7話 お勉強の時間だよ?


 ——翌日の放課後。


 海里に勉強を教える約束をした次の日から、本格的に海里の勉強が始まった。

 もう9月だし、これまで勉強してこなかった海里が今から勉強してどうにかなるのか……というのは置いておいて、まず海里のやる気に応えてやらないとな。


「ただいまー」


 マンションに帰ってきた俺がリビングに顔を出すと海里は俺より先に帰ってきており、リビングのテーブルの前で大人しく座っていた。


「おにい遅いし!」

「悪い悪い。本屋に用があってさ」


 海里は昨日と同じで、首元がだらっとした(そのデカい胸の谷間が垣間見える)薄手のTシャツを着て、下はパツパツのホットパンツを履いていた。

 谷間といい太ももといい、少し日焼けした海里のギャル肌が嫌でも目に入ってしまう。

 本当に中学生か疑うレベルで発育が良すぎるんだよな…………って、今はそんなことより。


「勉強、始めるか」


 俺は鞄を床に置き、制服の袖を捲り上げながら海里の向かい側の椅子に腰を下ろす。


「海里、これ見てくれ」

「これ?」


 俺は鞄を開いて、中から数冊の教材を取り出すとテーブルの上に広げた。


「学力皆無のお前が残り数ヶ月でうちの高校に合格するためにも、俺が受験の時に使ってたテキストの最新版を一式買ってきた」

「学力皆無とか酷すぎるし!」


 昨日の夜、海里が俺と同じ習学院高校を目指してることを父さんにも話したら、教材を買うための資金が与えられた。

 それで今日の放課後に本屋に寄って、良さそうな参考書を何冊か買ってきたのだ。

 日々金欠の俺としては教師代として貰った金から少し抜きたいものだったが、そこは兄としてグッと我慢している。


「とりあえず数学から取り掛かろう。昨日、軽く教えた範囲からやるぞ」

「う、うん……でもその前に——おにい、お菓子食べる?」


 海里はテーブルの上にあったチョコ菓子の『きのこの沼』を俺の方に差し出した。


「菓子? やけに気が利くな……でも俺『きのこの沼』より『たけのこの草』派なんだけど」

「文句言うならあげない」

「も、もらう! ありがとな海里」


 俺は海里からきのこの箱を受け取って軽く摘んだ。

 ん〜、このチョコとビスケットの比率がちょうどよく——っ


「……じゃない! それより勉強をっ」

「おにいもあたしにあーんして」

「……は?」

「あたしも食べたいから。早くちょうだい」


 海里は「あーん」と言って、馬鹿っぽく口を開けていた。

 昨日から何やら様子がおかしいが、今日も絶賛イカれ中なのか?


 でも海里は昔から遠回しに甘えたがる所があったから——いやいや、この歳になって甘えたがるとか、ないだろ。

 海里が何考えてんだか知らないが、さっさと勉強始めたいし……仕方ない。

 俺はきのこを一個摘んで、海里の方へ差し出——っ⁈


「はむっ」


 俺が海里の方へ手を伸ばした瞬間、海里は餌に食いつく魚のように、きのこだけでなく俺の指まで食いついた。


「お、おおお、おまっ!」


 海里はちゅぱっと音を立てながら俺の指を咥え、少しざらっとした舌でいやらしく俺の指先を舐めた。

 目の前で指をチュパチュパっと咥える海里の顔はエロすぎて……って、何で妹なんかにこんなことされてんだ俺。


「……っぱぁ。気持ちよかった?」

「な、何やってんだよ!」

「昨日のファミレスでおにいから無知とか馬鹿にされたのが悔しくて、色々勉強してきたし! エロかったっしょ?」

「んなもん勉強する暇があったら英単語の一つでも覚えろ!」

「なーにおにい? 照れてんの? 妹に指ちゅぱされて照れてるとか、おにいってば童貞くさーい」


 どうせこいつの事だ、童貞の意味すら分からずに使っているのだろう。


「手洗ってくる」

「なんそれ! ご褒美にやってやったのに!」

「どこがご褒美なんだよ」

「……だ、男子って、そーいうのコーフンするって聞いたから」


 海里は肩に垂れ下がった金髪をクルクルといじりながら口を尖らせていた。


「この初心うぶギャルが……」


 俺はそう呟きながらキッチンの流しで手を洗った。

 海里がピュアなのは意外だったし、ギャルなんだからもっと男で遊んでるイメージだったんだが……そこはどうなんだろうか。


 俺がテーブルに戻って来ると、海里は俺が買ってきた教材に興味津々の様子でペラペラとページをめくっていた。


「海里はさ、中学に好きな男子とかいるんじゃないのか? ほら、ギャルだから同族のヤンキーとか」

「ヤンキーの友達なんかいない、けど……す、好きな男子はいる」

「へぇ……」


 やっぱ海里も好きな男子くらいいるんだな。

 そりゃ海里もお年頃だし当然っちゃ当然か。


「すっ、好きな男子のために、こうして勉強してんだし!」


 海里は焦り気味に言って、シャーペンを握り直した。


 ああ、なるほど。

 急に志望校をうちに変えるとか言ったから、どうしたのかと思ったら……好きな男子と同じ高校に行きたかったからなのか。


 俺の高校に来るってことは、その男子もなかなかの優等生だよな。

 優等生とギャルの恋愛……ふっ、推せるな。


「じゃあ頑張ろうな。その好きな男子のために?」

「〜〜〜っ」


 海里はやけに俺の方を睨みつけていた。

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