無人島に行ったらどうする?
下之森茂
フロッピー・ガール。
『無人島に行ったらどうする?』
幼い頃に、だれだって一度くらいは想像した。
小学校のクラス内調査で、
そんな企画があった。
現実的にどんな道具を持っていくか考えたり、
友達とバカンスに行くのような感覚でいたり、
ときにはヤバいアイディアに笑い合った。
それで結局、私はなんて書いた?
◆
私はいま、無人島にいます。
実際、
道具なんてなにも準備していない。
というか、島かどうかもわかんないし、
無人かどうかさえも確認できない。
遭難しに来たわけじゃないし、
遭難を目的としたならそれは本当に
遭難と呼べるんだろうか。
旅行用に持ってきたキャリーバッグも失い、
砂と海水に
それに日焼けしたのか、首周りが痛かゆい。
突き刺すような日差しが痛いんだ。
こんな放置プレイは趣味じゃない。
私はまず川を探して海岸線を歩く。
こんなときは川を探せと、
ガールスカウトで習った気がする。
真水の確保が生死を
靴が流されていないのが救いだ。
スリッポンシューズで砂浜を歩く。
払っても落ちない砂だらけの靴は、
履いていないほうが開放的な気さえする。
私のキャリーバッグ、流れ着いてないかな。
なんてのん気で
見つけたのは流れ着いた死体だった。
うつ
あ、
死後
ドラマに出てくる
できたてホヤホヤ
実は死んでないかもしれない。
金色の派手なネックレスをした死体には、
ハエが大量に集まっている。
できれば近づきたくない。
それから手になにかを
なんだろうなと目を細めて
ひと目でそれがヤバい
オモチャ? 本物?
私は死体の手から銃を取ろうとした。
握られているが手はもう
棒に力を入れるとベロリと嫌な感触が伝わり、
なんとか引き離せた。
死体から離れた
砂に埋めて
付着物はたぶん
自分の身を守る道具になるかもしれない。
銃声で、通りすがりの船に
助けを呼べる可能性もある。
銃があれば、狩りの道具になるかな。
動物なんて
でも触りたくない。
だって死体が触ってたものなんて。
私の脳内はもうぐちゃぐちゃだ。
もうそれでいいや。どうせ答えは出ない。
シュレーディンガーの死体。
死体じゃなくてたぶん人形。
拾い上げるととても重い。
スマホなんて
海外旅行をする場合、
強盗に
強盗たちに爆弾を巻かれ、
人質になる危険性だってある。
強盗じゃなくてテロリストか。
そう! いつ、いかなる状況でも
覚悟と経験がものを言う。
そんな私は実はなんと、
行った経験はあるんだけど、1発撃って
恐ろしくなった
拾ったのはたぶん、映画でよく見る銃。
いや、
銃って金属じゃないんだよね。
なにで出来てるのかは知らない。
超合金? あ、プラスチックだっけ?
捨てる時は資源ごみ? 不燃ごみ?
その前に
銃は私の小さく
死体が持っていた、なんて考えなければ…。
海水に
火薬?
花火じゃないから大丈夫?
映画だと本体を
でもバラせるだけの専門知識なんてない。
重たいお守り程度って考えとこう。
なんであの人は死んでたんだろ。
軍人かな? マフィア? ヤクザかも。
パチンコ通いのおっさんみたいな、
純金風ネックレスをこれ見よがしにしていた。
私の店にもよく来る。こないで欲しい。
そもそも銃なんて持ってたら泳げないじゃん。
って考えると答えはひとつじゃん…。ひぇ…。
私は自分の考えにへたり込んで、銃を握る。
私も
泳いでたどり着いたわけじゃない。泳げんし。
手ぶらの私が
ナイフのほうが良かったかな…。
ナイフがあってもサバイバルはできない。
ナイフで木に日数を刻むやつをやるほど
長期
スマホがあれば助けを呼べただろうけど、
こんな
衛星対応のスマホとか?
GPSってなんだっけ?
ゲーム機でもあれば、
現実逃避できたかもしれない。
でも、助けが来るより先に
バッテリーが
遊べてもせいぜい1日だし。
ゲームもそんなに遊ばないほうだった。
コンパスと紙と鉛筆があれば地図が書ける。
あったところで無人島だったら、
助かるって
三角関数ってあれ、どうやるんだっけ?
あぁ、まず日焼け止めが欲しい。
いや、その前に身体洗いたい…。
てか、それ以前に帰りたい。
日陰を歩き、海岸沿いから川を探す。
この気持ち悪い服を洗いたい。
このギシギシになった髪を洗いたい。
首まわりが気持ち悪い…。
シャンプー…コンディショナー…。
見たことのないハエが私にたかる。
見たことあっても詳しくない。
ひぇっ!
ゴキ…! ゴキいるじゃん。
無人島なのにゴキブリがいる…。
あいつみたいなやつだ…。
殺虫剤があったら
あぁ…もうやだ…もういやだ…!
ゴツゴツした石や木の根を踏んで足が痛い。
重たい銃なんかより、いい感じの棒を
杖にした方がよかったかも。
長時間歩いて、時計がないからわかんないが、
ようやく小さな湧き水の出る岩に出会った。
これ飲めるの?
お腹下すんじゃない?
ひとまず乾いた口をすすぐ。
神社の
それから顔を洗う。
砂だらけの髪を、頭を洗う。
異物感がまとわりつく首まわりを洗う。
冷たくてめちゃくちゃ気持ちがいい。
下着姿になってジーンズを洗う。
ついでにシューズも洗ったれ!
赤くなった肌を洗う。
なんでこんなことになったんだろう…。
◆
会社のメールアドレスに、
私を知る人物から一方的なメールが届いた。
メアドを教えた覚えはない。たぶん。
メールの内容はなにかの旅行の
自分は小学校6年生のときの
たしかにそんな名前のやついたな。
10年も昔の話だ。
それから
100万円が振り込まれていた。
口座番号を教えた覚えもない。
たしか
だいたいの女子に告白していた。
私もそのだいたいに
そんなんはどうでもいい。
友達のアヤメちゃんも
アヤメちゃんをあんなやつに
となって、ボコって泣かせた記憶が
親ガチャでマウントを取ってくる
私は心底嫌い、
この場合、たぶん私は悪くない。
血に
はず。
あいつはいつも得意げに
指や口笛を吹き鳴らす
小学校の卒業が近づくと、
私とアヤメちゃんは卒業文集の担当になった。
そして、同級生たちに
様々なクラス内調査を企画をしたのが、
同じクラスの
そんなやつから突然、
賞金1億ドルという、
ゲーム企画に招待された。
あいつは有名ストリーマー感覚で、
10年経ってもこんな小学生みたいな
企画で遊んでるんだろうか? ヤバ。
洗剤を売りつける同級生みたいなやつだ。
招待とかどうでもいいから
さっさと1
先の100万円は
1万円だけ
私は
1万ぽっちで伸ばしに伸ばした返済期限を
さらにパスタのように伸ばして貰い、
残りのお金で私は現実逃避の
バカンスという名の
返す気なんて、
だって親が勝手に作った借金だし…。
両親は地獄で頑張って返済してくれ。
そんなバカンスのつもりで乗った飛行機から、
なんで私はこんな場所にひとりでいるのさ?
中学以降の
あいつと同じクラスにはならなかったし、
さらにいえば高校時代は別の学校だった。
父親の会社が潰れて多額の借金を背負い、
私はアヤメちゃんと同じ学校どころか、
高校はまともに通えなくなった。
小学校では
中学以降もあいつは2
別のクラスの知らない女子から
良く相談されたが、アヤメちゃんとも
無関係だったので関わり合いを避けた。
後にも先にも、あいつをボコったのは、
女子のなかでは私だけだったそうだ。
あぁやっぱり、思い出すだけで腹が立つ。
◆
海水と砂を洗い落とした服は
適当な木に干して、
青い水平線を眺めて途方に
もしもこの状況で助けが来たら、
下着姿で服を振って助けを呼ぶくらい
してやるとも。
打ち上げられたヤバい死体と一緒に、
若くして人生を終わらせるより、
借金
まあ生きて帰ったところで、
借金を返す気はないけどね。
洗濯乾燥機がなくても服は乾いた。
あっ、ジーンズは股間が半乾きだ。
洗剤も柔軟剤もないせいで
着心地が悪く、少し
下着姿でうろついて変な虫に
刺されて病気で死ぬのも
そういえばあのクラス内調査、
なんて書いたかな。
『無人島に行ったらどうする?』
人数や道具の有無に指定はなかったし、
ひとつだけとも書いてなかった気がする。
グループ行動して大人しく救助を待つか、
メガネとホラ
サバイバルナイフや
使ったことのない道具って役に立つの?
使えもしない銃を持ってる私も同じか。
アヤメちゃんは料理道具一式って、
女子力高めに書いていた記憶がある。
サマーキャンプでもあるまいし…。
と思ったのはいまでも内緒だ。
私は昔の記憶で気を
食べ物を探して湧き水の近くを
首まわりがかゆい。
洗ってもまだ首がかゆくて痛い。
腕もぽつぽつ赤くかぶれている。
あぁ、横になりたい。ベッドが欲しい。
そこで寝て、起きたら夢でした。
ってならないかな。
料理はしないけど対面キッチンも欲しい。
もちろんエアコンは備え付けのとこ。
最上階、エレベーターとオートロック
入り口にはコンシェルジュサービスがあって、
宅配便のロッカーもあれば助かる。
ホームシアターとアイスクリーム、
冷蔵庫にはピザとケーキがあって、
ワインは赤白、紙パックのでも充分。
歯ブラシとドライヤー、化粧水も必須。
銃の安全装置を
どっちがオンオフかなんてわからない。
引き金なんて怖くて触れない。
そんな時に、第一島民に出会った。
たぶん、島民ではなかった。
あれ、アヤメちゃん?
その顔には見覚えがある。
中学時代までの幼なじみっぽい。
整った
曲がった耳の形までよく似ている。
高校が別れて以来、
まともに会って話した覚えはない。
彼女の母親は
ってウワサも耳にした。
島民はアヤメちゃんに似た女性で、
顔は
目は
銃を握っていた私と目が合うと、
その速度は都市伝説に語られる
ダッシュババアの
私は
なにかをわめいた。
銃口を向けて相手を
鬼の
怖くなって引き金を引いた。
安全装置が外れてたし、
銃口から問題なく弾は出たし、
音に
倒れた相手に
オモチャじゃなかったし、
右の
すっごく痛そうな
これ、本当に私の
「…大丈夫?」
声をかけてみたが返事がない。
ちゃんと声が出たのかも
私はかわいい子犬のように
あ、これって
また
銃まで
普通に
こんな対応は絶対できなかった。
現実感がないから
まともに税金も
「あんた…
あんたのせいだ…
あんたのせいだっ!」
女の声は、アヤメちゃんの声に聞こえる。
キレてドスを効かせたときの
同じような口調で、あの
少女の
「ごめん…当たるとは思わなかった。」
なんなら当てたことにまだ
アヤメちゃんっぽい女はこんな
黒色のジャケットを着ている。
それにダサい金のネックレス。
首周りに余裕がなくて、サイズ間違えてない?
それって
「あんたが悪い!
全部あんたが…っ!」
話している途中で大量の
私は
会話になりそうにないし、
というかそっちが
私にひとこと
この
「あんたが、あんなこと書くから…」
なんの話? とたずねる前に、
女は
この女は私を知っていて、
なんでこんなとこにいるのさ。
彼氏を
そんな客はいくらでもいる。
この女の言う「あんなこと」ってなに?
ここに来て、なにかを書いた覚えはない。
地図を書こうにも道具もないし。
あっ、砂浜に
もともと
職場や店の誰にも言ってない
SNSにもそんなのわざわざ書かない。
私自身、どこにいるのかさえ知らない。
スマホもない。
キャリーバッグもなんにもない。
それに100万円をくれた
ひと
そうだっ!
元はといえば
あいつが100万円を振り込んだからだ。
勝者に賞金1億ドルの企画とか、
アホなスパムメールを
私に送りつけたからだ。
こんな事になって10年は会ってない
首がかゆくてイライラする。
いつ
仕組みがわからないから外せやしない。
これ勝手に付けたやつ、
あとで必ずボコってやる!
かゆいし絶対、
『無人島に行ったらどうする?』
それで結局、私はなんて書いた?
(了)
あとがき
来週(05/20)も別の作品を投稿予定です。
ブログ・Twitterなどでも告知します。
ブックマーク、フォローなど
よろしくお願いします。
(外部サイト)
https://shimonomori.art.blog/
https://twitter.com/UTF_shimonomori/
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