3話 義妹沼へと誘われて。


「優梨は、クリスマス彼氏と遊ぶんじゃ? この前だってクリスマスが楽しみとか言ってたし、あれって彼氏と」

「お兄ちゃんって彼女いないよね? なら、クリスマスは一人なんでしょ?」

「ぐっ!」


 優梨のやつ、どストレートに痛いところを突いてくるな……。


「一人だとお兄ちゃんが可哀想だから、わたしが」


「ちょっち待ってよおねーちゃん」


 俺たちの会話を遮るようにして、海里が妹部屋からひょっこり顔を出した。

 そのまま玄関先にいる俺たちの間に割って入ってくると、優梨の方に指を指す。


「わたしが、じゃなくてわたしたちが、の間違いだよね、おねーちゃん」

「……ど、どういう事だよ海里」

「あたしも、おにいとクリスマス過ごしたげるって言ってんの」

「はぁ? お前は好きな男子と過ごすんじゃ」

「好きな男子ぃ? どこ情報よそれ。もしかしておねーちゃん?」

「わたしは何も言ってないけど」


 優梨は首を傾げながらそう答える。

 いやいや、海里が勉強してるのは好きな男子と同じ習学院に行きたいからであって、その理由を知ってたらクリスマスはその意中の男子と過ごすものだと思うだろ普通!


「まあいいや。とにかくあたしらは、クリぼっちのおにいが可哀想だから、一緒にクリスマス過ごしてやるって言ってんの」


 優梨と海里が一年に一度の大切なクリスマスを兄の俺と過ごしてくれる……?

 そりゃ、クリぼっちなのは確定していたワケだし兄としては嬉しい限りだが……何かおかしい、これは罠か?

 だって優梨も海里も男とクリスマスを過ごすのを楽しみにしてたじゃないか。

 海里なんか意中の男のためにうちの高校目指してんのに……クリスマスはその男と過ごさないなんて、おかしい。

 意中の男子と一緒の高校に行きたい、ってくらいの情熱があるのに、クリスマスは彼を誘わないなんて……。


「おにいどうすんの? せっかくあたしらの誘ってんのに断るの?」


 兄想いな二人の気持ちはとても嬉しいのだが……別に俺はクリぼっちでいい。

 クリスマスは推しVチューバーの天使ヶ丘ゆるるちゃんが生で配信してくれる【童貞くんたちと過ごすクリスマスASMR〜可哀想だから聖夜の夜に耳舐めしてあげる〜】を聞きながら、性の6時間をホワイトクリスマス(意味深)にしようと思っていたからだ。


 妹とクリスマス……か。

 この美人双子姉妹と一緒に歩いてると、周りから嫉妬じみた目で見られることも多いし、クリスマスとなるとなおさら厄介な事になりそうなものだが……。


 でもよく考えると、優梨と海里の二人が誘ってくるってことは、女嫌いでクリぼっちな俺なんかのために大切なクリスマスをわざわざ予定を空けて、準備してくれているってことだよな?

 あの二人なら中学で引くて数多のはずなのに……こんな兄のために……。

 それを無碍にしたら兄としてメンツが立たない。

 何より、もしここで断ったら……前みたいな互いに距離のある関係に戻ってしまうんじゃないかと思ってしまう。

 海里には冷たくあしらわれ、優里にも少し距離を置かれてしまうかもしれない。


 俺は……できれば今のままがいい。


 海里が心を開いてくれて、優梨とも仲直りして。

 やっと俺たちはちゃんとした"兄妹"に戻れたんだ……。

 だから。


「俺……二人とクリスマス過ごすよ。せっかくお前たちが心配してくれたんだしな」

「「おにい(お兄ちゃん)」」


 優梨と海里はパアッと明るい笑みになり、小さくガッツポーズをしていた。

 二人はそんなに兄妹と過ごしたいと思ってたのか。

 それに比べて俺は、優梨と海里にはもう過ごす相手がいるものだと思ってエロASMR配信に身を委ねる気満々だったのが恥ずかしい。

 俺も、二人みたいなに兄妹愛を大切にしないと。

 ひたすら妹二人を感心する俺だった。


 ✳︎✳︎


 翌月——12月25日。

 窓の外では粉雪が舞い、マンションから見下ろした町の景色は電飾でカラフルに彩られていた。

 久しぶりに今年のクリスマスはホワイトクリスマスになった。


「さてと、そろそろ行くとしよう」


 俺はコートの前ボタンをしっかり留めてから家を出るのだった。

 

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