5話 優梨登場、空気が凍る


 おねーちゃんが帰ってきたことで、あたしと柑奈は無言になり、完全に凍りつく。


「…………」


 おねーちゃんの視線が痛い。何もされてないのに物理的に痛くなるレベルで痛い。


「ねえお兄ちゃん。その子……」

「ん? どうしたんだ?」


 間違いなくおねーちゃんによってバラされると思った瞬間。

 おねーちゃんは怖いほど自然な笑顔で、柑奈に歩み寄る。


「ううん。ただ、玄関に見慣れない靴があったから、お客さんがいるとは思ってたんだけど、まさかそれがだったなんて」

「優梨もカンタくんと知り合いだったのか? ああ、優梨は元生徒会長だから顔が広いのか」

「そうだよー」


 おねーちゃん、柑奈のことバラさないの……?

 意外だった。

 ここで柑奈のことをカミングアウトすれば、おにいのあたしに対する信頼を失墜させることもできたと思うのに、おねーちゃんはむしろ柑奈が男装してることを察して、あえて話を合わせてきたのだ。

 

 あのおねーちゃんのことだから、きっと何か企んでるに決まってるけど……今回ばかりは助けられた。


「ふーん、金川さんって休日とかはそういう私服なんだね?」

「……せ、生徒会長の方こそ、家だと結構明るいんだね?」


 柑奈が余計なことを言うと、おねーちゃんは目を細めた。


「元、生徒会長だよ? カンタくんっ」

「は、はいぃ……」


 柑奈、マジで死ぬし。

 もうおねーちゃんとレスバすんのはやめとき。


「あれ? 優梨って中学だと暗いのか?」


 おにいは横から地雷を踏んできた。

 その質問はおねーちゃんブチ切れ案件だからスルーしてよおにい!!


「わ、わたしは……」


 おねーちゃんは今にもブチギレそうな鬼の顔の一歩手前で耐えながらおにいの質問に答えようとする。


 実際のところ、おねーちゃんは中学だとあまり明るい生徒ではないし、友達もほぼいない。

 周りの人望とかは結構あるけど、どこか近寄りがたい雰囲気があるし、2年の時に生徒会長になったのも、主に見た目で男子たちからの人気を勝ち取ったからなれた感じもあるし、周りに友達が多いかと言われると微妙なんだよね……。

 あたしと柑奈みたいな関係性の友達はいないと思うし、ガリ勉の生徒会長だから、暗いと言えば暗いかもしんない。


「わ、わたしは! 生徒会長だから常に毅然としてるだけ。海里が自由奔放で目立つからよく比べられるけど、わたしは至って普通だよ?」

「そ、そうなのか?」


 おねーちゃんは柑奈の挑発を微動だにせず、スラスラと反論する。

 やはり口での勝負ではおねーちゃんに勝つのは難しいよね。

 より一層、おねーちゃんには勉強で結果を残すしか勝ち目がないことを自覚した。


「そうだ。優梨も一緒にどうだ?」

「一緒に?」

「勉強だよ。生徒側でもいいけど、もし良かったらカンタくんと海里の先生役でもいいし」

「二人の……先生ねぇ」


 あたしと柑奈はビクビクしながらおねーちゃんの顔色を伺う。


「ふふっ……やっぱりわたしはいいかな。せっかくお兄ちゃんが楽しく教えてくれてるのに、わたしみたいな"暗い子"が入ってきたら、カンタくんや海里の邪魔になっちゃうし」


 さっき煽られた分、柑奈に言い返すようにおねーちゃんは少し棘のある言い方をする。


「お、おう……でも来たくなったらいつでも来いよ」


 おにいは少し寂しそうな顔で言う。

 なにその反応……残念がっちゃって。

 おねーちゃんに断られたからって、なんかおかしくない?


「じゃあわたしは部屋に戻るね」


 おねーちゃんは去り際にあたしの方をギロっと睨んでからリビングから出て行った。

 ほんと、おねーちゃんはあたしの邪魔ばっかしてくる。

 別に柑奈を呼んでもいいじゃん! こうして上手いことおにいを誤魔化せてるんだし。


「さあ二人とも、勉強再開するぞ」

「「はーい」」


 そしてあたしたちは勉強に戻る。

 しかし、数分後。


「…………ん?」


 部屋着のホットパンツのポケットに入れていたあたしのスマホにlimeの通知が入った。

 なんか……嫌な予感。


『優梨:部屋に来い』


 案の定、おねーちゃんからだった。

 ……うわぁ。こっわ。

 絶対キレてるじゃんこれぇ……。


「お、おにい、ちょっといい?」

「どうした海里」

「ちょいお腹痛いから、席外すね。カンタのことよろしく」

「お……おう」


 おねーちゃんに呼び出されたあたしは、リビングを後にした。


 ✳︎✳︎


 カンタくんと二人きりになってしまった。

 俺が若干の気まずさを覚える一方で、カンタくんの方は平気な顔をしていた。


「お兄さん、ちょっと聞きたいことがあるんすけど」

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