3話 ギャルのお悩み相談
海里からその豊満な胸を当てられながら「悩みを聞いてほしい」と言われた俺は、生唾を飲むと小さく頷いた。
「わ、分かった。悩みを聞いてやるから今すぐ離れて準備しろ」
「やったっ。じゃあ今から爆速で準備するからねっ」
こうして俺と海里は、晩飯と海里の悩みを聞くためにマンションの隣にあるファミレスへ行くことに。
それにしても、さっき海里が言っていた"もっとすごいこと"って……なんだろう?
海里の着替えを待つ時間、ずっと海里の一言が引っかかっていた。
考えれば考えるほど、ピンク色の妄想が脳内に溢れかえってしまう。
あの大きくて柔らかい胸を好き放題できる、とか?
海里はギャルだし、中3とはいえ経験豊富そうだから有り得なくもないが……。
「い、いやいやいや! 海里は俺の妹なんだから、常識的に考えてそういうのはダメだろ……エロ同人じゃあるまいし!」
海里の支度を待ちながら玄関でどんどん湧いてくる雑念に首を振っていると、ドタドタと海里が廊下を走ってきた。
「おっまたー」
海里はさっき着ていた首元の緩いTシャツの上にレザー生地の黒い上着を羽織っており、金髪の上には黒いブランドもののキャップも被っている。
この程よくポイントを押さえながらも、ラフな格好なのがいかにもギャルっぽいよなぁ。
金髪には黒のファッションがよく似合うから、かなりおしゃれに見える。
こんなやつと隣を歩くのに、俺はダラッとした部屋着ってのはちょっと……。
「わ、悪い、やっぱ俺も着替えてくる」
「え? う、うん。いーけど」
ファミレスだから部屋着のルームウェアで行こうと思っていた俺だが、妹にそんな格好をされたら、少し意地を張りたくなる。
俺は部屋に戻ると、黒のスキニーを履き、白のTシャツとクローゼットに眠っていた革ジャンを羽織って部屋を出た。
「待たせてすまん。さ、行くか」
玄関で待たせていた海里に謝りながら、俺はポケットから鍵を取り出す。
「へぇ。おにいって……非モテ陰キャのくせに、そーいう服持ってんだね」
海里は意外と言わんばかりに目を丸くしながら俺の服を指差した。
「ば、バカにすんなよ! こ、これでも中学時代には彼女いたんだし」
「あーあれね。おにいが
「げっ……どうしてそれ」
そう、海里が言うように、俺はかつて2週間だけ同級生の美少女と付き合っていたことがあった……が、結局彼女から都合の良い財布にされて2週間で捨てられたことがあった。
それ以来俺は女子に対してコンプレックスを持つようになり、高校では女子と会話するのも極力避けてるくらいだ。
財布にされた経験がトラウマになって、女子に対して不信感を抱くようになり、女性恐怖症のような症状があるのかもしれない。
「ていうか、なんで俺が財布にされた話を一学年年下のお前が知ってるんだよ!」
「おにいの事ならなんでも知ってるっつの」
「は? 俺のことなら?」
「……っ、ほ、ほら! それよりも! 今はファミレス行ってあたしのお悩み相談!」
海里は玄関のドアを開けながら、俺の腕をグイグイっと引っ張る。
外へ出された俺はさっき取り出した鍵をしっかりかけると、海里と一緒にエレベーターで一階まで降りた。
なんだよ海里のやつ急に強引になって……そんなに腹減ってんのか?
エレベーターの壁にある縦長の鏡に、俺たち二人が並んで立つ姿が映っている。
「おにいも革ジャンだから、あたしらペアルックみたいじゃね?」
「そうか? でも俺の場合、お前みたいにスタイル良くないからダサく見えるかも」
「あははっ、それはマジでそう」
「少しはフォローしろよ」
海里とこうやって普通の会話をするのは何年ぶりだろうか。
いつの間にか金髪ギャルになっていた海里だが、隣でケラケラ笑う海里は昔の海里のままだった。
どれだけ見た目が変わっても、中身はあの頃と変わらないんだな……。
海里は中学に上がってからというもの、俺に対してかなり冷たくなり、お互いに笑い合えるような会話は一切無くなった。
海里がギャルになった上に反抗期にも入ったことで、俺に反抗的になったのは理解できるし、反抗期にはよくあることなのかもしれないが、原因は海里だけではない。
俺も……自分から海里や優梨と距離を置こうとしていたのかもしれない。
俺は美人姉妹の兄なのに、いつまでも冴えない見た目という劣等感が、俺と二人の妹たちの間に溝を作って行ったのだ。
「海里や優梨はいいよな。母さん譲りの顔面偏差値とスタイルがあって」
「はあ? そんなの当たり前! あたしが美人なのは生まれつきの天性のものだし、おにいがフツメンなのも同じことじゃん。まあ? 昔はおにいも神童だったのかもしれないけどー?」
「ぐっ……」
「おにいはあたしら美人姉妹が妹で良かったね? 普通、フツメン男はこんなに顔もスタイルも良い美人の隣には立てないしー」
海里はそのデカい胸をさらに張りながら、自慢げな口ぶりで鼻高々に話す。
昔から海里は自分のことが大好きな超ナルシストで、自己肯定感だけは周りの誰よりも高かった。
美少女であることは事実なので反論はできないが……ちょっとウザい。
「そ、そもそもお前たちみたいな飛び抜けた見た目の女子が他人だったら、近づこうとは思わないっての!」
「へっ……」
俺が言ったの同時にエレベーターが1階に到着したので、俺はエレベーターのドアが開くとそのままロビーへ出た。
「……ん?」
俺がエレベーターから出てロビーを歩く一方、なぜか海里は唖然とした面持ちをしながら、エレベーターの中で足を止めていた。
「海里ー? どした? 忘れ物か? それともトイレか?」
「……な、なんでもねーし!」
海里はキャップを少し深めに被り直すと、エレベーターから出てきた。
今日はずっと様子が変だから、特に珍しくも思わなかったが、さっきまで意気揚々としていた割に、海里は気難しい顔をしていた。
✳︎✳︎
ファミレスに到着すると俺たちは4人掛けのソファテーブルまで案内され、俺と海里は向かい合って座った。
「あたしはデミグラスハンバーグセットで。おにいは?」
「じゃあ俺はステーキセット、おろしポン酢ソースで」
「かしこまりました」
早々に注文を済ませると、さっそく俺は例の話を切り出す。
「な、悩みを聞く前にな……その、お前が言ってたすごいことってやつについて詳しく」
そう、悩み云々よりも俺はそれが気になって仕方なかった。
妹とはいえ、こんな胸も大きい女子からそんなこと言われたら気になるだろう……陰キャ童貞なんだから。
「あははっ! もー、おにいったらがっつきすぎ」
目の前に座る海里は笑いながらその長いピンクネイルで俺の鼻頭をデコピンする。
なんか、え、エロいな……。
「あたしが言ってた"すごいこと"っていうのはぁ……」
「お、おう」
俺はゴクリと生唾を飲み、さらに手元のお冷も飲み干す。
「あたしが口でぇ……」
「く、口?」
ま、まさか……それって! ふ、ふふふぇっ!
「ちゅー、したげるってこと」
「……は?」
俺の思考は完全に停止した。
もっとどエロいことだと思ったのに……は? キス?
突然の静寂によって、さっき運ばれてきたお冷の氷がカランっと音を立てたのが耳に入った。
……ちょっと待て。
「お前の言う"すごいこと"っていうのは、まさかそれなのか?」
「なに? 文句あんの? さ、さっきは指だったけど! 今度はあたしの生の唇で、ちゅーしてあげるって言ってんの! こんなに恥ずかしいこと、2回も言わせんなし」
こ、こいつ、頭の中少女漫画なのか?
いや、最近の少女漫画は"行為"くらいは普通にしてるから少女漫画以下だな。
「はぁ……」
すごいって言うからどんなものかと思えば……所詮、海里はJC(女子高生)。
確かに海里の彼氏とかの噂は聞いたことなかったが……まさか、こんな"
俺はがっかりして肩を落とす。
「がっかりすんなし!」
「だってさ……」
「じゃ、じゃあ! あたしの悩みが解決したら、おにいが思ってたシたいことをする。それでどう?」
どう、と言われても……。
妹の身体を視姦するのはアウトだと思うが、俺はつい、海里の胸元に視線が行く。
ワンチャン、揉めたり……するのか?
妹のを揉むってのも完全にアウトだが、俺は金輪際女子と付き合わないだろうし、これが俺の人生におけるラストパイタッチチャンスと言っても過言ではない。
だが……妹の海里に向かって「胸を揉ませろ」だなんて、兄として倫理観が欠如した発言をしなければならないのも問題だよな。
「ま、まぁ……お願いってやつは後々考えるとして。とりあえず先にお前の悩みってのを聞こう」
「え、いいの? 悩み聞いてくれんの!?」
「ああ、そのためにファミレス来たんだから。ほら言ってみろよ」
「え、じゃあ、その……えっとさ……」
恥ずかしそうに視線をテーブルに落としながら、身体をモジモジさせる海里。
なぜか、さっきより恥ずかしそうだ。
その悩みってのは、こいつの中で「ちゅー」以上に言いづらいのだろうか……?
そもそもちゅーが恥ずかしいとか言う時点で幼稚なのだが。
「あ! あたし……」
俯き顔だった海里は俺の目を見ると、やっとしっかり口を開く。
「お、おにいと……同じ高校行きたい」
「え……」
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