第43話 セリナの訓練
ファノンたちがセリスを奪還してイストに入ってから、聖都での動きは表向きにはなにもなかった。
タイミング的にすぐ夏季休暇に入ったためと推測されたのだが、それを利用してあることが行われている。
「斬り込む瞬間魔力出力を上げ、身体全体で踏み込んでパワーを剣戟に乗せよ」
「っ――――!」
それに気を取られたセリスをセリナは蹴り飛ばした。
「――――」
その蹴り飛ばした瞬間にエルザが斜め後方から迫る。
通常であれば蹴り終わりで一呼吸の
二枚羽が腰を落とした瞬間広がり、セリナが踏み込んむことで押し出すように羽ばたく。
もうすぐそこという距離でセリナが同じように斬り込んだことで、エルザの顔には逆に焦りが出ていた。
強烈な剣の弾かれる音が響き、エルザは身体ごと何メートルも凄まじい速度で弾かれてしまう。
「ヴァルキュリア戦術同士の戦いに於いては、どれだけ自在に魔力コントロールができるかが鍵となる。
さらに同じヴァルキュリア戦術でも系統によって出力も異なる。
風のヴァルキュリア戦術のエルザは特にこの部分は意識せよ」
「は、はい」
「そしてセリス。ヴァルキュリアが消えてしまったのは発現できるようになって間もないことを考えれば仕方ないところではある。
だがそれに気を取られることはあってはならぬ。
想定外というのはどんな状況であろうと起こりうるもの。
たとえそのようなことがあっても相手は待ってはくれぬのだから、そのなかでリスクを抑えるための動きを取れ」
「――わかりました」
「休憩とする。――治癒を頼む」
訓練が行われているのは町の外で、待機していた神聖魔法を扱える者にセリナが声をかけた。
セリスとエルザは身体中に
いくら
衝撃に変換される訓練設備がないのだから、身体中
「なにを焦ってるんだ?」
背もたれなどには布が張られた折りたたみイスで、ゆったりしたした姿勢から本を読んでいたファノンが声をかけた。
戻ってきたセリナは難しい顔をして汗を拭っていたが、ファノンの視線に気づいたからか表情を変える。
「焦ってなどいない」
「そうか?」
そもそもなぜセリナが訓練をしているのかは、ファノンたちがイストに入った三週間ほど前にまでさかのぼる。
「騎士団がどう動くのかにもよるが、多少の時間的猶予はあるだろう。
その時間を使い、お前をヴァルキュリア戦術を発現できるようにしてやろう」
「え?! 本当ですか? 私がヴァルキュリア戦術を?」
「そうだ。順調にいけば一週間、長くても二週間でそこまで持っていく」
初めからセリスが使えるようになることが前提のようなセリナの言葉。
だがヴァルキュリア戦術は誰もが憧れる最強戦術であり、努力したからといって発現できるようになるような代物ではない。
それだけにセリスが示した反応は普通の反応でもあった。
「最大限の配慮はしたが、騎士団とことを構えたという事実は変わらぬ。
そしてヴァルキュリア戦術を使えるのを知られた以上、動きがある場合騎士団長が
出てくることは
討伐訓練でのネビュラもあるしな……。」
ここまで口にするとセリナの言葉は止まり、視線は床に向けられる。
いつも冷静で動じるようなことなどないセリナが珍しく眉間にしわを寄せ、思いを
「守りたいと思うものがあっても力がなければそれはできず、目の前で失いながら自分の力のなさを
ならばそれに抗うだけの力を持つ以外にはなかろう?」
これが今の訓練をすることの発端。そしてセリナの言った通り、ヴァルキュリアを発現するまでに要したのは六日であった。
そこからは実戦形式での訓練となり、実戦でヴァルキュリア戦術を制御することをひたすら身体に覚えさせるという訓練となる。
ファノンはというと、ことヴァルキュリア戦術に於いてはできることがなかったというのが実情だった。
雷のヴァルキュリア戦術は別物と言われていただけあり、他のものと違って理論などが介入できるような代物ではなかったからだ。
ただただそういう魔法であるとしか言えないもの。
これはファノンが使えるからわかることであったが、他のヴァルキュリア戦術が模倣というのも理解できることだった。
そういう意味でこの訓練はファノンにできることはなく、セリナ以外にできることでもなかったのだ。
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