8話 妹ちゃんは褒められたい
勉強を開始して2時間が経った。
リビングは海里がシャーペンを走らせる音しか聞こえてこないくらい、静かで海里の集中力もかなり高い。
昨日、俺がリビングに来たことを気がつかなかったのと同じように、海里は集中モードに入ったらのめり込むタイプのようだ。
18時前になるとリビングのドアが開き、制服姿の優梨がリビングへ顔を出した。
「お兄ちゃんわたし塾に——って、今勉強中?」
優梨は海里が真剣に勉強をやってる様子を物珍しそうに見てから、俺の方を向く。
「じゃ、そろそろわたし塾行くから。海里にも勉強頑張れ! って、伝えといて?」
優梨は俺にそう言い残すと、ウインクして踵を返す。
俺は小さく頷いて、優梨がリビングから出ていくのを見送った。
やっぱり優梨はしっかり者のお姉ちゃんだな。
毎日喧嘩してた子供の頃からは考えられないくらい、すっかり大人になったもんだ。
あれだけ性格も良くてルックスも美少女。俺みたいなフツメンの凡人の兄とは真逆だし、自慢の妹だ。
「ねぇおにい、ここ教えて」
「あ、ああ」
海里は分からないところを指差しながら質問して来る。
優梨が来てたのにまるで見向きもしないとは……やっぱすごい集中力だ。
金髪にネイル、メイクや香水までバチバチにキメてる不良女子中学生なのに……。
勉強にやる気があるのは良いことだとは思うが、そんなに真面目になるくらい、海里は意中の男子のことが好きなのだろうか。
そこまで本気なら……俺が教えるよりも……。
「なぁ海里。そこまで勉強に熱心になれるなら優梨と同じ塾に入れてもらうこともできると思うけど……これでいいのか?」
「いーの! 塾の金がめっちゃかかることくらい知ってるし、今の時期じゃ1から丁寧に教えてくれる塾なんてないっしょ? だからあたしは【おにい塾】でいいの」
「おにい塾って」
「それに……あたしの場合は落ちる可能性も高いんだから、今さらお父さんとお母さんに、偉そうなこと言えないからさ」
海里は意外にも現実的なことを口にした。
昨日までは偏差値足りなくても余裕ぶっていたのに……。
「昨日ファミレスでも言ったけど、あたしが高校に受かったら、お礼になんでもシたげるから、おにいもやる気出しなって」
「お、お礼……か」
「あたしの身体触っていいし、あと……チューもおっけーだからっ」
海里は自分の柔らかな谷間を指差したり、太ももをふにふに触って、最後には自分の唇を指差した。
「そ、そんなこと要求しねえ」
「嘘つき。おにいがいつもあたしのおっぱいガン見してんの知ってるからね?」
「見てねえよ! 妹のおっぱいなんか、み、見るわけないだろ!」
「はぁ……おにいさ、女子って視線に敏感な生き物なんだよ? 全部分かっちゃうんだから言い訳やめなって」
「う、うっせえ。そんなTシャツ着てるお前も悪い」
俺は、Tシャツの首元がだらっとしていて、谷間が見え隠れしているのを指摘した。
「あ、じゃあ今度ショッピング行こーよ? おにいが着て欲しい服買うからさ」
「はいはい。それは受験が終わってからな」
「えぇー」
「言っとくが、海里は受験まで"お遊び禁止"」
「……ま、マジで?」
「厳しくやるって言ったろ? 休日も朝から晩までここで俺と勉強だ」
「おにいと……休日も」
「なんだ? 嫌なら俺は降りるぞ」
「ち、ちがっ! ありがとう……おにい」
海里は口をフニャッとさせながら、感謝を口にする。
お礼を言い慣れていない所が海里らしいというか……。
「じゃあ、軽くここまでの内容を小テストするか」
「りょー」
そこから数分間、小テストを行って習熟度を測る。
海里は先程と同じくらいの集中力で、次から次と問題をこなしていく。
「終わったー。おにい丸つけよろー」
丸つけは俺の担当だ。
この前は堂々と偏差値40とか言ってたが、どれくらい身についているのやら。
「……ん?」
俺は赤ペンで丸ばかりを付ける。
昨日教えた範囲で数学の小テストを行い、結果は30問、全問正解。
絶対間違えると思ってた小難しい証明問題も答えとほぼ同じだ……。
「おい海里。もしかして答えを見たんじゃないのか?」
「答え……? あたしそんなの見てねーし、おにいがずっと持ってたじゃん」
「そ、そうだよな」
海里の事だから、数学の公式もすぐに忘れると思ってたし、証明問題に関しては、後でみっちりやるつもりで軽く教えただけなんだが。
「もしかして証明問題が合ってて驚いた? 実は今日、中学のセンセーにコツ教えて貰って、それ応用したらスラスラ解けたし」
「海里、お前……」
「なに? 褒めてよおにい〜」
集中力や記憶力、さらに応用力もあるとか……もしかしてこのギャル、デキるのか?
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