4話 バチバチなクリスマスデート


 クリスマス当日。

 本来なら、推しVチューバーのエロ耳舐めASMR配信とティッシュを片手にホワイトクリスマス(意味深)をする予定だった俺だが、急遽双子の妹たちと過ごすことが決まったことにより、ジングルジングルうるさいアーケード街を一人で歩く。

 雪の日でも暖かい焦茶のコートに身を包み、耳に入れたイヤホンでは部屋でのんびり聴く予定だった天使ヶ丘ゆるるちゃんの配信を聴きながら、待ち合わせ場所へと急いでいる。


 別に待ち合わせなんかしないで家から一緒に行けばいいのに……と、優梨と海里の二人に言ってみたが、二人は口を揃えて「「駅前で待ち合わせ!」」と譲らなかった。

 優梨も海里も「一緒に行ったら雰囲気が〜」とか言ってたが、俺には全くもってその意味がよく分からなかった。

 そもそもどうしてこんな兄貴とクリスマスを過ごしてくれるのか、皆目見当もつかないままだし。


 今更だが、あの二人を同学年の男子たちは狙っていなかったのだろうか。


 あの二人が可愛すぎて逆に手を出せない? いや、イケメンやチャラ男なら意地でもあの二人を狙うと思うが……。


 優梨はガード硬いイメージがあるから、普段から男の臭いがしないのも分かるが……ギャルの海里はどうなんだ?


 まあアイツに至っては、キスが恋愛の最上級と思ってるくらいピュアだし、好きな男子と同じ高校に行きたいとか、意外と乙女な一面もあるからな……。

 海里って男と付き合ったことないのかな?

 ギャルだし、一度くらいはあるだろうけど。


「まあどちらにせよ、妹の恋愛歴とかどうでもいいよな」


 俺が待ち合わせに指定された最寄りの駅の前まで来ると、金髪と黒髪の美少女二人がバスのロータリーにあるベンチに座りながらスマホをいじっていた。

 優梨は、夜の暗がりでもすぐに見つけられるような純白で裏起毛のもこっとしたコートを見に纏っており、下は歩きやすいジーパンを履いている。

 逆に海里は、その金髪によく似合ういかにもギャルっぽい黒色のチェスターコートに、なんと丈の短いスカートという、本当に寒く無いのか心配になる格好をしていた。


 海里め、こんな雪も舞ってる天候なのに肌の出るスカートとか……冬舐めすぎだろ。

 しかし全く寒そうな様子を見せないので、どうやら平気みたいだ。

 海里の場合、部屋着も薄着だし大丈夫なのかもしれない。


 俺は二人を見つけてすぐに、二人が待つベンチに小走りで向かった……のだが、俺が向かったのほぼ同じタイミングで、二人の前にチャラそうな男の二人組が現れた。


「お、おいおい。あいつら絵に描いたようなナンパ野郎どもに捕まってんじゃねえか」


 いかにもな厳つい格好をした男たちは執拗に二人と距離を詰めると、二人をどこかへ誘っているようだ。


 あの二人は中学生に見えないから気持ちは分からなくもないが、手を出したら普通に犯罪だぞ。

 男たちに歩み寄られて話しかけられているが、二人は微動だにせずスマホを見ている。

 あ、アイツら……やっぱこの手のナンパに慣れてるみたいだな。


「お、おーい! 二人ともー」


 俺は助け舟を出すつもりで思い切って二人に声をかける。

 本当は俺も怖いんだが、このまま妹二人に何かあったらその方が困るし、俺が殴られて済みそうならそれでいいもんな。


「な、なんだオメェ!」

「今は俺たちがこの子たちに声かけてたのに!」


 怒り顔と困り顔が混ざったような複雑な顔をした二人組は、割って入ってきた俺にガンを飛ばしながら怒鳴ってきた。


「え、えっと俺は……こいつらの」


 二人の兄なので二人から離れてください、と言おうとしたその時、さっきまでベンチに座ってスマホをタプタプしていた二人が同時にスタンドアップして、俺の腕に手を伸ばしてきた。


「え、優梨? 海里?」


「「この人はあたし(わたし)の彼氏」」


 二人はそう口を揃えながら、グッと俺の腕に抱きついてきた。

 右腕には海里のもちっとした胸、左腕には優梨のハリのある巨胸が押し付けられる。


「なっ……」


 なんだこの、味わったことのない感触は……?

 お、落ち着け俺……妹の胸なんか意識したら、ただのシスコンだからな!


「二人の彼氏だとぉ!? おっ! おまえっ! こんな美人二人を一人で独占するとかっ! さ、最低な男だな!」

「いやいや、独占も何も俺はこいつらの」


「あなた今——わたしの彼氏に悪口を言いました?」


 優梨は俺の左腕から離れると、俺にいちゃもんをつけてきたチャラ男の前まで行って睨みつける。


「な、なんだよ! お前の彼氏はそこの金髪とも付き合ってんだろ? お、おかしいだろ、それ!」

「は? お前らみたいな低偏差値の風吹かせてるヤンキー風情が高偏差値で気品のあるお兄ちゃんに悪口とか頭●いてんじゃないですか? これ以上絡んで来るなら今すぐ警察呼びますけど」

「な、なんだとてめっ!」

「こんなクリスマスに男二人で悲しくナンパしてるような非モテクソダサヤンキーなんかに誰がついていくんですか?」

「そ……それは、その……」

「それともなんですか? まさか彼女の一人も作れないのにクリスマスに女の子のお尻を追っかけている自分がカッコいいとでも思っているんですか? そんな情けない姿をあなたのお母さんが見たらどう思いますかね?」

「お、俺の母さんは……5歳の時に死んでて」

「要らないこと話してんな! もう行くぞ! なんかこの女やべぇ目してる!」


 優梨が凄んだからか、チャラ男二人組は顔を引き攣りながら駅の方へ逃げて行った。


「ゆ、優梨、お前……」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「口、悪いな」

「なんのこと?」


 優梨はあくまでもシラを切るつもりのようだ。

 優梨は純粋無垢な天然ちゃんだと思い込んでいたが、最近ブラックな面がチラチラと散見される。

 優梨がそんな裏の姿を見せてくれるようになったのも、ある意味嬉しかったりもするんだけどな。


「ねえおにい、今の見たっしょ? あれがおねーちゃんの本性だし」

「本性、か。確かに口は悪かったけど俺たちを守るために言ってくれたんだろ?」


 そう優梨に問いかけると、優梨は頷きながらニコッと笑顔を返した。


「当たり前。だってわたしは小樽家の長女なんだし。お兄ちゃんや海里を守るためならなんでもするもん」

「そっか。ありがとな優梨」


 俺がお礼を言うと、優梨は俺の左手を掴んで自分の頭へと持ってきた。


「お兄ちゃんに、ご褒美のなでなでしてほしいな?」

「へ? お、おう」


 俺は駅前のロータリーで優梨の頭を撫でる。

 な、なんだこれ。

 

「ちょっと待ってよ! いつもおにいを守ってるのはあたしなのに、それはないじゃん!」

「守るって? いつ守られたのか全く記憶にないんだが」

「むぅ……! もういいし!」


 海里は不貞腐れながら俺の右腕から離れる。


「兄妹なのにそんなとこでイチャつくとか、マジでキモー! おにいもおねーちゃんキモすぎだし!」

「別にキモくないよね、お兄ちゃん?」

「いや、キモいっていうか、普通に恥ずかしいだけなんだが」

「別にいいじゃんっ。だってお兄ちゃんは妹が大好きなんだし」

「おい! 俺は妹が好きなんて一言も」


 優梨は一瞬、不敵な笑みを浮かべ、俺の手を取ると先を歩き出した。

 なんだ今の……笑い。


「今日はね、イルミネーション観に行くんだよ? 海里と一緒に決めたの」

「イルミネーション……?」

「この近くにあるフラワーパークでやるみたい。あたしが調べたし」


 へぇ……海里がイルミネーションを提案したのか。


「派手なモノを好きな海里にしては、意外とロマンチックだな?」

「なんそれ! あたしのことバカにしてんの!?」

「別にバカになんかしてないだろ。シンプルに褒めてるんだよ」

「ふ、ふーん? じゃあ、あたしとイルミネーション行けるのが嬉しいとか?」

「嬉しいっていうか、俺はただ」

「お兄ちゃん。あんまり海里とイチャイチャしないで」


 優梨が鋭利な視線を俺の目に突き刺す。

 最近の優梨、この目をすることが増えたような……。


「おねーちゃん嫉妬とかダッサ」

「……海里の方こそ、同点なんだからあんまり勝ち誇った顔でデートしないでもらえる?」

「同点? なんのことだ?」

「「なんでもない!」」


 優梨と海里は怒り顔で同時に言い放つ。

 こいつらの会話の内容はよく分からないが、一つだけ気づいたことがある。

 もしかしてこいつらが仲悪いのって、志望校どうこうじゃなく、俺が原因だったりする、のか……?

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