3話 双子姉妹はバチバチしてる


 たこ焼きを食べた後は、優梨と二人で商店街のスーパーに寄った。

 ったく、優梨のせいで当初の目的を見失うところだった。

 そもそも今日はたこ焼きじゃなくて母さんに買い物を頼まれて来たんだし。

 俺はスーパーの入り口にある買い物カゴを手に取ると優梨と一緒に中へ入って行く。


「えーっと、母さんに頼まれたのはー、醤油とトイレットペーパー、あとティッシュ……」

「ティッシュ……?」


 優梨が不思議そうな顔で聞いてくる。


「ああ、母さんが足りないって言ってて」

「……ふーん」


 優梨の顔が一瞬、陰ったように思えたが……まあ、いいか。

 俺は気にせず、頼まれたものを次々と見つけて手に取る。

 買い物といっても頼まれたのは3つだけなのですぐに見つけたのだが、知らない間に、カゴの中には期間限定味のチョコ菓子が入っていた。


「お、おい優梨……? まさかこれ、入れたのお前か?」

「お兄ちゃんお願いっ! このお菓子買って!」

「あのなぁ、お前も子供じゃないんだから自分の小遣いで買えよ」

「じ、実は最近、金欠気味で……お買い物に付き合ってあげてるんだから、その分のお駄賃ってことにして買ってくれないかな?」


 優梨はあざとくウインクをして手を合わせる。

 優梨が金欠なんて意外だった。

 優梨って海里みたいに派手な買い物はしないタイプだし、むしろ貯金とかしてそうなイメージだったが。

 それに優梨がおねだりをしてくるなんて……意外だ。

 優梨はバカ真面目でしっかり者の生徒会長だと普段の生活から思っていたけど……こんな一面があるなんて。


「だめー?」

「あ、ああ。今日は付き合ってくれたから、チョコ菓子の一つくらい別にいいけど」

「やったー! ありがと、お兄ちゃんっ」


 優梨は満面の笑みで白い歯を見せた。

 その笑顔は兄である俺でも可愛いと思えるくらいで、不意に少しだけドキッとしてしまう。

 優梨って……こんな無邪気な笑顔を見せるのか……。

 休日だからか、いつもよりテンションの高い優梨は、普段の真面目な印象とは真逆の表情を俺に見せる。

 今日一日を通して、優梨への印象が大分変わりつつあった。

 中学では生徒会長やってるし、中学生になってからは常に真面目で態度も大人びていたけど……お菓子買って欲しいとか、ちゃんと中学生っぽいところもあるんだな。


「どしたのお兄ちゃん? わたしの顔ジッと見ちゃって」

「いやさ、優梨は中学生になってから完璧超人みたいな感じなんだと思ってたから、意外と可愛いところあるんだなーって」

「っ!?」


 驚き顔の優梨は突然クラっとすると、その場にしゃがみ込んだ。


「おい、ゆ、優梨? 具合が悪いのか?」

「ううん、ちょっと濡れ……」

「濡れ?」

「違っ! 足元がなんか濡れてて。ここ鮮魚コーナーだから!」

「あ、ああ……」


 優梨は「えへへ」と少し頬を赤らめながら、恥ずかしそうに立ち上がる。


「お兄ちゃんって……海里にもそういうこと言っちゃうの?」

「そういうこと?」

「……やっぱ、なんでもないっ」


 優梨はそう言って小さく笑った。


「ささ、早く買って帰ろ? わたしも勉強したいし」

「お、おう」


 優梨に言われてさっさとカゴをレジに通し、醤油とティッシュをエコバッグに入れると、トイレットペーパーを片手にスーパーを出た。


 ✳︎✳︎


 マンションに帰ってくると、玄関先で海里が仁王立ちしながら俺の帰りを待っていた。


「やけに遅いと思ったら……おにい、優梨と買い物行ってたの?」

「ごめんね海里? お兄ちゃんと一緒に楽しんじゃった♡」

「……別にいいし。それよりおにい、教えてほしい問題あっから、リビング来て」

「分かった分かった。二人ともテスト近いもんな、勉強しないと——」


 俺がテストの話題を出したからか、急にその場の空気が重たくなる。


「ふふっ♡ 海里、そんな怖い顔してどうしたの?」

「……おにいは、あたしが守護まもるから」


 海里はそう言って俺の手を引きながらリビングへ歩き出す。

 守るって何のことだよ。

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