5話 イルミネーションより兄を見たい。
県内の某所にあるフラワーパークで毎年クリスマスに行われている大規模なイルミネーション。
この辺ではクリスマスデートの定番スポットの一つであり、毎年多くのカップルが来る。
冬の寒空の下で、イルミネーションの光の温かさに包まれたフラワーパークの花畑。
入り口に並んでいる花のアーチにも光が灯され、俺はそのアーチを見上げながら、フラワーパークへ入場する。
周りを歩くのはこんな真冬でもアツアツなカップルばかり。
クリスマスなんだから当たり前なんだろうけど、こんなの見せられるくらいなら、家で『童貞のための耳舐めASMR』を聞いてる方が良かった。
「おにいどうよ! イルミネーションめちゃ綺麗でしょ?」
「ここってカップルばっかだな」
「当たり前じゃん! カップル以外でクリスマスの夜にこんなとこ来る人いないって」
それなら今ここに"カップル以外"に含まれる兄妹3人組が居るんだが……?
「お兄ちゃんって、こういう所嫌いなの?」
「別に嫌いってわけじゃないが……クリスマスに妹と来るような場所じゃないような」
「おにいは周りを気にしすぎだし! カップルばっかりで嫌な気持ちになるなら、あたしが手を繋いだげる」
「はあ!? いや、それで何が解決するんだよ!」
「カップル見るのが嫌なら、あたしらもカップルみたいに見えれば問題解決じゃん! 手繋いでればカップルにしか見えないし、妹だとは思われないっしょ?」
よく分からない詭弁を並べる海里は、俺の左手に自分の右手を重ねる。
「うっわ! おにいの手、冷たーっ」
「そりゃ寒いんだから仕方ないだろ。むしろお前の手が温かすぎるんだよ」
「あれ? 手、繋いでんのに動揺しないんだね?」
「そりゃ動揺なんかしないだろ。ぎゃ、逆に……妹と手を繋いで興奮してたらキモイだろうが」
俺が含羞の表情を浮かべながら言うと、今度は右手が急に温かくなった。
「じゃ、わたしもお兄ちゃんと手繋いじゃおっかな」
「ゆ、優梨まで俺を揶揄うのやめろっ!」
「そうだよおねーちゃん! おにい嫌がってんじゃん」
「お前もだ海里! さっさと離れろっ!」
俺が二人を振り払うと、優梨と海里は「むぅー」と唸りながら俺の方を見上げてくる。
「あのさ、お前らは俺じゃなくてイルミネーション観ろ!」
✳︎✳︎
最終的にわたしたちの押しに負けたお兄ちゃんは、わたしたちと手を繋ぎながらイルミネーションを見て回ることに。
海里はお兄ちゃんの左手、わたしはお兄ちゃんの右手を取る。
「おにい、なんか顔赤くなーい?」
「べ、別に赤くない」
「あたしらみたいな美人姉妹をクリスマスに独り占めできるとか、おにいも幸せ者だよねー」
「はいはい、そーだな」
さっきから海里は「おにいはあたしとデートしてる」みたいな雰囲気に持ち込もうと、積極的にお兄ちゃんへ話しかけていた。
なるほど、今日の海里はそういう戦法で行くわけね……。
ふっ、海里もまだまだ甘いわ。
わたしはぎゅっと握っているお兄ちゃんの右手に神経を集中させる。
わたしが会話に参加しないのはこの手に集中してるからなの。
お兄ちゃんは、いつも"アレ"をする時に右手でシてる。
だからこっちの手を繋げば、実質お兄ちゃんのアレを握ってるのと同じ。
あー♡ お兄ちゃんの"アレ"あったかーい♡
主導権とお兄ちゃんのち○ち○を握るのはこのわたし。
少しオツムが良くなったからって勝った気になってるところが、やはり海里らしいわね。
「お、俺なんかよりも優梨の方がなんか顔赤いけど大丈夫か?」
「へ? ……そう、かな」
「熱でもあるんじゃ」
お兄ちゃんは繋いでいた右手を離すと、わたしのおでこへ手を移動させる。
お、お兄ちゃんの○ん○ん(をいつも握ってる右手)がわたしのおでこに!
「お、おい、さらに赤くなったけど」
「おねーちゃん、また何か変なこと考えてるんじゃ」
「変なこと?」
お兄ちゃんが不思議そうな顔で、こっちを見てくる。
海里め……また余計なことを。
「んー、海里が言ってることはよく分かんないけどさ、こんなこともあろうかと、一応カイロ持ってきたんだよ」
「へ?」
「ほら、優梨」
お兄ちゃんはコートのポケットの中にあった新品のカイロを取り出すと、今一度わたしと手を繋ぎながら、手と手の間にカイロを挟んだ。
「手繋いでたら寒くてさ。こうすれば俺も優梨も温まるだろ?」
お兄ちゃんの方から、手を繋いで……。
興奮のあまり身体中が気持ちよくてビクンビクンするのをなんとか抑えながら、わたしはお兄ちゃんの方を見上げる。
「お、お兄ちゃん……やっぱり頭いいね? カイロを挟めば一緒に温まれるなんて、天才の発想だよ」
「そうか? いやぁ、天才の優梨に褒められると照れるな」
お兄ちゃん……ほんと、好き。
一刻も早く邪魔者の海里を置いてホテル行ってホワイトクリスマスしたい……!
わたしがひとりげにニヤけると、海里だけがずっとこちらを白い目で見ていた。
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