10話 海里の自信と優梨の本気
「おにいとの"クリスマスデート"を賭けて、あたしと勝負しようよ」
生徒会室に無断で入室してきた海里は突拍子も無いことを言い出した。
「く、クリスマスデート? クリスマスって、まだ2ヶ月以上も先の話だよね?」
「それはそうだけど……」
「けど?」
海里は少し目を逸らしながらも話を続ける。
「おねーちゃんさ、あたしが必死に勉強してる隙を突いて、おにいと二人でクリスマス過ごそうとしてない?」
ぐさっと鋭利なナイフで刺されたような衝撃が走る。
確かに海里の言うように、わたしの「お兄ちゃん強奪」プランの一つには海里が勉強に熱中してる隙を突いて、クリスマスにお兄ちゃんをどこかへ誘う計画があった。
でも……どうしてそれを海里が知ってるの?
「……こ、根拠は?」
「勉強机の引き出しの中にクリスマス関連のイベントのチラシがたくさん入ってたし」
なっ……!
アレが見つかってしまったなんて。
「海里! 人の物を勝手に物色するのは、姉妹とはいえマナー違反!」
「おにいのトランクス盗んでクンクンしてる変態おねーちゃんに言われたくねえし!!」
海里の反論が強過ぎて、人生で初めて妹との舌戦に敗れる。
い、いや、わたしは悪くなんかない。
妹がお兄ちゃんのパンツを盗んで嗜むのは古来より伝わる当たり前の行為で、第二次性徴期には当然起こり得る事象。
みんな口に出してないだけで、全国の妹がお兄ちゃんのパンツを収集してるはずだ。(優梨調べ母体数1)
そうだよ……海里がおかしいだけ。
「おねーちゃんのことだから、クリスマスにおにいに何かするつもりっしょ? 薬とかで眠らせて変なことしようとか」
「変なことって? 例えば?」
「そ、それは……」
海里は頬を赤くしながらそっと目を逸らす。
「やっぱちゅーとか、じゃね?」
「は……?」
前々から思っていたけど、海里って性知識に疎い?
クリスマスにすることなんて●●●(ズキューン)か●●●(バキューン)の二択なのに。
「あ、あんま、恥ずかしいこと言わせんなし!」
「それで勝負の内容は?」
「急に冷静になんな!」
海里はぜえぜえ肩で息をしながらも一度咳払いをすると、勝負について説明を始めた。
「勝負は次のテストでする!」
「次のテストって……11月の?」
「教科は数学」
「海里が教科指定するの? なんか狡くない?」
そう指摘すると、海里は罰が悪そうな顔になる。
「べ、別にいーじゃん。それくらいハンデっしょ」
「でもそれだと公平じゃないような」
「まさかおねーちゃん、怖いの?」
「は?」
「つい最近まで勉強してなかったあたしに負けるのが、そんなに怖いの? うわ、だっさ」
いつもなら冷静にスルーできるわたしだけど、流石に今の挑発は効いた。
最近お兄ちゃんを独占されてる妬みも相まって、海里へのストレスが爆発したのだ。
「……あんまり調子乗らない方がいいよ海里。お兄ちゃんは仕方なく海里に付き合ってあげてるだけで、お兄ちゃんの本命はどう考えてもわたしだから」
「おねーちゃんの妄想キッツ。パンツ嗅いでるだけで何にもおにいにアタックできてないくせに〜」
わたしはカッとなって、座っていた社長椅子から立ち上がると、海里の胸に自分の胸をぶつけた。
互いに、中学生にしては大きいその胸を押し付けあってメンチを切る。
「お兄ちゃんの寵愛はわたしだけのもの。海里みたいなギャルは、お兄ちゃんに相応しくないから」
「は? おにいはギャル大好きだし、何よりあたしの美乳に惚れてる。おねーちゃんみたいな清楚だなんだって本性隠してばかりのクソ女の腐れおっぱいじゃ、おにいは惚れないからねー」
ストレスで今にも飛び出そうな拳をグッと我慢し、わたしは目を細めた。
「分かった。じゃあ海里の提案した勝負で白黒ハッキリつけようよ。海里が勝ったらわたしもクリスマスの計画を白紙にして、クリスマスは大人しく部屋で勉強してあげる」
「あたしもその条件でいいよ。負けたらクリスマスは部屋で勉強するし」
海里は自信に満ちた顔で頷いた。
海里がお兄ちゃんの指導で実力を上げていることは、お兄ちゃんから聞いているから、油断はできない。
でもこれに勝てば、お兄ちゃんは海里に失望するかもしれない。
そうなれば、クリスマスはお兄ちゃんと好きなだけイチャイチャできる。
ここで海里に圧勝して、海里の自信を喪失させてみせる。
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