2話 ヤンデレの兆候
マンションを出て、制服姿の優梨と一緒に母さんのお遣いで近くの商店街まで足を運んだ。
「わぁ〜、この商店街も久しぶりだねー?」
今日は休日だからか少しテンションが高めの優梨。
いつしか足を運ばなくなっていたが、下町の雰囲気が残るこの商店街は、昔とあまり変わってないな。
「子どもの頃はよくお遣い頼まれたよな。優梨と海里だけじゃ不安だから俺も付き添ったっけ」
「海里が外で暴れないか心配なだけでしょ! わたしに関しては不安要素ないし!」
「優梨は……少し真面目過ぎる所があるからな。今だって塾の自習室へ行くだけなのにわざわざ私服じゃなくて制服だろ? 真面目過ぎるせいで若干ズレてるっていうか」
「もーお兄ちゃん酷いよ! 真面目なのはいいことじゃん! それともお兄ちゃんは海里みたいな不良のギャルの方が好きなわけ?」
「え? そ、そうだな……?」
海里か優梨のどっちが上かなんて考えたことがなかった。
二人は双子の妹だし、優劣つけるのは……。
俺が顎に手を当てて考えるフリをしていると、隣を歩く優梨がジトっとした目でこちらを見てくる。
「……へぇ。お兄ちゃんはギャルの方がいいんだね? そっか。お兄ちゃんは海里の方がいいんだ。そっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっかそっか」
な、なんか……優梨の様子がおかしいな。
バグったラジオみたいに「そっか」を連呼する優梨。
その目の中にハイライトが消え、虚ろな目でそっかそっかと呟く。
もしかして俺、優梨を怒らせちゃった……のか?
受験の件で二人はバチバチしてるし、こんな事でも海里の方が上と感じると、プライドの高い優梨にとってはかなり嫌なのかもしれない。
こんな時期だし、気を遣ってあげないとな……。
「お、俺はっ! 優等生の優梨の方が接しやすいと思ってるよ!」
「……それ、本当?」
「あ、ああ! 海里は派手すぎるっていうかいつもワガママだからさ。それに比べて優梨は聞き分けも良いからいつも助かってるし」
無理矢理煽てるように言ったら、優梨の目はいつものように輝き出した。
「も、も〜、お兄ちゃんってば褒め上手なんだから〜」
優梨は俺の腕に抱きつくと、その小さな顔を俺の肩に擦りつけてくる。
「おい優梨っ、人前でそういうのは」
「あれれ? 人前じゃなければ抱きついていいってこと?」
「ち、ちがっ……とにかく離れろって」
腕にくっついた優梨を剥がすと、俺は少し距離を置く。
「お兄ちゃん、ドキドキしたの?」
「は、はぁ⁈」
「血の繋がってる妹でドキドキするなんて、お兄ちゃん、イケナイんだー?」
「……ど、ドキドキなんて」
してるわけがない。
確かに少し胸が当たって、ドキッとしたが、それはあくまで生理的な反応であって、意識的に妹にドキドキなんか。
「あ、お兄ちゃん見て見て。たこ焼きの屋台が出てるよ?」
テンションが急に上がった優梨に腕を引っ張られ、俺はたこ焼き屋台へ。
「おじさん、8個入りのたこ焼きお願いしますっ」
「おお! 学生のカップルさんかい?」
ツルッとした頭に立ち巻きをした店主が俺たちに問いかける。
「いや、俺たちは兄妹」
「はい! わたしたち付き合って3年目のカップルなんです!」
優梨は俺の言葉を遮りながら、堂々と嘘を口にした。
なんて真っ赤な嘘を。
「3年目かぁ、よし! そんなアツアツのカップルにおまけだっ」
気前のいい店主は、本来なら8個入りのたこ焼きに2個追加して、10個入りのたこ焼きにしてくれた。
俺は金を払い、店主からたこ焼きを受け取る。
「デート楽しんでなぁー!」
屋台を後にすると、優梨がクスクスと笑っていた。
優梨って、普通に正義感の強い優等生だと思ってたけど、意外と小悪魔系なのか……?
俺たちは近くの木陰にあるベンチに座って、たこ焼きを食べることにした。
「お前もワルいことするんだな?」
「いいじゃん。勘違いしたのは店主さんの方なんだしっ」
「それは……そうかもしれないが」
「それよりさ、わたしたちがカップルだってー? 兄妹なのに、意外とそう見えちゃうのかな?」
「……お前が美人過ぎるから、俺みたいな凡人の兄貴は兄に見えねえんだろうよ」
「そう? お兄ちゃんもカッコいいと思うけど?」
「お、お世辞はよせよ」
妹に褒められたくらいで何照れてんだ俺。
「お兄ちゃんったら照れ屋さんなんだから……食べちゃいたいくらい」
「え?」
「たこ焼きを、全部食べちゃいたいって言ったの。お兄ちゃん食べないの?」
「お、おう……」
俺は爪楊枝を手に取ると、たこ焼きを口に運ぶ。
なんか今日の優梨……時々怖い目をするんだよな。
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