4話 海里の気持ちと優梨の本性(優梨海里視点)
昨日おねーちゃんと一緒にパパとママがしていた"あの会話"を聞いたことで、あたしの中では一つの気持ちが固まった。
幼い頃はずっとおにいにベタベタだったあたしたち姉妹。
だからこそ、この気持ちはおねーちゃんも同じだと思う。
幼い頃からずっとおにいのことが大好き。
Likeではなく、Loveの意味で。
昔からおにいはあたしたちの自慢で、誰よりもカッコよくて誰よりも優しかった。
しかしこれまで、おにいとあたしたちは血の繋がりがあるから、それは不可能だと思ってて……。
中学に上がってからあたしは、おにいへの恋心を掻き消すため、無理矢理おにいに冷たく当たったりした。でもやっぱり心の中ではずっと、おにいに甘えたかったのが本音。
いっぱい抱きついて、優しくなでなでもして欲しかった。
でも同じ血が通った兄妹だから……これ以上ベタベタするのはお互いのためにもやめようと思い込んで、あたしはストレスを発散するために周りに対して常に反抗的なギャルになっていつも悪ぶって。
おにいのことを好きなままじゃダメなんだって、何度も何度も自分に言い聞かせて、無理矢理おにいにも冷たい態度を取ることで、おにいを嫌いになって他の男のことを好きになろうと思った。
でも……それに対しておにいは、どれだけあたしから冷たいことされても、靴下とか片付けてくれる優しさがあるから、なかなか嫌いにはなれなくて。
結局、おにい以外の男には興味すら持てなくて3年が経っちゃった。
でも、奇跡が起きた。
あたしたち姉妹とおにいは血が繋がってなかったのだ。
だからこそ、これを機にあたしはもう一度おにいとやり直したいと思ったし、そのためにはあることが必須になる。
それは——。
「おにいと、同じ高校に行きたい」
同じ高校で、一緒の時間を少しでも増やすことだ。
あたし、マジで言っちゃった……マジでおにいに、言っちゃったぁぁ!
『同じ高校行きたい』なんて、もう愛の告白みたいなものじゃん! ヤバっ。あたし大胆すぎ!
「……お、お前、正気か?」
ほぼ告白みたいなあたしの発言に対し、おにいはびっくりした顔でこっちを見ていた。
「一応聞いておくが、今のお前の偏差値はどれくらいなんだ?」
「40」
おにいはさらに引き攣った顔をする。
「ま、まだ40あるだけマシと考えるべきか、ほぼ絶望と言うべきか」
「おにい、何ブツブツ言ってんの?」
「お前、本気なのか? 俺の高校の偏差値って60が補欠合格のギリギリラインなんだぞ」
「だからそのために勉強始めたんじゃん」
おにいは「がぁぁ」と唸りながら頭を抱える。
そんなオーバーリアクションするくらい、あたしが同じ高校に行くのが嬉しいんかな?
「優等生の優梨は俺の高校でも全く問題ないが、お前の場合は偏差値50くらいの普通の高校に行った方がいいだろ……」
「は!? 妹差別すんなし!」
「してねーっての」
おにいは喜んでいるのではなくて、単に呆れていただけだったらしい。
ムカつくけど、仕方ないのも事実。
あたしこれまで勉強とか全然やってこなかったし、自信がないからこそ、悩みとしておにいに相談しているわけで……。
「あたし、めちゃくそ勉強して、おにいと同じ習学院高校入りたいし!」
「よし、ならまずは親父にどれくらい金を積めばいいか相談するか……」
「裏口確定やめろし!!」
「表からは入れねえだろ。そもそもお前、中学3年間帰宅部だったのに何やってたんだ?」
「メイクとか、ネイルとか」
「意地でも勉強とは言わないんだな」
おにい、なんか乗り気じゃないし……やっぱ断られちゃうのかな。
こうなったら最後の手で、お、おっぱい……無理矢理、触らせるしかない!
わたしがおにいの右手を奪おうと思ったその時、おにいが口を開いた。
「ま、海里が心から本気で取り組むなら、俺も本気で付き合ってやるけど?」
「へ? い、今なんて!」
「だから勉強付き合ってやるって言ったんだよ。妹が悩んでるなら聞いてやるし、解決するのが仕事だからな。だって俺は……お前の兄なんだし」
「お、おにい……」
「ま、まあ、なんつーかさ。久しぶりにお前とこうやって遠慮なく話せて、素直に嬉しかったっていうか、こういうの、悪くないと思ったから」
「ありがと……おにい。マジ感謝」
こうしてあたしは、おにいに勉強を教えてもらえることになった。
これを機に、もう一度おにいと仲良くなりたい……な。
✳︎✳︎
「今日の講義はこれで終了。受験まであと半年を切ったのでしっかり復習をしてください」
「「「「はい」」」」
塾が終わり、わたしはすっかり暗くなった夜道を歩いて自宅マンションへ向かう。
「今日の塾の授業、ちょっと寝ちゃったな……」
昨夜、深夜のリビングから聞こえた両親のあの会話を聞いてしまったことで、よく眠れなかった。
お兄ちゃんとわたしたち姉妹の間に血の繋がりがないという衝撃的な事実。
これはまさに僥倖。
昔からわたしは、いつかこんな日が来たらいいなと思って、自分の容姿を磨いてきた。
いや、否——例え血が繋がってなかったとしても、わたしはお兄ちゃんに好きになってほしいから自分を磨いてきたのだ。
優等生でありながら、しっかり可愛らしさを持った完璧の美少女を目指して。
そもそも血が繋がっているからと言って恋愛ができないなんておかしいもの。
でもこうして、血が繋がっていない事実が判明したことにより、わたしはお兄ちゃんと正式に婚約できることを知った。
これほどまでに嬉しいことはない。
わたしは生まれてから15年間、ずっとお兄ちゃんが大好きだったし、海里みたいにお兄ちゃんをいじめるようなことをした事はない。
だって本当のわたしは——いつもお兄ちゃんのことを考えながら一人で"シてる"くらいお兄ちゃんのことが大好きなんだもん。
いつもお母さんの家事を手伝うフリをしてお兄ちゃんが脱いだ下着に顔を近づけたり、お兄ちゃんが出かけてる隙に、お兄ちゃんの部屋のゴミ箱を漁って、くっさい"アレ"を回収して嗅いだり……。
言っておくけど、お兄ちゃんへの愛なら……誰にも負けない。
昔からお兄ちゃんの優しさはわたしのためにあるべきだと思っていたし、それは未来永劫普遍的なものであって欲しい。
こうなった以上——わたしは"お兄ちゃんの子を"孕む"ことしか頭にない。
「それなのに……海里が急に勉強を始めたってことは、間違いなく海里もお兄ちゃんを狙ってる」
海里は中学生になってから反抗期に入ってお兄ちゃんに冷たく当たっていた。
同じ洗濯機でお兄ちゃんの下着と一緒に服を洗ってもらえるなんて、この上ない喜びなのに、それを自分から拒否したり、お兄ちゃんと一緒に晩御飯を食べられるなんて至高のディナーなのに、それも拒否していた。
そんなことばかりしてお兄ちゃんを拒絶していたくせに、血が繋がってないって聞いたら態度を変えるなんて……本当、海里は最低。
もしもそんな海里みたいなおバカに負けたら、屈辱でしかないし、お兄ちゃんへの愛は間違いなくわたしの方が上なんだから絶対に負けられない。
わたしは決意を胸にマンションに帰ってきた。
「……ただいま」
玄関に入って靴を見ると、まだお兄ちゃんと海里しかいない。
リビングには電気が点いていて、何やら賑やかな声が聞こえてくる。
なにこの、嫌な……予感。
「おにい、めっちゃ頭いいじゃーん」
「当たり前だろ。これ中学の問題なんだし」
「えー? でもあたし全然わかんないしー」
「それはお前が勉強してこなかったからだろ! ほら、次やるぞ」
「はーいっ」
リビングに繋がるドアから、中で二人が仲良さそうに勉強をしているのが見える。
……は?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
「海里とお兄ちゃんが、いつの間にか和解してる……?」
あの金髪不良妹……昨日はあれだけわたしのことブラコンとか言って馬鹿にしてきたくせに……自分だってメスの顔して……。
絶対に許さない。
「こうなった以上。この後"義妹会議"を開くわ」
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