2章 テストで勝負
1話 母さんの焦燥
とある日曜日。
今日は休日なので、俺がいつものように家でVチューバーの配信を見ようと思っていたら、母さんから洗濯物を畳むように言われてしまい、しぶしぶベッドから起き上がった。
「はぁ……面倒くせぇ」
インドアで、休日は常に家にいる俺みたいな陰キャの休日はいつもこんなもんだ。
そもそも友達が少ないから誰かと外へ遊びに行くこともほぼないし、彼女は……言うまでもなくいないし。
もう
それに、今の俺にはVチューバーがいるんだ。推しがゲームしてる所なんていつまでも観ていられるし、それさえあれば休日の質はかなりアップ!
「さっさと洗濯物片付けて13時からやるゆるるちゃんの配信を観ないとな」
そう考えながら廊下に出ると隣にある姉妹部屋のドアが目に入った。
休日でも受験生のアイツらは勉強勉強勉強と、アグネスチャ●もビックリなくらい勉強が大変で、あの二人は今も勉強に勤しんでいる。
海里は自室に篭って俺が出した課題をやってるし、優梨は塾にある自習室へ行った。
「受験生は大変だなぁ……まじで」
と、妹たちの受験を他人事のように思う。
優梨も海里も自分の妹なんだから他人事とは思っちゃいけないんだが……特に海里は俺が勉強の面倒を見ているわけで。
一年前は俺も同じ立場だったから受験生の気持ちはよく分かる。
結局受験っていうのは勉強の量でいくらでも成功に繋がるものだからとにかくやるしかない。
「優梨と海里は双子だから同じ年に受験生の姉妹がいるし、姉妹で協力して勉強できるのはかなりのアドバンテージだよな」
と思ったが、そういえば最近海里と優梨が話す光景をあまり見なくなった。
俺があの二人と話すようになった代わりに、あの二人が話している光景は最近あまり見ていない。
2年前に海里がギャルになってからは、小学生の頃に比べて海里と優梨の間に少し距離が生まれたように思っていたが、それでも飯の時とかは会話をしてたし、思春期でも部屋はずっと同室だった。
あの二人は中学生になってから見た目や性格が正反対になったけど、大きな喧嘩はしてなかったし、この時期になって急に話さなくなるのはある意味で違和感しかない。
「もしかすると、海里が志望校を習学院に変えたことで、お互いに習学院高校を受験するライバルになったからバチバチしてんのかな……?」
俺は考えながらリビングにある洗濯カゴから自分の洗濯物を取り出すと畳み始める。
二人はライバルかもしれないけど、仲間意識を持って受験勉強をして欲しいのが兄としての本心だが、姉妹だからこそ、ライバル視してしまうものなのだろう。
海里が習学院に進路変更したのは驚きだったが、海里は好きな男子が習学院を目指してるから自分も頑張ることを決めたらしいし、そこは素直に凄いと思う。
一方で優梨はどうなんだろ?
優梨の偏差値は中学3年時の俺よりも遥かに高いし、家から少し離れた距離にある高校なら、習学院以上の偏差値を誇る高校もある。
それでも習学院に決めたのは家から通えるからなのだろうか?
それとも優梨も海里みたいに彼氏とか気になる相手が目的だったりして……?
「いやいやないない。優梨からは男の臭いが全くしないし」
でも案外、優梨の方が男子と付き合ってたりして。
同級生の男子からしたら、あれだけ優しくて清楚なのに巨乳の美少女がいたら、毎日のように優梨で良からぬ妄想をしてしまうだろう。
現に、優梨が生徒会長になれたのはファンの男子票が圧倒的に動いたという噂だしな。
「なんか余計なこと考えてたらいつの間にか洗濯物ほぼ無くなってたな。これで最後か」
俺は最後に手に持ったトランクスを見て、ふと、とある事を思い出す。
「ん、そういえば最近……やけに俺のトランクスが新品っぽいんだよなぁ」
今、手に持っているこの黒いトランクスは、中3の時から使っているトランクスなのだが、このトランクス……なんていうか履き心地が良すぎてまるで新品のような感じがするのだ。
そりゃ洗濯をすればある程度は良くなるのかも知れないが……なんていうか、最近のトランクスから使い古し感がなくなっている。
股間が擦れる感じや、アレがポジに収まる感覚は履けば履くほど馴染むものだから、新品だと、どこか落ち着かない感覚があるのだが……最近の俺のトランクスは、何度履いても落ち着かないのだ。
母さんが新しいものを買ってくれたのだろうか? でもこのトランクスが2枚あるのを俺はまだ見た事がない。
また、少し話がズレるが、最近俺の身の回りで起きている謎の異変はそれだけじゃない。
俺のプライバシーに関係するもっと重大な問題がある。
その問題とは、押入れの中にある"隠しゴミ箱"のティッシュが減っている問題だ。
言わずもがな俺は高校生男子として年相応の性欲があるので、人並みに股間へ手を伸ばすことがあるのだが、その後の処理として致したティッシュは自分でマンションのゴミ置き場に持っていくため、部屋の押し入れにシ●ティッシュ用ゴミ箱を設置している。
だが最近、俺のゴミ箱の中にあるティッシュの数が減っていたのだ。
いつも月末には富士山の雪化粧並みに白いティッシュが山になっているはずなのに、この前確認したら、そのゴミ箱にはJKがプチ断食してる時の半ライスみたいな量の白いティッシュしかなかった。
なぜティッシュが消えているのか。
この件に関して、俺は最近母さんを疑い始めている。
そもそも俺の部屋のものを移動させたり処理したりするのはどう考えても母さんくらいだし、母さんも分かってやってて黙っているのだろう。
いくら母さんと言えど、息子のシ●ティッシュをコソコソ数個だけ集めて捨てるなんて、趣味が悪い。
俺は横目で同じリビングにいる母さんの方を見る。
この際だから母さんにハッキリ言わないとな。
今日は母さんも仕事休みで、母さんは息子に洗濯物を畳ませておきながら、自分はリビングの窓際にちゃぶ台を置いてその上で紅茶を淹れながら優雅にティータイムを嗜んでいた。
その光景は、我が母ながら絵になるくらいに美しい。
海里や優梨が美人姉妹と呼ばれているのも、母さんの遺伝子を濃く受け継いだとのがよく分かる……って、今はそんなことより!
「な、なあ母さん!」
「どうしたの悠人?」
ティータイム中の母さんには悪いが、一緒に暮らす家族だからこそ、ハッキリさせないといけない事もある。
「えっと、さ」
「?」
やっべー、いざ面と向かってみると「俺のシ●ティッシュ勝手に捨てるのやめろよ!」なんて恥ずかしくて言えねえ……!
少し濁して聞いてみよう。探りを入れる感じで。
「か、母さん……俺に隠してることあるだろ?」
そう訊ねた刹那、母さんの手にあったティーカップがスルッと落下して、ちゃぶ台の上でガジャンという音がする。
ティーカップを持っていた手は震え、目もガン開きだ。
いくらなんでも驚すぎじゃないか?
「ゆ、ゆゆ、悠人! い……いい! いつから、気づいていたの!?」
母さんは声を震わせて言うと、震えていた唇を思いっきり噛んだ。
たかがシ●ティッシュでそこまで動揺しなくても……。
「そりゃ! チェックするだろ……あえて隠してんだから」
「はぁ!? ちょっ悠人! 優梨と海里のナニをチェックしているの!?」
「は?」
「は?」
会話がすれ違って、お互いにはてなマークが頭の上に浮かぶ。
「待て母さん。なんで優梨と海里? 俺はティッシュの話をしてるんだけど」
「て、ティッシュ?」
「え……?」
アンジャッシ●のすれ違いコントでもやってるのかと思うくらい、お互いの言ってる事がすれ違っているとやっと自覚する。
もしかして母さん、シ●ティッシュじゃないことを想像していたのか?
「悠人が何を言いたいのか分からないけど? そういえばたまたまティッシュを切らしてたから買って来てもらえる? あと今晩の煮付けに使うお醤油と、そうだついでにトイレットペーパーも!」
「お……おう。別にいいけど」
俺が了承すると、母さんは財布から2000円を取り出して俺に手渡した。
「エコバッグ忘れないようにね〜」
俺は不完全燃焼でモヤモヤしていた。
俺はティッシュのことを話していたんだが、母さんは別の何かについて反応しているようだった。
それに優梨と海里……?
きっと母さんは、シ●ティッシュとは別件で俺に何か隠し事があって、それだと思ったのか。
でも、優梨と海里が絡んでて、俺に隠しておきたいものって……一体。
玄関先で靴を履いて出て、部屋の隣にあるエレベーターを待っていたら、一階から来たエレベーターに塾から戻って来た優梨が乗っていた。
「あ、お兄ちゃんっ」
「お、おお、優梨……おかえり」
「ただいまー。お兄ちゃんは今からお買い物?」
「まあな。母さんが言ってこいって」
「……じゃ、せっかくだしわたしも一緒に行こっかな」
「何がせっかくなんだよ」
「いいからっ」
優梨はエレベーターの中へ俺を引っ張ると、1階へのボタンを押した。
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