第2話 いつになったら
そんな鉄の心を持った暁絵がこの週末はやけに大人しい。いつもなら隣から聞こえてくる大きな笑い声が聞こえて来ない。
ちょっと心配で、窓から覗いてみたりする。
日曜の朝、わが家のペット、トイプードルのマロンを散歩させに、公園に行った。この間まで咲きほこっていた公園の桜の花は、鮮やかな緑色の葉に代わっている。初夏っていつ頃からを言うのだろう。そんな事を考えている時に目に入ったのは、公園のブランコを一人で漕いでいる人影。
暁絵だ。ブルー系のチェック柄のシャツに淡いベージュのデニムのパンツスタイルで、上にペールグリーンのカーディガンを羽織っている。カジュアルだけど、オシャレしてこれからどこかへ行きますって感じの、今日の青空に映える服だ。
「一人でこんな所で何してんだよ」
「私ね、南先輩とのデート、今日ダメになっちゃった……」
「え……?」
そうだ。最近の暁絵のブームは南先輩で、バレンタインの告白が上手くいったとかで、この日曜日には一緒にハイキングに行くと張り切っていた。その準備に忙しくて昨日は静かだったのか。
「南先輩、急に都合が悪くなったんだな」
「どうかなー。待ち合わせ場所に来ないんで電話したら、今日はやっぱ行けないからって。「今度にする?」ってきいたら、何かイヤそうな雰囲気だった」
電話で空気を読めるようになったんなら、暁絵も少しは進歩したのかな。
「せっかく昨日は一生懸命、着ていく服や何か準備したのに。どうして私はいつもダメなのかなぁ」
「何だよ、いきなり弱気になって。らしくないからやめろよ。いつも超がつくほど前向きなのがいいとこだって自分で自慢してたくせに」
「さすがにね。高二にもなると、気になるよ。恋も部活もゲームも全部駄目だし」
暁絵は、高校に入学してすぐ入ったバレーボール部を一年で辞めていた。なかなか上達しない事で、上級生やコーチから苦言ってのかな、言われたらしい。本人は、自分に合ってなかったと言ってるけど、結構キツイ事を言われたんじゃないかな。当事者じゃないから、これははっきりとは分からないけど。
「でも帰宅部は、ウチの高校にもいるからさ」
「
「付き合ってる相手のいないのは、俺達の年じゃけっこういるよ」
「でも私みたいに何度も告った子で、付き合ってないのって珍しくない?」
なかなかスルドくて返せなかった。
「こんな風に今はしょげてても、きっとすぐに忘れちゃうのよね」
「それでいいじゃん。忘れて正解!」
「ダメなの。そういうのがもうイヤになった。こっちを振り向いてくれるような誰かと会ったり、特技を見つけて、地に足をつけたい。両思いだったり、すごく才能があったり。そういうのに憧れる。どうやったらそんな風になれるかな」
「そんなの見つけてる人なんてあんま、いないと思うよ。俺だってそうだし」
「いや紬生は違うよ。第一志望の大学に余裕で行けそうな偏差値だって言ってたし、子どもの頃一緒に始めたギターだってめちゃ上手だもん。プロにスカウトされる位」
「あ〜。あれはよく分かんないアイドル事務所だった。断ったし」
「わぁ、もったいない。私なら飛び付くのに」
「ほら。そうやってすぐに飛び付くから、地に足がつかないんだぞ」
「どうしたらいい?」
「そういうのを見つけてる人生の先輩にきいてみたら?」
「え?」
「行こうぜ、萌香珈琲店に」
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