゃないって分かったら、おにいはあたしらのこと、他の女性と同じように警戒するって言いたいんでしょ?」
「その通り。でもわたしの場合はただ妹であるだけじゃない」
は? どういう意味?
ただ妹であるだけじゃない……?
「わたしの目標は『妹』として『妹』のままお兄ちゃんに『妹のわたし』を好きになってもうことなの。好きになってもらって、付き合う寸前で血が繋がってないこと、つまりS●Xができることをカミングアウトする! そうすればお兄ちゃんは妹のわたしもそうじゃないわたしも愛してくれるの! だから今は、お兄ちゃんに妹が好きになる【ど変態シスコン性癖】を与えてる途中だから邪魔しないで」
「な……なんか自分が正義っぽいこと言ってるけどおねーちゃんがやってること激ヤバだからね?」
「……あなたも少しは賢くなったなら、これくらい頭を回しなさい。カンタの一件で、もしものことがあれば、わたしはあなたと金川さんを許さない」
胸ぐらを掴むおねーちゃんの手がさらに強く引っ張って、あたしのおっぱいが全部こぼれそうになる。
「……分かった?」
おねーちゃんの言ってることは確かにキモいけど、理由はしっかりしてると思った。
おにいが女性恐怖症だからまずは妹として自分を好きになってもらいたい。
おねーちゃんはその後義妹ってバラして背徳感マシマシの極上性行為に持ち込みたいだけみたいだけど、本当におにいのことが好きだから、そうやって頭を使えるんだ……。
「でもさ、おねーちゃん」
「なに?」
「逆にあたしは、素直におにいの女性恐怖症を治してあげたいと思う」
「さっきの話聞いた上で言ってるの?」
「うん。おにいはVなんたらっていう2次元の女の子なら好きになれる。つまり少なからず女子が好きなんだよ。だからあたしは、3次元の女の子が好きになれるように、おにいを支えたい。そのために同じ高校へ行くんだし!」
あたしはずっと心の中で考えていた自分の計画を口にした。
あたしだって、おねーちゃんくらい考えてるんだし。
「つまり海里は……わたしがやろうとしてる、妹であるわたしを好きにさせて最後にバラすのとは違って、お兄ちゃんの女性恐怖症を治して自分が義妹ってことを伝えるってこと?」
「そーいうこと。男装とはいえカンタに慣れさせるのはその一歩だから」
「詭弁ね。自分を正当化したいだけでしょ?」
「それならおねーちゃんこそ自分の性癖をおにいに押し付けてるだけじゃん」
「…………」
「…………」
方向性の違いにより、あたしとおねーちゃんは別々の方法でおにいに義妹だとバラすことを心に決めた。
ここからあたしたちの義妹戦争が始まる。
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