2話 妹たちの企み


 いつもなら絶対にしない勉強をしてたり、やけに正直だったり……。

 海里の様子がおかしいのは、かなり気になるが……ここは一旦スルーしよう。


「お、俺、部屋に戻るから」

「……うん」


 俺は様子のおかしい海里を置いて、リビングを後にする。

 一体全体、何が起きたのかは知らないが、あの赤点常習犯のレッテルを貼られている金髪ギャルの海里が熱心に勉強するなんて、やっぱ異常だ。

 あいつ、本当にどうしたんだ……? まさか変なものでも拾い食いしたんじゃないだろうな?


 俺は自室に戻り、制服から部屋着に着替えながら状況を整理する。


 俺の双子の妹は容姿こそ周りより何倍も飛び抜けているが、中身まで全く同じという訳ではなく、双子とはいえそれぞれに得手不得手がある。

 特に勉強においてはかなり大きな差があり、リビングにいた金髪ギャルの海里は、優等生の優梨と違って勉強が大の苦手だ。


 母さんに聞いた話だと、中学のテストでも毎回赤点で最下位周辺をウロウロしてるらしい。

 見た目だけは、元ファッションモデルの母さん譲りで、海里は優梨と同様にハイスペックなのだが、頭の中身だけはロースペどころか化石。

 そんな海里が真面目に勉強をしてるだけでもどうかしてるのに、その上やけに素直。


「靴下を片付けたお礼まで言われる始末だし……こんなの、小学生の時以来だよな」


 小学生の頃の海里は気が強くて男勝りな一面があり、いつも優梨を泣かせていたが、兄である俺に対してはやけに懐いてくれてたし、いつも素直だった。


「今となっては反抗的なただのギャルなんだけど……」


 俺が着替えをしながら海里のことを考えていると、突然、部屋のドアがノックされる。

 それを聞いてすぐに部屋着に着替えを済ませた俺が「大丈夫だぞ」と言うと、廊下から制服姿の優梨が入ってきた。


「おかえりお兄ちゃん。わたし、そろそろ塾に行くね」

「あ、ああ。そっか、もうそんな時間か」


 黒髪ロングのゆるふわ系清楚美少女というイメージがとてもよく似合う俺の妹・優梨。

 優梨は近所の塾に通っており、いつもこの時間になると、俺に一言「今から塾に行く」と残して家を出るのだ。

 そうだ。優梨に海里のこと聞いてみよう。

 何か知ってるかもだし。


「優梨、あのさ」

「どうしたのお兄ちゃん?」

「なんていうか……今日の海里の様子、おかしくないか」

「おかしい?」


 優梨は眉を顰めて、首を傾げる。

 俺が抽象的に言ったからか、困惑した様子だ。


「え、えっと。あいつ、いつもは勉強なんか滅多にしないのに、さっきリビングで数学のテキストやってたんだよ!」

「あの海里がリビングでテキストを……? あれ? でもわたしには『友達と電話するからリビングには来ないで』って言ってたけど」


 は? 海里のやつ、言ってることとやってる事が矛盾してるじゃないか。

 なおさら意味がわからなくなった。

 どうしてコソコソ勉強してるんだあいつ?

 どうせやるなら、優梨に教えてもらいながらやればいいのに。


「そんなことよりお兄ちゃん、ちょっと話したいことあって。いいかな?」

「別に構わないけど。なんだよ改まって」

「えっと……この前さ、トイレのことでキツい言い方してごめんね?」

「トイレの……? ああ」


 優梨から自分のトイレの後はすぐに入らないで、と言われた時のことを思い出す。


「あんな言い方したらお兄ちゃんも嫌な気持ちになるなって後から反省して……だからごめん!」

「いやいや優梨の言う通りだと思ったし、これからも気をつけるよ」

「ありがとうお兄ちゃん。あの時のわたし……実は女の子の日が近かったから、ちょっとイライラしてて」

「おっ……そ、そうか」


 お、おおお、女の子の日って……そういうことだよな。

 優梨が頬を赤くしながら言うので、俺は色々と考えてしまう。

 胸などの身体つきからして、優梨も大きくなっていることは分かっていたが……色んな意味で大人になっているんだな。


「俺の方こそ、デリカシーなくてごめんな」

「ううん……でもさ、これで仲直りだよね?」

「お、おう」


 優梨はニコッと笑ってから「じゃあ塾行ってきます」と言って、廊下をとてとて走って行った。


 やべえ。我が妹ながら可愛いな……優梨は。

 だけどここ数年はあの優梨でさえも、兄の俺に対して冷たかったような。

 毎日女の子の日って訳でもあるまいし……。

 俺が部屋であれこれ考えていると、突然スマホに着信が入る。

 どうやら母さんからだ。


「もしもし母さん?」

『あ、悠人? ごめーん、お仕事が長引きそうだから、今夜は適当にファミレスとかで済ませておいてもらえる?』

「うん。海里にもそう伝えとくよ」

『ありがとねー』


 俺は電話を切ると、部屋を出て再びリビングにいる海里の元へ向かう。


「おーい海里、今日は母さんが遅くなるから……」


 リビングに入ると、海里はまたしても俺が入ってきたのに驚きながら、テーブルの上のテキストを身体で隠した。


「のっ、ノックしてよ! バカおにい!」

「リビングのドアなんかノックしないだろ普通!」


 海里は怪訝そうな顔で俺を見てきた。


「そもそもなんでこっそり勉強なんてしてるんだ? 優梨に教えて貰えばいいのに」

「……うっさい!」


 海里はムシャクシャした様子で金髪を掻きながら、テキストを持って立ち上がると俺を素通りしてどこかへ行こうとする。


「ちょっと待て海里! 今日のお前、色々とおかし」


 俺が海里の肩を掴んだ瞬間、海里は俺の方をギロっと睨んだ。

 やばい——殴られっ。


 ビビった俺が目を瞑った刹那——俺の唇に柔らかい感触が伝わる。

 むにゅっとしていて、優しい感覚で。


 まさかこれ、キs——。


 目を開けると、海里の人差し指が俺の唇に当たっていた。


「うるさい口は、こうしてやるし」

「か、海里?」


 海里は俺の唇を撫でたその人差し指を自分の口元まで運ぶと、自分のピンク色の下唇に当てた。


 お、おい……それ、間接キス……っ。


 艶かしく自分の唇を撫でる指を目の当たりにした俺は、ゾクっと身体を反応させる。


「お、おおお、おまっ!」

「なに? もしかして動揺してんの? あたしらなんだから、普通、気にしないでしょ」


 そう言うと、今度はわざとらしくその豊満な胸を俺の腹部に押し当てて来る。

 今まで触れてきた何よりも男心を擽ぐる感触が俺の身体に伝わった。

 ビーズクッションよりも柔らかくて、正月の餅よりも弾力があって、何より人肌の温もりがあるのがリアルすぎて……。

 外見からして分かりきっていたことだが、ここまで海里の胸が大きくなっていたとは知らなかった。

 中学3年生とは思えないくらいの発育の良さで、雑誌でよく見かける巨乳グラドルの胸の大きさとほぼ変わらないだろう。


「おにいさ、もしあたしの悩みを聞いてくれるなら、もっとすごいこと……シたげようか?」


 もっと……すごい。

 ごくり、と生唾を飲み込む。


「この後ファミレス行くんしょ? じゃあそこで話そ?」


 その時の海里は、何か企んでいる時の目をしていた。

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