2話 義妹モンスター【海里の愉悦・優梨の嫉妬】
ぜ……全滅だった。
11月下旬、習学院高校の2学期末テストが行われ、その翌日にはテスト結果が生徒たちに返却されたが、俺は全教科で赤点より数点だけ高いというギリギリセーフ……ではなく、全滅という結果。
実は今回のテストで良い点数を取らないと小遣いを減らすと母さんから言われていたので、赤点回避しても全滅という結果なのだ。
これでしばらく推しのVチューバーであるゆるるちゃんにスペシャルチャットを送れないことになる。
「はぁ……世知辛い」
俺はマフラーから白いため息を漏らしながら高校から帰ってきた。
そういや優梨と海里はどうだったかな?
定期テストから3日くらい経つし、そろそろあの二人のテスト結果も出る頃だよな。
優梨に関しては間違いなく学年1位だと思うけど、海里はどうなっていることやら……。
俺が海里に勉強を教えることになった9月から2ヶ月。
一緒に勉強してる感じだと、数学と英語はかなりできるようになっていたが、いかんせん国語がまだまだだった。
海里は「筆者の気持ちとか分からんしー」の一点張りで、ロクに国語と向き合おうとしなかったので、酷い点でも仕方ない。
しかしこの2ヶ月、あれだけ努力したのは素直に偉いと思うから結果がどうであれ、ちゃんと褒めてやらないとな。
「ただいまー」
「あ! おにいおかえり〜」
俺が家に帰ってくると、玄関先で海里が両手にテストの解答用紙を持って立っていた。
やっぱりもうテスト結果が出たのか……。
やけに自信満々の表情だ。どれどれ。
「ん……? 英語が……98点!? 数学は100点!?」
「むっふぅ〜! 凄いっしょ」
海里は鼻高々に見せつけてくる。
ま、マジかよ海里……!
「マジですごいよ! 俺も中学の時には満点とか取ったことなかったし」
「でっへへぇー。あたしみたいなギャルもやる時はやるんだからっ。もっと褒めろ〜?」
海里はそのデカい胸をたゆんっと揺らしながら思いっきり胸を張る。
凄い調子に乗ってるけど……今日くらいは、いいか。
俺の想像を遥かに超える点数だったわけだしな。
「本当に凄いしおめでとう海里」
「じゃあとりあえずおにい、頭撫でろし」
「は? 頭? なんで?」
「いいから!」
海里は強引に俺の右手を掴むと、セルフで俺の手を使って自分の頭を撫でさせる。
「むふふー」
「これの、何がいいんだ? 頭撫でてるだけだし……頭皮のマッサージでもして欲しいのか?」
「ま、そんな感じー?」
よく分からないがまあいいか。
玄関先で俺たちが騒いでいると、優梨が自分の部屋から出てきた。
「おお優梨。見ろよこれ、海里が100点取ったんだってさ」
「…………知ってる」
「優梨はテストどうだったんだ?」
「…………ごめん、わたしはもう塾行くから」
そう言って優梨はジトっと目を細めると俺たちの横を通り過ぎ、革靴を履いて家から出て行った。
「な、なんだよ……優梨のやつ」
なんか様子がおかしかったよな。
もしかして……今回のテストで学年1位になれなかったとか?
「でもどうしたんだろ。海里は何か知らないか?」
「おにい! おねーちゃんのことばっか気にすんなし!」
海里は両手で俺の顔を挟み込むと、自分の顔を近づけてきた。
「おにいはあたしの家庭教師なんだから、あんな塾通いの優等生女なんか気にしなくていいし!」
「こ、こら! 海里! 姉に向かってそんな言い方ないだろ」
「いいの! と、とにかくおにいは……あたしのことだけに集中して」
海里は真面目な声に変わると、優梨と同じように目を細めた。
「……あたし、まだ合格してないし。おにいに教えて欲しいこと、いっぱいあるんだから」
「そ、そう、だ、だよな」
海里は真面目な顔のまま自室へと戻って行った。
海里の成績が上がったのは良かったが、優梨が心配だな。
✳︎✳︎
優梨が塾から帰ってくる時間、玄関から力ない声で「ただいま」と聞こえた。
俺は部屋から出て、玄関へ顔を出した。
「優梨……ちょっといいか? 何か嫌なことでもあったなら部屋で」
「お兄ちゃんごめん、今はそんな気分じゃないから」
「ま……待てって優——」
「お兄ちゃんはさ!」
金切り声のような優梨の叫びが廊下に響く。
「どうせ……海里のことが一番可愛くて仕方ないから海里にばっかり優しくするんでしょ!」
「ゆ、優梨……? そんなことな——」
「あるよ! お兄ちゃん、最近わたしに全然お節介焼いてくれないし! お兄ちゃんが話しかける頻度も海里の方が多いし! 海里の脱ぎ捨てたニーソはわざわざ洗濯機に入れるのに、わたしが試しに脱ぎ捨ててみたら翌朝まで放置してあるし! 海里には自分のお小遣いを削ってでも追加でたくさん教材買って来るのにわたしには何もないし! お母さんが帰り遅くなる時には二人でファミレスでご飯食べてるし! 最近お兄ちゃんの最近のpixi●検索履歴は「ギャル」と「ニーソコキ」だし! お兄ちゃんはずっと海里海里海里海里海里海里海里! このシスコンバカお兄ちゃん!」
「お、おい……? きゅ、急に早口で言われても何が何だか分かんないんだけど……? とりあえず靴下の話か? あれは、優梨は海里と違ってしっかり者だから、何か考えがあって玄関に脱いだ靴下が置いてあるのかと思ったんだよ。ほら、この後また外に出かけるのかなぁって」
「嘘だッ!!!!」
なんか某ゲームみたいな勢いで言われた。
ここって、白川郷じゃないよな。
「どうせお兄ちゃんはわたしの汚い靴下が嫌なだけで、海里のは嗅いでるんだよ!」
「んなわけねえだろ!」
「……もういいっ!」
ストレスが溜まってるのか何なのか知らないけど、やけに荒ぶってるな……。
優梨は子どもみたいに逆ギレすると、俺を置いて部屋に行こうとする。
「ちょっと待て優梨」
「なに?」
「特に言いたいことはないんだけどさ」
「は? 用がないならわたしはもう」
「俺はさ、意外と優梨が昔の優梨と変わってなくて安心したよ」
「え……?」
「優梨ってさ、昔から俺が海里を褒めるたびにそうやってキレてたろ? 本当は甘えたがりのくせに、いつの間にかしっかり者になっちまってたから、もうそんな感じで駄々こねてくることもないのかなって思ってて。優梨はもう変わっちまったのかなって思ってたが……やっぱり変わってねえな」
俺は海里にしてあげたように、そっと優梨の頭に手を伸ばす。
「双子だもんな。海里にばっかお節介焼いてたら、少し疎外感みたいなのもあるか」
「お兄……ちゃん」
「別に俺は優梨をハブッたりしてないし、海里が出来なさすぎるから力入れてるだけだ。あんまり勘違いするなって」
「……嘘だ」
「本当だっての。じゃあ証拠に、来月の小遣い貰ったらお前のために何か買ってやるから。これで平等だろ?」
俺がそう宥めると、優梨は急に俺の懐に飛び込んで来た。
海里とはまた違う、ハリのある優梨のマシュマロが俺の身体に押し付けられる。
お…………おお。
「お兄ちゃん……すぅ……」
「ん?」
「な、なんでもないっ。ごめんねお兄ちゃん、わたし色々考えすぎちゃって……ありがとね、お兄ちゃん」
「いいって。俺も同じことされたら寂しくなるし」
俺は言いながら自然な感じで優梨を身体から剥がそうとするが、やけに強い力で抱きつくのでなかなか離れてくれない。
妹とはいえ、さ、さっさと離れて欲しいんだが……。
「クリスマス……なんだけどさ」
「クリスマス?」
「予定空いてる?」
「え……」
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