第40話 雷のヴァルキュリア
セリナとジランは早々に決着がつくことになったが、ファノンとカイルの戦闘は続いている。
こっちはどちらもヴァルキュリア戦術が使われている戦闘であり、歴史的に見てもこんなことはそうあることではない。
そんな二人の戦闘を見てセリナは目を細めた。
「オリジナルは別物だと言われているが……。あのスピードでは付いていくのも一苦労か」
「豪炎のヴァルキュリアを使っていたセリナさんからはそう見えるんですか?」
鋭い視線で観察しているセリナにエルザが問いかける。
「私が使えるのは二枚羽までだが、四枚羽のレイア・メディアスでもよくて同等というところであろうな。
一見
正面で
カイルは焦りが顔に出ながらもすぐに視線を移す。
視線を移した左側面ではすでにファノンが腰を落とし、
ここで大剣を振って受けていてはファノンの振りにカイルは間に合わない。
結果カイルは大剣を振って受けるのではなく、一番近い大剣の根本をズラスように移動させて間に割り込ませる。
だがそれは間に大剣を置くだけのものであり、とてもファノンの刀を受けられる態勢ではない。
ファノンが刀をギュッと握り込むと
「ぐっ――――」
いくら大剣で直撃を
斬撃の衝撃で弾かれたカイルは強引に地面に手をつきにいって制御する。
「っ――――! やべぇ」
片手をついたカイルが顔を上げた先にはファノンが空中ですでに魔法の発現に入っていた。
さっきと同じようにファノンが
「
ファノンが刀を払うように勢いよく振ると雷の球体は切っ先に引き寄せられるように追随し、勢いをさらに加速させてカイルへと放たれる。
カイルは大きく後ろへと飛び、ファノンとの距離を少しでも稼ぎながら
だが
「いっ――」
甲高い音が響いてカイルの顔が一瞬苦悶の色を示す。
「ファノンの攻撃速度が上回っているゆえ、あの魔族が剣を交えることができるのは三合から四合が限界。
剣を交えると徐々に反応の遅れが出る。そしてそれが
取り回しも大剣より刀の方に分があるだろうしな」
「あの魔法と二本の刀の聖遺、あれではまるで……」
「ほぼ間違いなく、伝説と言われている神騎の聖遺であろうな」
エルザが口にしたことを肯定するようにセリナは言う。
「通常雷属性はあそこまで出力が出ない属性。聖遺には固有の特殊な能力があると言われているゆえ、雷のヴァルキュリア戦術といい、あの魔法も聖遺によるものであろう」
セリナはエルザに答えるが、その間もセリスは口を閉じたまま。
泣きそうな目をしながら、それを堪えているような顔でファノンの戦闘を見つめ続ける。
「こっちも任務だからな、なにもせずに返すわけにはいかねぇんだ」
ファノンが斬り込む先にカイルの大剣が振り下ろされる。
コンマ何秒という狭間での駆け引き。カイルの目の前で雷が線となって消えた。
通常ではあり得ない移動速度。ファノンはカイルの左後方から間合いに入る。
カイルは大剣を振り下ろした直後であり、しかも右利きにとって最も対応がしにくい位置。
「――――!」
視線が交差。カイルの紫の目がファノンを捉える。
「レーヴァテイン!」
地面に叩きつけられた大剣が左手一本に持ち替えられ、背を向けたまま払われた。
大剣からはレーヴァテインの炎が
(速い――滑り込まれる)
だがこのタイミングではもうファノンは止まれない。
ファノンはレーヴァテインに対応するため、身体をひねることで回転の力を加えて受けに行く。
大剣が最も活かされる遠心力が加わった振りに、さらにレーヴァテインによる加速で重い。
打ち合った
だがその威力はまだ交わっているお互いの武器の間でぶつかり合っている状態。
レーヴァテインはさらに炎を燃焼させてファノンを
この打ち合いに敗れれば、今ぶつかり合っている威力が敗れた方に襲いかかる。
それをお互いわかっているため、この瞬間はお互いに競り勝つこと以外の選択肢はなかった。
「ああぁぁぁぁあああーーーー」
――――これが両手によるレーヴァテインであったならば、違う結果であった可能性もあるのかもしれないが。
甲高い雷の音が鳴り、ファノンが右手の
同時にレーヴァテインごと弾かれたカイルはそれを制御することなど不能。
「セリスは返してもらうっ――
カイルが弾かれている間にファノンは
地面を蹴り、弾かれているカイルとの距離を詰める。
一メートル大の三つの
「ぐぅっ――がぁあぁぁぁぁあ」
甲高い雷鳴が何重にも重なって響き渡ると、倒れたカイルからはヴァルキュリア戦術が消えていた。
「か、勝ったんですか? あの騎士団長に――」
「――――――」
エルザが半信半疑の目で口にすると、すぐ隣にいたセリスが走り出していた。
扉の方ではカイルが敗れたことにざわつき始める。
「ファノンさん! あの……ケガとかは……」
真っ先に走り寄ってきたセリスであったが、困惑した顔で言い
ファノンが握っていた聖遺が消えると、身体からバチバチと鳴っていた雷も消える。
銀色に変わっている浮いていた髪は雷が消えたことで下がり、ファノンの右手にはいつも使っている剣が握られていた。
「大丈夫だ」
「団長ぉー!」
シンがファノンに向かって叫ぶと、セリスは目を大きくした。
「撤退だ!」
「え? あの、団長って?」
わけがわからないというような顔をしていたセリスに、走り寄ってきたエルザが反応する。
「ファノンさんはルーク騎士団の団長だそうです」
「えぇ?!」
「俺たちは別方向から飛空艇と落ち合うぞ」
「…………」
セリナは奥にある建物に視線を向けて見ている。
そんなセリナにセリスが声をかけると、まるで自分を落ち着けるかのように深く一呼吸入れた。
「
ファノンたちは扉とは別方向にある壁を風魔法で越えて離脱。
セリスを護衛していた聖都の騎士団は、カイルとジランが倒されていたのもあって動くことはなかった。
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