第38話 セリスの到達点

 現存するヴァルキュリア戦術で最強と言われているのは、火と風の複合魔法である豪炎のヴァルキュリア戦術だ。

 これは理論的には出力が一番大きいからである。

 この豪炎のヴァルキュリアに次ぐのが二つ、火属性と風属性のヴァルキュリア。

 だが過去にはこれらのオリジナルとされている、雷のヴァルキュリアが存在したとされている。

 そして雷のヴァルキュリア戦術は、他の属性のものとはまったくの別物という。

 それがどう別物なのかを知る者はいないが。



「これはアンタに向けるべきものじゃないと思うが、セリスを連れ帰ると約束しているからな」


「……雷属性もあったのかよ」


「いや、俺はアンタが言っていたように水だけだ。雷系が使えるのは、これを使っているときだけだ」



 そう言うとファノンは、右手の刀を少しだけ持ち上げてカイルに示した。



「オリジナルのヴァルキュリア戦術を使っていた神騎の武器は、打刀うちがたな太刀たちの二刀流だったと確か言われていたな」



 ファノンの右手には六七センチの打刀うちがたな、左手には九〇センチある太刀たちが握られている。

 さらに雷のヴァルキュリア戦術が使われていることからカイルは言ったのだろう。

 だがこれにファノンはなにも答えず、刀のみねが前にくるように握り直す。

 そして左手の太刀たちの切っ先を右へ持ってくると、右手の打刀うちがたなみねを合わせる。

 太刀たちつばから打刀うちがたなを滑らせていくと、刀からほとばしる雷がさらに増していく。


「ウォーター」


 ファノンが太刀たちの切っ先まで打刀うちがたなを滑らせると、三つの雷を帯びた巨大な水弾が発現する。


「受け損ねるなよ」


 ファノンが地面を蹴った瞬間、落雷が起きたかのような音が響いて雷が弾けた。

 右肩の肩口を前に正面から突っ込む。焦ったような顔を浮かべたカイルが大剣を袈裟懸けに振り下ろす。

 タイミング的に速過ぎるように見えたが、左から払われたファノンの打刀うちがたなをしっかり抑えていた。


「――――」


 だがファノンにはもう一振り。さらに左から被せるように間合いが広い太刀たちが振るわれる。

 同時にファノンは太刀たちの動きに合わせるように打刀うちがたなを立て、つばの部分を上から被せる形で大剣の動きを制限した。


「くっ――――」


 ファノンによって防御行動が取れないカイルには回避以外の選択肢はない。

 カイルは地面に背中を打つことになるのもいとわず、後ろへと身体を投げ出していた。

 それはすきができる大きな動きであり、一見すると大げさな動きにも見える。

 だがカイルにはそれ以外に取れる動きがなかったというのが実情。

 ファノンの一撃目は打刀うちがたなによるもので距離が近いが、二振り目は間合いが広がる太刀たちであったからだ。


灰燼かいじん


 広範囲に炎が広がる灰燼かいじん。さっきサテライト・オーバーレイを消し去ったものより圧倒的に火力が高い。

 だがこれは攻撃ではなく、すきができているところに追撃をされないための弾幕。

 目の前の視界が灰燼かいじんの炎で塞がれ、カイルの場所は視認できない。

 激しい勢いで追撃を阻んでいる灰燼かいじんへ向かって、ファノンは展開していた水弾で追撃をかける。


「チっ――感知までされてるのかよっ」


 カイルが回避するのはファノンの想定通りであり、回避先へと斬り込んでいく。




「どうした? 時間稼ぎに徹していたようだが当てが外れたか?」


「…………」


「まぁお前のおかげで実力を知ることができた。団長クラスであればアヤツの実力も見えるだろうと思っていた。

 まさかオリジナルのヴァルキュリア戦術が見られるとは思っていなかったがな」


「……まるで私で時間稼ぎをしていたような言い方だね?」


「事実そうであるからな」



 セリナが口にしたことは、副団長であるジランを相手にいつでも勝負をつけられたと言外に言っていた。



「心外だね。確かに私の実力はキミに劣っていることは認めよう。だが守りに徹すれば時間を稼ぐことくらいはできる」


「わるいがその時間稼ぎももはや私には必要のないもの。お前程度に使う必要はないが、アレの後学のためだ」



 セリナはファノンの戦闘に一度視線を向けた後、セリスに声をかけた。



「セリス。今からお前が到達する姿を見せてやる」


 セリナの言葉に、セリスは少し困惑した顔を見せる。


「……私が到達する姿」


「そうだ。お前は氷属性が得意ゆえ、普段から氷属性を多様してしまっている。

 これから見せるのはお前が今後必要とする力。よく見ておけ」


 そして次の瞬間、セリナの背後には炎が発現する。


「ヴァルキュリア」

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