第39話 百花繚乱
その姿を幻想的と感じる者もいるだろう。
銀世界によってキラキラと輝く空間に、火の粉が舞い散る二枚羽がセリナの背後に発現していた。
「――豪炎のヴァルキュリア戦術」
セリナの後ろ姿に、セリスの口から呟くように言葉が漏れる。
「すぐに終わってくれるなよ?」
「フ、フレイムバーストォ!」
ジランの豪炎の炎が炸裂するかと思われた瞬間、セリナの周囲に花が咲いたかのように凍結したなにかが出現する。
「な、なんだ!? どうして魔法が発現しない!?」
「見てわからないか? お前の魔法は今凍結したのがそうだ」
「そ、そんなはず――――」
セリナが言ったのは、ジランの魔法は発現していたが、それが炎として現れなかったということ。
炎として発現する前に、セリナの魔法に凍らされた結果だ。
どちらの魔法もお互いに干渉してしまうことで相殺され、その結果お互いの魔法が発現しないとかであればジランも納得できただろう。
だが実際はセリナの魔法だけが現れてすぐ消えている。
これは魔法に於いて、相当な差がなければ起き得ないことだった。
「確か魔法騎士は魔法だけではないんだったな?」
「っ――――」
セリナが初めて自分から動くために腰を落とす。
カイルのヴァルキュリア戦術とは違い、豪炎のヴァルキュリアは動きに合わせて羽が羽ばたいたり広がるような現象が起こる。
セリナが腰を落とすと炎の羽が広がり、地面を蹴った瞬間羽ばたくように下がった。
「キャス――――」
「――遅いな」
「ぷげぇっ――」
頬にセリナの膝が入り、奇っ怪な声をジランが漏らす。
セリナが着地で沈み込むように低い態勢になると、すぐ隣には膝蹴りで頭が下がっているジランの顔がある。
「打撃を受ける際は口を閉じた方がよいぞ」
左側にいるセリナと視線が合って、ジランは引きつった顔で右手の剣を払うように振ってきた。
「ここは魔法にするべきだな」
右利きのジランが左側面にいるセリナに攻撃するならば、この場合剣より魔法の方が速い。
しかもセリナがヴァルキュリア戦術を使っているとなればなおさらだ。
当然そんな剣ではセリナには届かず、軽くいなされる結果となる。
「い、いったいキミは何者だ? 学院生でありながら、キミの実力は異常と言わざるを得ない」
「そうだな。それについては同意しよう」
セリナは言うと、ファノンとカイルへ視線を向ける。
ファノンが移動するたびに落雷したような音が響き、同じヴァルキュリア戦術を使っているカイルが明らかに圧されている光景。
「まぁ、異常なのは私だけではないようだが」
「わかっているのかっ! キミたちはテロをしているんだぞ!」
「弱い者は敵わないとみると、今のお前のように非難を始める。そんなこといまさらであろう? もう終わらせてもらう――――
「っ――――」
上空に向かって放たれた
「これは最後まで引くことをしなかったお前に対する私からの
死ぬようなことにはならぬよう手心は加えるゆえな――――アークブレイズ」
上空に放たれた
炎と氷である赤と銀の花びらが混在した空間は幻想的であり、あり得ないような光景が広がる。
「――キャステル!」
「それはよい選択ではあったな」
上空に広がっている幻想的な花びらは数百ではきかない数となっている。
これを回避するのは不可能だと考えたのだろう。
だが実力差は明白であり、迎撃したとしても規模であっという間に負けてしまうことも明らか。
そうなると残るは防御魔法以外の選択肢はなかった。
土魔法の壁が三重で現れ、必死の形相でジランは魔法強度を上げる。
「――狂い咲け――――
セリナが剣を振り下ろし、舞っていた二色の花びらがすべてジランへと降り注ぐ。
一つ目の壁はあっさりと破壊され、二つ目の壁も割れた瞬間破片まで砕かれてしまう。
ジランの表情は、いつ襲ってくるともしれない二色の花びらに恐怖が色濃く現れていた。
そして三つ目の壁も五秒と保たず、ジランはその身に受けることになる。
ジランの姿は控えめに言ってもズタボロ。衣服は焼け焦げている場所と凍結している場所が数え切れない数となっている。
だが倒れたジランの息はあり、
「セリナさん、すごかったですが、生きてはいるんですか?」
「あれは本当は全方位攻撃だが、手心は加えたからな。治癒を受ければ問題ない程度に抑えてある。
今後どう転ぶかわからない以上、殺すことで要らぬ面倒になる可能性もあり得たからな」
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